■クラス違いのフェアレディZを抜くほど速いBRZとGR86のCNF CONCEPT
10月15日(土)、16日(日)に岡山国際サーキットで開催された「ENEOS スーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankook 第6戦 スーパー耐久レースin岡山」。16日には決勝レースが行われました。
スーパー耐久シリーズは、概ね排気量やマシンの成り立ちによって9クラスに分けられ、その9クラスも予選などではST-3、ST-4、ST-5クラスとST-Qクラスで排気量の区分が前述の3クラスに相当するマシンをグループ2(Gr.2)、それ以外のST-X、ST-Z、ST-TCR、ST-1、ST-2をグループ1(Gr.1)として分けています。
この岡山国際サーキットとスポーツランドSUGOで開催されるレースは、競技として一度に走ることのできるマシンの数に限りがあるために、この予選の区分を使ってGr.2レースが午前、Gr.1レースが午後の各々3時間レースとして行われます。
スーパー耐久シリーズのなかでも注目が集まる、カーボンニュートラルの取り組みを行う3チーム4台のマシンは、全てGr.2に参加します。
この、カーボンニュートラルの取り組みを行うチームの中でガチンコで戦う2台のマシンが、岡山戦では注目を集めていました。
その2台とは、兄弟車と言われるトヨタGR86をベースとしたORC ROOKIE GR86 CNF Conceptと、SUBARU BRZをベースとしたTeam SDA Engineering BRZ CNF Concept。
ともに、工業過程で発生した二酸化炭素と水素を用いたガソリン代替え燃料「e-Fuel」と呼ばれるものでエンジンを回しています。すでに発生した二酸化炭素を燃料に取り込んだものを燃焼させるために、そのエンジン内での燃焼による二酸化炭素の新たな発生が起きないという点でカーボンニュートラルとなるもので、これらの燃料を総称してカーボンニュートラル燃料(CNF)と表現しています。
このトヨタとスバルは、兄弟車の車体と同じCNFを使うということで、ST-Q(※STOが認証するメーカーの開発車両/各クラスに該当しない車両によるクラス)の参加の中でも、唯一のガチンコライバルとなっています。
SUBARU BRZは2.4リッターの水平対向4気筒、つまり市販エンジンをベースに開発。トヨタGR86はGRヤリスのエンジンを縦置き用に構造変更した上で、1.4リッターに排気量を縮小。モータースポーツにおけるターボ係数1.7をかけると2.4リッター相当になるようにしています。
各々が毎戦ガチンコ勝負することで、開発スピードは一般的な技術開発よりも大幅にアップしていると言います。開幕戦の鈴鹿では2台とも、ベース車が本来走るST-4クラスの中段グループと同等程度のタイムでレースを走っていましたが、この岡山戦では一つ上のクラスであるST-3クラスで参戦する、3.7リッターV6エンジンのフェアレディZを抜いてしまうというところまで速くなっています。
このCNFの2台とフェアレディZはクラスが違いますし、ST-Qクラスは賞典外のために改造できる範囲がかなり広くなっているため、フェアレディZを抜いてしまっても順位に影響するということはありませんが、ターボ過給も無しに2.4リッターエンジンのマシンが3.7リッターのマシンを抜いてしまうほど速くなっているということは、衝撃的な事実です。
Team SDA Engineering BRZ CNF Conceptは、前戦のもてぎから航空機用のカーボン素材をリサイクルした素材でボンネットを製作するなど、航空機製造も行っているスバルらしい取り組みを行っていますが、この岡山戦ではもてぎ戦からさらに60kg程度も車体を軽量化してきたと言います。
トヨタもGR86ではエンジンの信頼性や燃焼効率などのほかに、ブレーキ性能や空力面でかなりブラッシュアップして岡山戦に臨んでいます。
この2台のガチンコ対決によるCNFバトルで得られた知見は、この2社だけではなく、多くのパートナー企業にもデータとして提供され、車体の改良点は近い将来、市販車にフィードバックされ、また燃焼データなどではCNF国産化に向けた貴重な資料となっていきます。
●メーカーもサプライヤーも一丸となって取り組むカーボンニュートラル
このST-Qクラスで最も有名なのが、「水素カローラ」の異名を持つORC ROOKIE GR Corolla H2 concept。
文字通り気体水素を燃料にするエンジンを搭載し、「水素を作る、運ぶ、使う」の全ての分野での実証実験となる事柄をスーパー耐久から発信し、水素エンジンの開発スピードはもとより、様々な水素製造プラントから調達すること、輸送方法となるトラックの燃料にバイオディーゼル燃料を使うなど、この水素カローラを走らせる全ての要素からカーボンニュートラルを実践するべく取り組んでいます。
特に、水素を作る過程は本当に様々で、容易に想像がつく太陽光由来や地熱由来の電気を使って水を分解したものの他に、下水汚泥を処理する過程で発生するバイオガスから水素をつくるという、ちょっと想像しがたいものまであるということが広く知られるようになったのは、この「水素カローラ」のおかげでしょう。
また、昨年の岡山戦から参戦を始めたMAZDA SPIRIT RACING MAZDA2 Bio concept。スーパー耐久を丸々1年走ってきて、それこそ毎戦毎戦リニューアルの連続で、ミドリムシ由来の炭化水素と食用油の廃油から作られるバイオディーゼル燃料をものにしてきました。
改造範囲の違いもありますが、参戦当初は1500ccのST-5クラスで走るNDロードスターを追いかけることなどありえないくらいだったところから、ST-5クラスのトップグループからST-4クラスの最後尾について行けるくらいにまでの速さを身に着けています。
化石燃料を一切使わないディーゼル燃料によるカーボンニュートラルの取り組みは、国産メーカーで唯一のフルラインディーゼルを持つマツダの誇示ともいえるでしょう。
トヨタ自動車の豊田章男社長がバッテリーEVだけがカーボンニュートラルの選択肢ではない、としてスーパー耐久でのレースに水素カローラで出場することで課題解決の迅速化を図り、「意志ある情熱」と言うスローガンを掲げて集まったパートナー企業やサプライヤーが一体となって、カーボンニュートラルの様々な選択肢に取り組んでいます。
ST-Qクラス自体が技術開発のために設定されたクラスであり、そこでカーボンニュートラルに挑むという取り組みを、観客が実際に見ることができるという貴重な場でもあります。
11月26日(土)、27日(日)に鈴鹿サーキットで開催されるスーパー耐久レースの最終戦でも、ST-Qクラスの取り組みはさらにパワーアップして行われることでしょう。
ぜひその目で、この取り組みをご覧になってみてはいかがでしょうか?
(写真・文:松永 和浩)