スーパーフォーミュラのレースをもっと楽しむための基礎知識。第6戦富士スピードウェイの「レース・フォーマット」

■第6戦の舞台は富士スピードウェイ。SFの舞台としては今季2度目・3レース目。でも週末は”雨”予報…

5月は九州・オートポリス、6月には東北・スポーツランドSUGOと、南へ北へ転戦してきたサーキットレースの頂点としての全日本選手権・スーパーフォーミュラの2022年シーズンも、年間7競技会・11レースのちょうど「折り返し点」を回ったところ。4月初旬の開幕では土日2日間それぞれに予選・決勝を戦った富士スピードウェイに再び舞台を移します。ただし今回の7月16、17日は通常フォーマットの土曜日に予選、日曜日に決勝というタイムスケジュールで、レースとしては「1戦」です。

この記事を執筆している段階でいちばん気になるのは「天候」。気象庁が判定する「梅雨明け」は例年になく早かったのですが、ここへ来て「梅雨の戻り」のような空模様。複数の気象専門ウェブサイトの予想を見ても、土曜日は「雨」で降水確率70〜80%。ということはまずマシンを走らせて、チーム・ファクトリーで設定してきた「持ち込みセッティング」の確認から始めて予選アタックのシミュレーションを行う午前中のフリー走行1回目、そして午後の予選ともに雨、ウェット路面になる可能性が高いでしょう。雨のサーキットをフォーミュラカーが走ると、路面を覆う水をタイヤが巻き上げ、その水滴がマシンの周囲から後方に大きく広がる空気の流れが起こります。これが車両を路面に向かって押し付け、タイヤの摩擦力を倍加させる「ダウンフォース」を作り出すわけですが…、そこに大小様々に重なり合う「渦」に巻き込まれて拡散し、コースの上に「濃霧のトンネル」を形作ります。ドライバーは、視界を覆う「真っ白なカーテン」の中でコースを見い出し、その中に一段と濃いところが見えればそこに「前を走っているマシンがいる」と判断し、その状況でブレーキングポイントを決め、ドライ路面とドライタイヤの時よりも格段に滑りやすい、しかもその予測が難しい路面で、タイヤが出しうる摩擦力=グリップの限界でコーナーを回っていくことに挑み続ける。これが「雨の中での競争」なのです。

富士スピードウェイ
ヘルマン・ティルケ事務所が設計を担当、2005年から2005年から供用されている今の富士のコース図。高低差図からは3km手前(ターン10=ダンロップコーナー)から1km足らずで一気に50m近く登ることがわかる。(富士スピードウェイHPより)

日曜日の気象予想も「雨のち曇り」。降水確率30〜50%となっていますから、午後2時30分にフォーメーションラップがスタートする決勝レースも、雨が残るのか、それともドライ路面でできるのか、まだ予測ができません。でも雨上がりのドライ路面となると、刻々と路面状況が変化してゆく。ずっとドライ路面が続いていて、そこをマシンの群れが走り続けてタイヤ表面が溶けてベタベタになり、その「溶けゴム」が路面に付着してグリップ状態が変わっていく、という「いつもの」状況とはまったく路面変化が異なるはず。トップ・カテゴリーのマシン・セッティングはその時々の路面状況とタイヤの働き方にそれこそピンポイントで合わせ込んでゆくもので、とりわけスーパーフォーミュラは皆が同じ車両を使うので、その緻密さが勝負を分けます。しかも決勝レースでは周回が進むにつれて路面が変わり、タイヤが消耗し、車両の運動に影響を与えるガソリンの積載重量は減っていく。そのプロセスをフリー走行で確かめ、これまでの経験値を参照し、知恵を絞って最善のマシン・セットアップをまとめ上げて、そこからはドライバーに預ける。これが「レース」の戦い方です。でも雨の降り方によっては、その「ピンポイント」がどうなるか、フリー走行で同じようなコンディションがなければ確かめることができないし、これまでの経験値も当てはまるとは限らない。いつも難しい「競争」が、さらに何段階も難しくなるのです。

でも、だからこそ、「観る」側としては興味深い。オモシロい。まず先ほども書いたようにウェット路面では、マシンの表面各部を流れる空気の振る舞い、そこに発生する乱れや渦、さらにマシンから離れて行く空気の動き=気流が、そこに乗って動く水滴によって「目に見える」ようになります。つまり「エアロダイナミクスの“可視化”」。これがウェット路面での走行観察の醍醐味のひとつです。そしてもちろん、ドライビングも、マシンのセットアップも、戦略の組み立てと判断も、全てが難しくなるからこそ、それらを観察し、読み解くことは、速く走るための条件が整って安定している時よりも一段とおもしろくなる。だから、「雨のレースになるかも…」という気象予想は私にとって、「楽しみが増すかな…」という期待につながって行くのです。

富士スピードウェイ
週末にスーパーフォーミュラ第6戦を控えた金曜日の富士スピードウェイ。雨、です。


●スーパーフォーミュラ 2022年第6戦 富士スピードウェイ「レース・フォーマット」

●レース距離:187.083km  (富士スピードウェイ 4.563km×41周)
・最大レース時間:75分 中断時間を含む最大総レース時間:120分
・タイムスケジュール:土曜日/午後3時10分〜公式予選、日曜日/午後2時30分〜決勝レース
・予選方式:ノックアウト予選方式

⚫︎2グループ(A組・B組)に分かれて走行する公式予選Q1、そのそれぞれ上位6台・計12台が進出して競われる公式予選Q2の2セッションで実施される。
⚫︎公式予選Q1はA組10分間、5分間のインターバルを挟んでB組10分間。そこから10分間のインターバルを挟んでQ2は7分間の走行。
⚫︎公式予選Q1のグループ分けは、第4戦決勝終了時のドライバーズランキングに基づいて、主催者(JRP)が決定する。ただし参加車両が複数台のエントラントについては、少なくとも1台を別の組分けとする。
⚫︎Q1の組分け(車番のみ記すと…) A組:3,6,12,15,18,20,37,38,50,55,64(11車) B組:1,4,5,7,14,19,36,39,53,65(10車)
⚫︎Q2進出を逸した車両は、Q1最速タイムを記録した組の7位が予選13位、もう一方の組の7位が予選14位、以降交互に予選順位が決定される。
⚫︎Q2の結果順に予選1~12位が決定する。

■天候・路面状況などによっては、全車が一定の時間の中で出走し、その中の最速周回タイムで予選順位を決定する方式を採用するなど、大会運営側の判断で変更されることもある。

スーパーフォーミュラ第2戦富士スピードウェイ
日曜日が晴れれば、こうして各車がスターティンググリッドに整列します。この時まだ空いている写真右手前、ポールポジションに位置取るのは誰になるか?

●タイヤ:横浜ゴム製ワンメイク ドライ1スペック、ウエット1スペック

ドライタイヤは、設計、構造・素材などについては、2019年2スペックあった中の「ソフト」が2019年以降使用されてきましたが、今季に向けてリアタイヤのみショルダー部の断面形状(プロファイル)がちょっと「ラウンド・ショルダー」に変更されている。ここまでにも触れてきたように、コーナリングに入る最初の「過渡的な運動」で、リアタイヤに「体重を乗せていく」中から摩擦力が立ち上がる応答が穏やかになる一方で、デグラデーション(タイヤの消耗によってラップタイムが低下する、その変化)がちょっと早めに現れる傾向、らしい。今季ここまでを振り返ってみると、70〜100kmほど走ったところでラップタイムの落ち込みが現れる、ようです。「データと観察で“読み解く”自動車競争」の富士スピードウェイでの今季・第1戦第2戦のレポートに載せた、ラップタイム推移のデータを再見しておくと、このあたりの読み解きの参考になると思います。

●決勝中のタイヤ交換義務:あり〜ただしドライ路面でのレースの場合

⚫︎スタート時に装着していた1セット(4本)から、異なる1セットに交換することが義務付けられる。
⚫︎先頭車両が10周目の第1セーフティカーラインに到達した時点から、先頭車両が最終周回に入る前までに実施すること(富士スピードウェイの第1SCラインはピットロード分岐・本コースとの間に入るゼブラゾーンの起点、減速用S字カーブ手前で、本コースまで横切る白線で示されている。ちなみに第2SCラインはピットロード出口先・ピットアウト指示ラインが1コーナー手前まで伸びた先に直交する形で示された白線)。
⚫︎タイヤ交換義務を完了せずにレース終了まで走行した車両は、失格。
⚫︎レースが赤旗で中断している中に行ったタイヤ交換は、タイヤ交換義務を消化したものとは見なされない。ただし、中断合図提示の前に第1SCラインを越えてピットロードに進入し、そこでタイヤ交換作業を行った場合は、交換義務の対象として認められる。
⚫︎レースが(41周を完了して)終了する前に赤旗中断、そのまま終了となった場合、タイヤ交換義務を実施していなかったドライバーには競技結果に40秒加算。
⚫︎決勝レースをウエットタイヤを装着してスタートした場合、およびスタート後にドライタイヤからウエットタイヤに交換した場合は、このタイヤ交換義務規定は適用されないが、決勝レース中にウエットタイヤが使用できるのは競技長が「WET宣言」を行った時に限られる。

●タイヤ交換義務を消化するためのピットストップについて

スーパーフォーミュラ第2戦富士スピードウェイ
ドライ路面&ドライタイヤでのレースでは途中1回のタイヤ交換が義務づけられています。メカニック4人で4本を交換して7秒で完了。この写真は第2戦でのチーム・インパル、平川車のピットストップ。(写真提供:JRP)

・ピットレーン速度制限:60km/h
・ピットレーン走行+停止発進によるロスタイムは…

富士のコースでは、長いストレートを加速して行く途中でピットロードが分岐、S字状の速度抑制部を抜けた先から速度制限区間が始まる。ここから出口シグナルまでの速度制限区間は約380m(Google mapによる)。そこを60km/hで走り抜ける中に停止・発進を挟むと走行時間は25秒ほど。しかし減速は手前の屈曲部で始まり、出口側でも速度制限区間が終わったところで、レーシングスピードでストレートを走ってきた車両の速度は250km/h(秒速69.4m)を越えようとしている。ちなみに長いストレートの終端近くに設定されたスピードトラップを通過する速度は290km/h前後。ピットアウトしてきた車両との間の速度差は200km/hほどにも達するのです。その結果、ピットロード走行+停止・発進のロスタイムはかなり大きく、28〜30秒と見積もることができ、実際に近年のSFのレースデータから抽出・概算した値もそのくらいに落ち着いています。これにピット作業のための静止時間、現状のタイヤ4輪交換だけであれば7〜8秒を加え、さらにコールド状態で装着、走り出したタイヤが温まって粘着状態になるまで、路面温度にもよるが半周、セクター3にかかるあたりまでのペースで失うタイム、おおよそ1秒ほどを加えた最小で35秒、若干のマージンを見て40秒ほどが、ピットストップに”消費”される時間となるわけです。

●タイヤ使用制限

⚫︎ドライ(スリック)タイヤ

大会週末2日間を通して、各車に新品・3セット、前戦までに入手したものの中から「持ち越し」3セット。新品タイヤは予選Q1、Q2、そして決勝スタートにそれぞれ装着、が基本。予選でQ2進出を逸した車両は、決勝レース途中で交換する2セット目にも新品が残るが、Q2まで走った車両はこれが予選を走った「1アタック品」になる。…というのが通常のパターン

⚫︎ウェットタイヤ(湿潤路面用)

大会週末2日間を通して、各車6セットまで。ということは… 土曜日・午前のフリー走行でまず1セット。同・午後の予選はQ1、Q2にそれぞれ新品1セットを投入。日曜日もウェット路面が続けば、朝のフリー走行(決勝レースに向けたセッティング確認)に1セット。決勝でも「ウェット宣言」が出ればウエットタイヤ装着。これまでの実績では、路面がしっかり濡れていれば190kmのレース距離を1セットで走り切れるはずだが、路表面の水が少なくなってくるとウェットタイヤの消耗が進むこともあるので、新品2セットを残してスタートに臨みたい。というところで「6セット」という数が設定されているのです。

⚫︎走行前のタイヤ加熱:禁止・決勝レース中の燃料補給:禁止

●燃料最大流量(燃料リストリクター):90kg/h(120.1L/h)

燃料リストリクター、すなわちあるエンジン回転速度から上になると燃料の流量上限が一定に保持される仕組みを使うと、その効果が発生する回転数から上では「出力一定」となる。出力は「トルク(回転力、すなわち燃焼圧力でクランクを回す力)×回転速度」なので、燃料リストリクター領域では回転上昇に反比例してトルクは低下します。一瞬一瞬にクルマを前に押す力は減少しつつ、それを積み重ねた「仕事量」、つまり一定の距離をフル加速するのにかかる時間、到達速度(最高速)が各車同じレベルにコントロールされる、ということになります。

●オーバーテイク・システム(OTS)

・最大燃料流量10kg/h増量(90kg/h→100kg/h)
・作動合計時間上限:決勝レース中に「200秒間」

⚫︎ステアリングホイール上のボタンを押して作動開始、もう一度押して作動停止。
⚫︎作動開始後8秒経過してからロールバー前面のLEDおよびテールランプの点滅開始。ロールバー上の作動表示LEDは当初、緑色。残り作動時間20秒からは赤色。残り時間がなくなると消灯。
⚫︎一度作動させたらその後100秒間は作動しない。この状態にある時は、ロールバー上のLED表示は「遅い点滅」。なお、エンジンが止まっていると緑赤交互点滅。 OTS作動時は、エンジン回転7200rpmあたりで頭打ちになっていた「出力」、ドライバーの体感としてはトルク上昇による加速感が、まず8000rpmまで伸び、そこからエンジンの「力」が11%上乗せされたまま加速が続く。ドライバーが体感するこの「力」はすなわちエンジン・トルク(回転力)であって、上(燃料リストリクター作動=流量が一定にコントロールされる領域)は、トルクが10%強増え、そのまま回転上限までの「出力一定」状態が燃料増量分=11%だけ維持される。概算で出力が60ps近く増える状態になる。すなわちその回転域から落ちない速度・ギアポジションでは、コーナーでの脱出加速から最終到達速度まで、この出力増分が加速のための「駆動力」に上乗せされる。
⚫︎今季は、予選で各車・人がアタックラップに入っていることを知らせるべく、このロールバー前面LEDを点滅させる「Qライト」が導入されている。

これらを踏まえつつ、スーパーフォーミュラ第6戦 富士スピードウェイの2日間を、リアルでも、オンラインでも楽しんで下さい! 「エアロダイナミクスの可視化」観察には、リアルが絶対のオススメです。

(文:両角 岳彦

【関連リンク】

スーパーフォーミュラ公式ウェブサイト「2022年のLIVE中継について」https://superformula.net/sf2/headline/34862

SF公式YouTubeチャンネルhttps://www.youtube.com/c/superformulavideo/featured

SF公式サイト「ライブ・タイミング」https://superformula.net/sf2/application

この記事の著者

両角岳彦 近影

両角岳彦

自動車・科学技術評論家。1951年長野県松本市生まれ。日本大学大学院・理工学研究科・機械工学専攻・修士課程修了。研究室時代から『モーターファン』誌ロードテストの実験を担当し、同誌編集部に就職。
独立後、フリーの取材記者、自動車評価者、編集者、評論家として活動、物理や工学に基づく理論的な原稿には定評がある。著書に『ハイブリッドカーは本当にエコなのか?』(宝島社新書)、『図解 自動車のテクノロジー』(三栄)など多数。
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