マツダの赤はどうしてヒトを惹きつける? 技術を集大成した最新のボディカラーが誕生

■「マツダ=赤」という強固なイメージ

5代目マツダ ファミリアのフロントビュー
1980年に登場したFFファミリアは「赤いファミリア」として時代を象徴する1台に

ヒトは有史以前から、モノの表面に色を付ける行為を続けてきました。ネアンデルタール人の身体彩画にはじまり、洞窟壁画、彩色土器…文字が発明されるより遙か昔から、人間は「色」を使って何かを表現してきたんですね。

そう考えると、私たちにとって「色」は言葉以上のメッセージを伝えてくれる存在なのかもしれません。

自動車の世界でも「色」はとても重要な役割を果たしています。長年にわたってクルマの色について消費者調査を行ってきた米アクサルタは、2021年の分析で「4大自動車生産国(中国、ドイツ、メキシコ、米国)の4000人以上の参加者(25〜60歳まで)の88%が、『購入する自動車を決める際の重要なポイントはボディカラーだった』と回答」したことを明らかにしています。

初代ユーノス ロードスターのフロントビュー
1989年に登場した初代ユーノス ロードスターといえばやはり赤のイメージ

とはいえ、人気のあるカラーはやはりホワイトやブラックといった無彩色。日本も同様の傾向が見られ、白・黒・シルバーが多勢を占めています。

そんななか、高い「赤」の支持率を誇っているのがマツダ。

マツダRX-8のフロントビュー
21世紀のロータリースポーツとして2003年に登場したマツダRX-8

これまでにも、“赤いファミリア”から初代ユーノス・ロードスター、RX-8など、赤が象徴的なモデルを輩出してきた同社。

80年代、90年代、2000年代と、赤いマツダ車は、それぞれの時代のクルマ好きの心に鮮やかな印象を刻んできました。クルマ好きの方の中には、「マツダ=赤」のイメージを抱いている方は多いのではないでしょうか。

2022年現在、そのイメージの立役者となっているのが、独特の艶やかで深みのある赤で人々を虜にしてきた「ソウルレッド」カラーです。

●熟練職人の塗装ワザを量産ラインで実現

マツダは、まるで熟練職人が手仕上げしたような塗面を量産ラインで実現する独自の技術を「匠塗(たくみぬり)」と呼び、10年前から導入してきました。

マツダの塗装色「ソウルレッド プレミアム メタリック」イメージ
マツダの塗装色「ソウルレッド プレミアム メタリック」。こちらは宝石のルビーを思わせる色味

その第1弾が、2012年にアテンザがまとった「ソウルレッド プレミアム メタリック」でした。“世界で最もエモーショナルな赤を追求”したソウルレッドは、翌年には広島東洋カープのヘルメットにも採用されたのが話題にもなりました。

2013年に発表した「ソウルレッド」カラーをまとった広島東洋カープのヘルメット
2013年に発表した広島東洋カープの「ソウルレッド」仕様ヘルメット

2017年には、「ソウルレッド クリスタル メタリック」と名前を変え、美しさを一段階アップした赤が2代目CX-5と共にデビュー。2018年9月〜2019年8月のグローバルでの販売比率では、ソウルレッドが20%以上を占める人気となりました。

ちなみに、匠塗は第1弾の「ソウルレッド プレミアム」からはじまり、第2弾の「マシーン グレイ プレミアム メタリック」、第3弾の「ソウルレッド クリスタル」、第4弾の「ロジウム ホワイト プレミアム メタリック」とバリエーションを増やしながら進化してきました。

●10年間の技術の集大成として生まれた新色

マツダが新開発した塗装色「アーティザンレッド プレミアム メタリック」イメージ
マツダが新開発した塗装色「アーティザンレッド プレミアム メタリック」。熟成を重ねたボルドーワインのような色味を実現

そして、第1弾の誕生から10年目を迎える2022年、マツダは進化の集大成として新色「アーティザンレッド プレミアム メタリック」を開発。2022年12月6日は、報道関係者向けに「新塗装色の発表会」という、じつにユニークなイベントが開催されました。

さて、その気になる色味はというと、これまでのソウルレッドが「鮮やかに煌めく宝石のルビー」なら、アーティザンレッドはまるで「熟成に熟成を重ねたボルドーワイン」のよう。

深くこっくりとした色味、いまにもとろけそうな滑らかで豊かな肌合い、影の部分は漆黒にさえ見えるくっきりとした陰影感があいまって、見る側を不思議な感覚に引きこむような塗面を実現しています。個人的には、シャネル ヴェルニのルージュ ヌワールあたりを彷彿させる蠱惑的な色味に感じました。

ソウルレッドで採用した人間が最も赤味を感じる高彩度顔料、ロジウムホワイトで導入した光を反射するアルミフレークを平滑/等間隔に並べる技術、マシーングレーの“影”の表現につかった漆黒顔料など、これまでに培ってきた技術の粋を組み合わせることで、アーティザンレッドは完成したといいます。

「いままでのどの技術が欠けても実現しませんでした」と同社デザイン本部 シニアクリエイティブエキスパートの岡本圭一さんは語っています。

●ワンチームだからこそ生まれたマツダ独自の赤

マツダの新塗装色「アーティザンレッド プレミアム メタリック」の報道関係者向け説明会に登壇した岡本圭一さん(写真左、デザイン本部)と河瀬英一さん(同右、技術本部)
マツダの新塗装色「アーティザンレッド プレミアム メタリック」の報道関係者向け説明会に登壇した岡本圭一さん(写真左)と河瀬英一さん。(photo by 井上誠)

また、第1弾のソウルレッドから“塗装の現場”を見つめ続けてきた技術本部 車両技術部 塗装技術グループの河瀬英一マネージャーは、匠塗技術を確立するために不可欠だったのが「共創(きょうそう)活動」だったと説明します。

自動車の塗装は、コンセプトを練り上げるデザイン部や、それを量産ラインで実現する生産技術部はもちろん、塗料メーカー、その塗料に混ぜ合わせる顔料のメーカー、塗装設備・機械の関係者など多くの人々との関わり合いの中で完成します。マツダでは、社内外のありとあらゆる人々と開発初期の段階からひとつのタスクチームとして「共創」するというユニークな体制で取り組むことで、唯一無二の赤を生み出してきたのです。

マツダの新塗装色「アーティザンレッド プレミアム メタリック」の報道関係者向け説明会に登壇したデザイン本部の中山 雅本部長
マツダの新塗装色「アーティザンレッド プレミアム メタリック」の報道関係者向け説明会に登壇したデザイン本部の中山 雅本部長(photo by 井上誠)

もちろん、美しさだけでなく、機能性(耐久性・耐候性・耐ピッチング性など)も確保すると同時に、CO2排出低減にも配慮しなければなりません。今回、新色完成の発表イベントに登壇した河瀬マネージャーの笑顔には、ワンチームで大きな苦境を乗り越えてアーティザンレッドを無事完成させた達成感がみなぎっているようにみえました。

マツダの新塗装色「アーティザンレッド プレミアム メタリック」の報道関係者向け説明会に登壇したデザイン本部のシニアクリエイティブエキスパート・岡本圭一さん
マツダ デザイン本部 シニアクリエイティブエキスパート・岡本圭一さん(photo by 井上誠)

一説によれば、赤色は人類が意識して使った最初の色と言われています。私たちに恵みをもたらす太陽、そして火の色でもある赤は、太古から神聖な色であると考えられてきたようです。

マツダの赤が魅力的なのは技術のたまもの。そしてその完成度の高い色に、もしかしたら私たちはDNAレベルで惹かれてしまうのかもしれません。

マツダの新塗装色「アーティザンレッド プレミアム メタリック」の報道関係者向け説明会に登壇した技術本部 車両技術部 塗装技術グループの河瀬英一マネージャー
マツダ 技術本部 車両技術部 塗装技術グループの河瀬英一マネージャー(photo by 井上誠)

マツダはこの新色の導入を記念して、アーティザンレッドを専用色として国内初採用したマツダ6の特別仕様「20th Anniversary Edition」を発売しました。このボディカラーを採用した国内唯一のモデルとしてリリースしています。

(文:三代やよい/写真:井上 誠)

この記事の著者

三代やよい 近影

三代やよい

自動車メーカー勤務後、編集・ライティング業に転身。メカ好きが高じて、クルマ、オートバイ、ロボット、船、航空機、鉄道などのライティングを生業に。乗り継いできた愛車は9割MT。ホットハッチとライトウェイトオープンスポーツに惹かれる体質。
生来の歴女ゆえ、名車のヒストリーを掘り起こすのが個人的趣味。
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