日産「チェリー」デビュー。サニーのワンランク上を狙った日産初のFF車【今日は何の日?10月17日】

■先進的な設計とメカニズムで上級化を目指した小型車

1970(昭和45)年10月17日、日産自動車から人気大衆車「サニー」よりワンランク上の小型車「チェリー」がデビューしました。軽量コンパクトな小型車を実現するため、横置きエンジンのFF方式を日産で初めて採用した、日産期待のモデルでした。

1970年にデビューしたチェリー・4ドアセダン
1970年にデビューしたチェリー・4ドアセダン

●静粛性も走りも上級化を目指した革新的なFFモデル

1970年にデビューしたチェリーは、当時としては先進技術であった横置きエンジンのFF方式を、日産で初めて採用。そのFF方式は、現在では非常に珍しい“イシゴニス式”が採用されました。

1970年にデビューした2代目サニー
1970年にデビューした2代目サニー

チェリーは、トランクを持ったセミファストバックスタイルで、アイラインウィンドウと呼ばれた個性的なウェストラインからCピラーへのラインが特徴で、1971年にはリアクォーターのロングテールが特徴のクーペが追加されました。

ボディ構造は、基本はモノコックながらサブフレームを使用して静粛性と安全性を向上し、インテリアはサニーよりもワンランク上の質感を実現。

エンジンは、コスト削減のためサニーの1.0L&1.2L直OHVを横置きに変更して流用。トランスミッションは3速と4速MTが用意されました。一方でボディの軽量化を進め、最高速度140km/hの軽快な走りを誇りました。

個性的なスタイリングのクーペは、若者の注目を集めましたが、全体として販売は伸びませんでした。

●現在では珍しいイシゴニス式FFレイアウトを採用

1971年発売のチェリークーペ、超個性的なロングテール
1971年発売のチェリークーペ、超個性的なロングテール

チェリーが採用したFF方式は、トランスミッションとデフを一体化したトランスアクスルをエンジンの下に置く2階建ての配置。

これは、ミニが初めて採用したレイアウトで、“イシゴニス式”と呼ばれる方式です。水平方向のスペースがコンパクトに設計できるのが最大のメリットですが、一方で2階建て構造のために背が高く、最低地上高の確保が難しかったり、特殊な構造のためコスト高になるというデメリットがあります。

現在のFFでは、エンジンとトランスミッションを横一列に置き、トランスミッションと一体式のトランスアクスルから左右にドライブシャフトを伸ばす“ジアコーサ式”が主流となっています。

●性能よりも実用性が重視されてFF化の流れが加速

チェリーがデビューした1970年当時は、まだFR車が主流でした。操舵と駆動の両方を前輪が担うFF機構の開発が進み、一方でマイカーブームによってクルマが一家に一台の時代が到来。クルマが家族のレジャーの中心となっていったため、走りを楽しむFR車だけでなく、車室が広く家族みんなが楽しめるFF車が人気となっていきました。

1972年にデビューした初代シビック。N360に続いてFFを採用
1972年にデビューした初代シビック。N360に続いてFFを採用

「シビック」は、初代からFFでしたが、1980年代に入るとFF化の流れは急速に進み、「カローラ」や「サニー」といった人気モデルが次々とFFに変更。さらに2000年に入ると、メーカーにとっては燃費性能やコスト低減が重要命題となったので、小型車だけでなく中・大型モデルでもFFが採用されるようになり、主流はFR車からFF車へと完全に移行したのでした。


日産初のFF車として注目されたチェリーでしたが、操縦性のクセが強く、FFの完成度は十分でなかったようです。ただし、軽量ボディを生かした軽快な走りは侮れず、モータースポーツの世界では大活躍しました。

毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれません。

Mr.ソラン

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
続きを見る
閉じる