ホンダ・シビックe:HEVはシビックとアコードの二面性を持つハイブリッドカーだった

■最新のハイブリッドシステムを搭載

CIVIC(シビック)」といえば、まさにホンダを代表するモデルネームという印象を持っている方は多いでしょう。2022年7月12日に、初代のデビューから50周年を迎えたシビックに、新たなバリエーションが加わりました。

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シビックのハイブリッドは「e:HEV」という名前でモノグレード展開。メーカー希望小売価格は394万200円。

それがシビックe:HEVです。

e:HEVというのは、ホンダのラインナップ全般において新世代ハイブリッドを示すネーミングということからもご理解できるように、この追加グレードは、シビックハイブリッドといえるものです。

ハイブリッドシステムは、新設計の高効率「ガソリン直噴」エンジンと、2モーターで構成される電気式CVT、エネルギー密度を高めたリチウムイオンバッテリーなど最新デバイスを組み合わせたもの。

ホンダのe:HEVハイブリッドシステムといえば、基本的にはエンジンが発電を担い、高出力モーターだけで走行するというもので、さらにエンジン直結モード(ダイレクトにタイヤを駆動するロックアップ領域)を持つのが特徴です。

シビックe:HEVでは高効率エンジンを活かすべく、ロックアップ領域を積極的に利用しているのがセールスポイントです。

●ターゲットはインターネット世代

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エンジンは骨格から新開発の2.0L ガソリン直噴アトキンソンサイクル。最大熱効率41%を誇る。

実際、WLTCモード燃費の各モードを見ると、以下のようになっています。

WLTCモード燃費:24.2km/L
市街地モード:21.7km/L
郊外モード:27.6km/L
高速道路モード:23.4km/L

ホンダに限らず、モーター駆動を主とする2モーターハイブリッドシステムでは、高速時の効率改善が課題となりますが、この数字を見ている限り、エンジン主体で走行できるロックアップ領域を持つことで、高速道路モードでの燃費性能を稼いでいることが感じられます。

エンジン直結モードというのは、単純にエンジンだけで走行しているというわけではありません。バッテリーの充電量に合わせてモーターでエンジンをアシストすることで、高効率ゾーンをより活用するような制御もしていますし、ときにはモーターだけで走ることもあります。さらに、エンジン出力の一部で発電することで、バッテリーのマネージメントに利用するという面もあります。

「市街地はエンジンで発電してモーターで駆動、高速道路はエンジンだけで走る」という単純な制御ではないのです。

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外観での1.5Lターボとの違いは、テールの「e:HEV」エンブレムとマフラーカッターの有無となる。

もっとも、複雑な制御をしていることをユーザーは気にしなくていいですし、実際よほど注視していないと細かい制御の違いには気付かないでしょう。ですが、そのような複雑な制御をしているというのは、シビックe:HEVの魅力につながっているように思います。

現在、シビックのグローバルターゲットはジェネレーションZ世代となっています。ホンダによれば1990年代半ばから2000年代前半に生まれたインターネット世代ということです。

まさにインターネット世代には、シビックe:HEVの複雑な制御をスマートな乗り味に見せるという商品企画は理解されやすいのではないでしょうか。

先行して発売されている1.5L VTECターボを搭載したシビックには6速MTを設定するなど、違った意味でジェネレーションZに刺さる商品企画を展開していることを考えると、こうしたバリエーション追加はシビック全体のブランディングにも有効といえるでしょう。

もっともシビック・ブランドについていえば、本年9月に発売予定となっている「タイプR」が絶対的な存在感を持つのも事実ですが…。

●3種類のドライブモードを用意する

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ボタン式シフトの下側にはドライブモードのセレクターやEPBのスイッチを配置。

タイプRに象徴されるスポーティイメージというのは、シビックe:HEVでも味わえます。

ドライブモードはECON/NORMAL/SPORTの3種類が用意され、パワートレインやステアリングの味つけ、メーター表示などが変化するようになっています。さらにSPORTモードを選ぶと疑似的なエンジンサウンドを室内に流すことで、よりスポーティなドライビングを味わうことができるといった演出も加わります。

ワインディングでの速度域では、モーター駆動がメインとなります。モーターならではの好レスポンス、3.0L級のトルクによる鋭い加速などを存分に楽しめます。

シビックe:HEV専用に開発したミシュラン・パイロットスポーツ4という、スポーティなタイヤを履いていることもあって、常識的な速度域ではスキール音が響くこともありませんし、高速コーナーではバッテリー搭載による低重心(1.5Lターボ比 -10mm)も相まって安定した挙動が味わえます。

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ホンダ車ではお馴染みのボタン式セレクター。ボタンの反力最適化やリバースボタンに滑り止めを追加するなど進化している。

逆にECON/NORMALモードでは、ノイズと逆位相の音を出すことで静粛性を向上させるという工夫もされています。

ミシュラン・パイロットスポーツ4は単にハイグリップなタイヤではなく、コシのある当たりのよさもメリットとして言われることの多いタイヤですが、そうした部分を活かした乗り心地のよさは、アコードクラスを思わせるもの。市街地レベルでは、構造的にシフトショックが存在しないハイブリッドシステムのアドバンテージと相まって、上級サルーンのような一面も併せ持っているのです。

インターナビを標準装備しているとはいえ、400万円に迫るメーカー希望小売価格はシビックのハイブリッドとしては高価に感じるかもしれませんが、スポーティさと静粛性といった二面性においてレベルの高い走りを味わうと、コストパフォーマンスとして納得できるといえそうです。

●シビックe:HEV主要スペック

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1.5Lターボとタイヤ銘柄を変えることで、しっとり&スポーティなキャラクターを生み出している。

車両型式:6AA-FL4
全長:4550mm
全幅:1800mm
全高:1415mm
ホイールベース:2735mm
車両重量:1460kg
乗車定員:5名
エンジン型式:LFC
エンジン形式:直列4気筒ガソリン直噴DOHC
総排気量:1993cc
最高出力:104kW(141PS)/6000rpm
最大トルク:182Nm(18.6kg-m)/4500rpm
モーター型式:H4
モーター形式:交流同期電動機
モーター最高出力:135kW(184PS)
モーター最大トルク:315Nm(32.1kg-m)
燃料消費率:24.2km/L (WLTCモード)
タイヤサイズ:235/40ZR18 95Y
メーカー希望小売価格(税込):3,940,200円

(写真・文:山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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