トヨタが「クルーガーV」の燃料電池車を中央官庁に納車。FCV市販車第1号としてリース販売を開始【今日は何の日?12月2日】

■SUV「クルーガーV」をベースにしたFCHVをリース販売

2002(平成14)年12月2日、トヨタは「クルーガーV」をベースにした燃料電池車の市販第1号車を中央官庁に納車しました。当日は、内閣官房と経済産業省、国土交通省、環境省の4ヶ所にリース販売され、首相官邸で盛大なセレモニーが行われました。

2002年リース販売が始まったFCHV(燃料電池ハイブリッド車)クルーガーV
2002年リース販売が始まったFCHV(燃料電池ハイブリッド車)クルーガーV

●究極のエコカーと呼ばれるFCV

FCV(燃料電池車)は、車載タンクに充填した水素と大気中の酸素を反応させて発電する燃料電池の電力を使って、モーターで走行します。EVの2次電池の代わりに燃料電池を搭載したシステムで、通常のガソリン車がガソリンを補給するように水素を補給します。

原理的には発生するのは水のみで、有害な排出ガスが出ない、エネルギー効率がガソリンエンジンの約2倍と高い、水素を製造するために天然ガスやエタノールなど多様な燃料が利用可能、1回の水素補給でガソリン車並みの航続距離が確保できるといったメリットがあり、“究極のエコカー”と呼ばれています。

当時、トヨタは減速時に減速エネルギーを回生して2次バッテリー(ニッケル水素)に充電するシステムを採用していることから、FCHV(燃料電池ハイブリッド)と呼んでいました。現在は、この手法はFCVのスタンダードとなっているので、最近はあえてFCHVという表現を使っていません。

●ベースとなったクルーガーVは、オフロードSUV

クルーガーVは、2000年11月に「ハリアー」のプラットフォームを使い、都会派SUVのハリアーに対してオフロード志向のSUVとしてデビュー。ボディは、ハリアーより全長が110mm、全高が55mm大きく、オフローダー色を強めた力強いスポーティなスタイリングが特徴でした。

2005年にデビューしたクルーガーV ハイブリッド
2005年にデビューしたクルーガーV ハイブリッド

エンジンは、2.4L直4 SOHCと3.0L V6 DOHCの2種で、駆動方式はフルタイム4WDとFFが用意されました。その後、2005年にハイブリッド4WD“E-FOUR”を追加。これは、前輪をエンジンとフロントモーター、後輪をリアモーターで駆動する電気式4WDで、走行状態に応じてFFから4WDまで自動制御するシステムです。

クルーガーVは、ハリアーの大ヒットに埋もれたかたちとなり、2007年に国内販売を終了しました。

●クルーガーVのFCHVが、ミライの開発へとつながった

トヨタは、1992年から本格的な燃料電池車の研究開発を始め、1996年には燃料の水素を吸蔵合金に貯蔵するタイプの燃料電池車を開発。1997年には、メタノールから水素を取り出す“メタノール改質型”燃料電池を搭載した試験車を世界で初めて公表しました。

2014年に市販化されたミライ
2014年に市販化されたミライ

クルーガーVのFCHVは、高圧水素タンクに貯蔵された水素を燃料に、独自開発の燃料電池スタックで最大90kWの電力を発生。パワーユニットのモーターは、最大出力109PS・最大トルク26.5kgmを発生し、最高速度は155km/h、航続距離300kmを達成しました。

当初のリース販売先は、内閣官房、経済産業省、国土交通省、環境省の4ケ所で、リース代は高額の月120万円です。納車された日には、首相官邸で盛大なセレモニーが開催されました。

クルーガーVのFCHVで採用された多くの技術が、2014年の「ミライ」の市販化につながったのです。


燃料電池は、10年程度の周期で脚光を浴びるブームが訪れます。2014年にトヨタ「ミライ」と2016年のホンダ「クラリティFCV」の市販化で大きなブームが起きました。今は停滞気味ですが、またブームが到来するかもしれませんね。

毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれません。

Mr.ソラン

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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