新型アルピーヌA110、走りに徹する「S」と普段使い可の「GT」を乗り比べた佐藤久実はどちらを選ぶ?

■特徴が分かりやすいグレード体系に変更

アルピーヌA110マイナーチェンジ
アルピーヌ A110 GT

軽量コンパクトなアルミ製ボディにミッドシップ・エンジンレイアウトを採用し、ゴキゲンなハンドリングが特徴的なフレンチスポーツカー「アルピーヌ A110S」がマイナーモデルチェンジしました。従来からある3つのグレードの特徴を、より際立たせたグレード体系となったのです。

アルピーヌA110マイナーチェンジ
アルピーヌ A110 GT

ベースのA110ピュアは従来通り、オリジナルアルピーヌの性質を色濃く引き継ぐグレードで、「A110」に。快適性重視のA110リネージは、A110 Sと同じハイパワーエンジンを搭載する「A110 GT」という名前に。そしてA110 Sには、バワー/トルクが向上した300ps/340Nmのハイパワーエンジンが与えられました。

今回は、ハイパワーエンジンを搭載する2つのモデル、A110SとA110GTを箱根ターンパイクで乗り比べてみました。

●サーキット志向だが意外なほど乗り心地がいい「S」

アルピーヌA110マイナーチェンジ
アルピーヌ A110 S
アルピーヌA110マイナーチェンジ
アルピーヌ A110 S

A110 Sは、スポーツシャシーに強化されたスプリング/ダンパー、そして剛性の高められたアンチロールバーを備えます。それに伴い、車高も4mmダウンされています。

アルピーヌA110マイナーチェンジ
Sのシートはリクライニングしないフルバケット仕様

車内に乗り込むと、Sabelt(サベルト)製軽量モノコックバケットシートにリクライニング機能はなく、シートバック角度は固定されているものの、私にとっては起き過ぎず、倒れ過ぎずしっくりと収まりの良さを感じます。バケットと聞くとソリッドで硬い印象ですが、このシートは特にシートバックに適度なクッション感があり、日常使いでも快適性は得られそうです。

アルピーヌA110マイナーチェンジ
足回りは強化されているのですが、路面の追従性はバツグン

相変わらず、軽さが際立つ気持ちの良い走り。 パワー、トルクがアップしましたが、シャシーとのバランスは悪くありません。いや、まだまだシャシーには余裕が感じられます。

アルピーヌA110マイナーチェンジ
エンジンは1.8リッターの直列4気筒ターボ。ただしSとGTには300psのハイパワー仕様が搭載されます

パワフルなエンジンは、あっという間にスピードに乗ります。暴力的なパワーフィールじゃないのに、恐しく速い。それがまた心地よくもあり、楽しくもあり。

コーナーでステアリングを切ると、フラットな姿勢をキープしたままスッとノーズが入り瞬時に回り込んでいきます。ロールもピッチもほとんど感じません。それはもちろん電子制御の成せる技なのですが、違和感を感じさせるような介入や不自然な挙動はなく、ドライビングの楽しさをスポイルするものではありません。むしろ、ドライバーの操作に対して即座に反応してくれるので、運転が上手くなったと思わせるほどです。

クローズドコース用にサスペンションが強化されたと聞くと、やはり気になるのは乗り心地でしょう。が、これが驚くほどしなやかに路面を追従するのです。上下方向の入力やアンジュレーションでも接地が抜けることなく、それどころかキツい突き上げもありません。そして瞬時に収束します。正直言うと、乗り心地が良いのでGTと勘違いしており、降りてからSだったと認識したほどです。

フロントスポイラーを装着した「S」
フロントスポイラーを装着した「S」
リヤウイングを装着した「S」
リヤウイングを装着した「S」

オプションの前後スポイラーを装着すると、最高速が15Km/hアップの275km/hになるとのことですが、これこそ、サーキット走行をしない限り体感することのない領域です。デザイン的にもスポイラーなしでまとまっていますが、選択はルックス的な好みに因るところでしょう。

●60年代のオリジナルのフィールに近い「GT」

アルピーヌA110マイナーチェンジ
アルピーヌ A110 GT
アルピーヌA110マイナーチェンジ
アルピーヌ A110 GT

続いてA110 GTに乗ります。こちらはA110と同じスタンダードシャシー&サスペンションに、A110S と同じバワーアップ版エンジンを搭載。乗降性の良い、バケットタイプではないシートが装備され、リクライニング機能も備えています。

アルピーヌA110マイナーチェンジ
GTにはリクライニング可能なセミバケットシートが。こちらでもホールド性は十分

これも一長一短で、サーキットなど高Gではバケットの方がカラダをしっかりホールドしてくれるのですが、日常使いを考えるとリクライニングがある方が便利。ちなみにGTのシートでも、ワインディングを走る限り、ホールド性は十分でした。

走りはと言うと、スタンダードシャシーでもハイパワー版エンジンのパワーはしっかりと受け止めます。そして、Sより動きがゆったりしています。サスペンションが硬いとか柔らかい、と言うより、ドライバーの操作に対してロールやピッチなど、姿勢変化を見せるのです。その動きを捉えながらいなすようにドライビングする点が、A110Sとの最大の違いでしょう。

アルピーヌA110マイナーチェンジ
ひらひらと軽快な動きを示すGTの走り

オリジナルの出た1960年代は、こう言う動きが当たり前でした。なので、よりオリジナルに近いドライブフィールを望むなら、A110GTのチョイスとなるでしょう。

フラットでシャープなA110Sか、ひらひらと軽快に舞うA110GTか。どちらも良いのでそのチョイスは悩ましいものです。が、やはり、開発の意図通り、サーキットなどクローズドコースでも存分に走りを堪能したい向きには、A110Sが、普段使いの日常シーンをメインにグランドツーリングを楽しみ、時々ワインディングに行くと言うライフスタイルにはA110GTを選べば、間違いはないでしょう。

(文:佐藤久実/写真:井上 誠)

●アルピーヌ A110 S主要諸元(※[ ]内はA110)

全長×全幅×全高:4205×1800×1250mm
ホイールベース:2420mm
車両重量:1120kg
最小回転半径:2m
エンジン型式:M5P
エンジン形式:ターボチャージャー付筒内直接噴射直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量:1798cc
内径×行程:79.7×90.1mm
圧縮比:8.9
最高出力:221kW(300ps)/6300rpm[185kW(252ps)/6000rpm)]
最大トルク:340Nm(34.6kgm)/2400rpm[320Nm(32.6kgm)/2000rpm]
駆動方式:後輪駆動
トランスミッション:電子制御7速AT(DCT)
サスペンション(前/後):ダブルウィッシュボーン・コイル/ダブルウィッシュボーン・コイル
ブレーキ(前/後):ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク
タイヤ(前/後):215/40R18/245/40R18[205/40R18/235/40R18]
ホイールサイズ(前/後):7.5J×18/8.5J×18

●アルピーヌA110車両価格(税込)
A110:811万円~
A110GT:893万円~
A110S:897万円~