飯田裕子が新型ルノー・メガーヌR.S.の試乗シーンを忘れられない。ピュア内燃機関とコーナリングにこだわった毎日乗りたいスポーツカー

■貴重となりつつあるピュア内燃機関のこだわり性能

ルノー・メガーヌR.S.
ルノー・メガーヌR.S.

離れていてもドライブシーンを思い出せるばかりか、忘れられないモデルはそれほど多くはないような気がします。その上、日本の道路には、このコンパクト以上ミドルサイズ以下のサイズよし、室内スペースのパッケージングもよし、そして期待以上にハンドリングよしと言いたいメガーヌR.S.。

そんなスポーツモデルを一言で表すなら「万能」です。

ルノー・メガーヌR.S.
ルノー・メガーヌR.S.のリヤビュー

今回、キレキレ、ギュンギュン系のインプレッションを期待される方には少々ソフトグリップな印象となるかもしれませんが、“本質”の高さは間違いない。

メガーヌR.S.はルノーのF1をはじめとするモータースポーツに係わる「”R”enault ”S”port(ルノー ・スポール)」の技術やノウハウが詰め込まれた一台。Renault Sport(ルノー スポール)はメルセデスのAMGやBMWのM、日産のNISMOみたいなモータースポーツと直結する専門組織によって仕立てられています。

ルノー・メガーヌR.S.のエンジンルーム

そんなバックグラウンドを意識しつつ、クルマ選びに動力、とりわけピュアな内燃機関の質と性能にこだわる方にとって注目すべきは、エンジンです。

現行モデルの登場は2018年。そして昨年2021年、マイナーチェンジが行われたのを機に、よりサーキット走行も意識したパフォーマンス重視のモデル「メガーヌR.S.トロフィー」と同じ300ps/420Nmの高出力エンジンが搭載されました。

ルノー・メガーヌR.S.
ルノー・メガーヌR.S.のセラミックボールベアリングターボ

さらにこの変更を受け、アクセルレスポンスの向上を狙い、ターボチャージャーにF1でも採用されているセラミックボールベアリングシステムを取り入れるなど、ドライバーがこの動力性能をより効果的に扱いやすい性能強化が図られています。

それらを担当したのは、ルノー・スポールカーズとルノー・スポールレーシング、ルノー テクノセンターから集められたエンジンのエキスパート集団。ピュアなエンジン車が少なくなり電動化が進んでいくのは、ルノーも他ブランドに漏れず同様。だからこそ、ピュアエンジンの性能に一層こだわったのではないかと想像したくなりました。

●F1でも使用するセラミックボールベアリングターボが応答性を向上

ルノー・メガーヌR.S.
ルノー・メガーヌR.S.の走り

実際、マイナーチェンジ前のモデルに搭載されていた、1.8Lターボエンジンの279ps/390Nmでもエンジン性能的には十分だったように思えるけれど、今回はアクセルレスポンスの向上が図られ、ターボの応答性も向上。高回転で回転するタービンに取り付けられた、F1でも使用されているセラミックボールベアリングシステムは、スチールよりも軽く硬く、滑らかで、従来のものよりも摩擦を1/3に減らすことができるそうです。結果、ターボの応答性が向上しているとのことですが、実際はその存在をあまり意識することなく、必要な動力や速さを低速~高速域まで扱いやすく得られるという印象です。

その中でも新型では、例えばアクセルの踏み込み度合いが3~4割のあたりで走行をするのでも、アクセル操作に対するエンジンレスポンスの向上は走りのリニアさや軽快さを促し、何より気持ちいい。一発、一瞬の加速性能より、連続するペダル操作(アクセルを緩めてまた踏み込むとか、減速からの再加速など)こそ、その優れた性能ぶりをスペック以上に感じることができるのではないでしょうか。

ルノー・メガーヌR.S.トロフィー
ルノー・メガーヌR.S.トロフィー
ルノー・メガーヌR.S.トロフィー
ルノー・メガーヌR.S.トロフィーは6MTも選べる

トランスミッションは6AT(6EDC)が組み合わされていますが、MTで走らせてみたいという願望を抱く方もいらっしゃるでしょう(よりハードコアな”TROPHY”にはMT仕様もあり)。

同時に、アクティブバルブを採用したスポーツエキゾーストも新装備され、エンジンサウンドは選択が可能になっています。周囲に配慮したいときは騒音レベルも抑えられた洗練されたエキゾーストサウンドを、一方で、全開もOKな場面ではよりアグレッシブなサウンドを選べば走りのエモさを演出できるだけでなく、エンジン性能を引き出すモードにもなる。シーンによって意味合いの変わる「万能」ぶりの進化はこんなところにもうかがえます。

●道幅が広く、ボディが小さく感じるコーナリング

ルノー・メガーヌR.S.
ルノー・メガーヌR.S.の走り

エンジンの進化がうかがえれば、それをどのように活かして走るのかが気になりますよね。メガーヌR.S.の特技は「曲る=コーナリング」です。いつものワインディングの道幅がいつもよりも広く、もしくはクルマがよりコンパクトに感じられるほどスムーズで安定した小回りコーナーリングをしてくれます。

今回、足まわりの変更は行われていないというものの、エンジン関係の変更にともない、シャシーのチューニングは見直されているはず。そこで2018年に登場した当初よりも滑らか(=スムース)なコーナリングフィールに磨きがかかった印象を受けました。アクセルレスポンス向上(ターボの応答性向上によって)が、最終的に路面とコンタクトするタイヤへのドライバーの動的な指令がよりリニアで、的確に行いやすくなっていることも一理あると思います。

ルノー・メガーヌR.S.
ルノー・メガーヌR.S.の走り

その上、メガーヌR.S.は「4コントロール」という4輪操舵システムを採用しています。低速域(60km/h以下、レースモードを選ぶと100km/h)ではリアタイヤがフロントタイヤと逆方向に向くことで回転半径を小さくして曲りやすくし、高速域ではフロントタイヤと同一方向に向き、安定性を高める働きをします。

足まわりにも、ラリーの技術を応用した運動性能に優れたダンパーを採用。様々な速度域や路面に対し、4輪のタイヤが常に最適なグリップを得やすい(特にFFのメガーヌR.S.はリヤタイヤの仕事のし易さが大事)性能に優れています。

ルノー・メガーヌR.S.
ルノー・メガーヌR.S.の245/35R19タイヤと専用アルミホイール

メガーヌR.S.は曲りやすくする「4コントロール」を活かし、サスペンションやタイヤが効果的に働き安くなっているのです。

幾重にも続くコーナーで、最新のメガーヌR.Sはカッチリとした車両姿勢を足下の滑らかさを伴ってスイスイと繋いでく…。刻々と変る走行シーンに制御系の存在を忘れ、スイスイと曲る様子に思わず「すごっ!」と笑ってしまうほどでした。

●万能故に毎日連れ出したくなるスポーツカー

ルノー・メガーヌR.S.のインパネ

スポーツカーには、潜在的な運動能力を醸し出す独特の風格やオーラがあるものです。メガーヌR.S.はスポーツカーらしさをデザインで過度に主張したモデルではないという印象ですが、実際に性能アップを狙ったパフォーマンスのためのデザインが採用されています。

ルノー・メガーヌR.S.
ルノー・メガーヌR.S.のドライブモード切り替え画面

例えば、スタンダードなメガーヌ(ハッチバック)よりも前後のフェンダーは広げられ、19インチの大径ホイールを履いています。F1スタイルのエアインテークが組み込まれるフロントバンパーや、3Dハニカム仕様のメッシュグリルもルノー・スポールのデザインによるもの。チェッカーフラッグ模様のスモール/フォグ/ハイビームランプもR.S.モデルの特徴の一つ。

ルノー・メガーヌR.S.
ルノー・メガーヌR.S.のリヤディフューザーとマフラーエンド

また、リアスポイラーは小型ながら空力は向上しているし、センターマフラーは歴代メガーヌR.S.の象徴的なデザイン要素であり、リアディフューザーと相まって、スポーティさを強調しています。ちなみにマイナーチェンジでルーフアンテナがシャークフィンタイプに変更されました。

ルノー・メガーヌR.S.のフロントシート
ルノー・メガーヌR.S.
ルノー・メガーヌR.S.のリヤシート

室内に目を向ければ、ホールド性に優れるアルカンタラ表皮のスポーツシートや、グリップと感触の良いステアリング、ドライブモードのカスタマイズも可能な「ルノー・マルチセンス」の画面も備わる7インチのインストゥルメントパネル(以下に仕様変更情報あり)は、スマートフォンのミラーリング機能も使えて便利です。

ルノー・メガーヌR.S.のリヤビュー

果たして、メガーヌR.S.はガレージにおさまる姿を眺めるだけでも満足できるだろうけれど、このスポーツカーはついつい連れ出したくなるタイプではないでしょうか。室内のパッケージやラゲッジ、さらに乗り心地もスポーツモデルだからと言って硬さを特筆するレベルでもなく(やや硬いです)、まさに実用もスポーツ性能にも優れた「万能」モデル。ゆえに「ちょっとそこまで」な出動もこのキーを持ち出したくなる奇特なEveryday‘s Sport carと言えるのではないでしょうか。

●仕様変更に伴いお買い得モデルになる?

なお、このインプレッションに起用した試乗車は、2021年にマイナーチェンジしたルノーメガーヌR.S.ですが、つい最近、仕様変更のお知らせがルノー・ジャポンから届きました。走りに関する変更は記載されていませんが、変更箇所と新価格は以下だそうです。

【メガーヌ R.S.仕様変更内容】
・デジタルインストゥルメントパネル:7インチから10インチに拡大
・マルチメディアEASY LINKタッチスクリーン:7インチから9.3インチに拡大
・BOSEサウンドシステムを搭載
・サイドパーキングセンサーを搭載

【新価格/旧価格(税込)】
メガーヌ R.S. EDC 519万円/494万円
メガーヌ R.S. トロフィー MT 549万円/524万円
メガーヌ R.S. トロフィー EDC 559万円/534万円

なお、「仕様変更を受けたメガーヌR.S.の受注は7月28日(木)から開始。仕様変更前モデルは、日本在庫が無くなり次第販売を終了します」とアナウンスされています。実は、新価格は仕様変更前モデルよりおよそ25万円程度プライスが上がっています。それゆえ、R.S.は最新モデルでなくとも最新の走りであればOKというニーズには、もしディーラーに仕様変更前モデルの在庫があれば、お買い得にEveryday‘s Sport carを手にすることができるのかも知れません。

(文:飯田 裕子/写真:小林和久)

【SPECIFICATIONS】
★RENAULT MEGANE R.S.(ルノー・メガーヌR.S.)
全長×全幅×全高:4410×1875×1,465 mm
ホイールベース:2670mm
トレッド(F/R):1620/1600mm
乗車定員:5名
車両重量:1480kg
最小回転半径:5.2m(参考値)
燃料消費率 WLTCモード:11.3km/L
エンジン:ターボチャージャー付 筒内直接噴射 直列4気筒DOHC 16バルブ
内径×行程:79.7×90.1mm
総排気量:1798cc
最高出力:221kW(300ps)/6000rpm(参考値)
最大トルク:420Nm(42.8kgm)/3200rpm(参考値)
燃料タンク容量:47L/無鉛プレミアムガソリン
駆動方式:全輪駆動(FF)
トランスミッション:電子制御6速AT(6EDC)
サスペンション (F/R):マクファーソン/コイル/トーションビーム/コイル
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ(F/R共):245/35R19
ホイールサイズ(F/R共):8.5J×19