目次
■2022年7月15日新型クラウン登場前にその歴史をひもとく
●トヨタとは/紡織から始まった世界最大の自動車メーカー
現在のトヨタ自動車の社長である豊田章男氏の曾祖父にあたる豊田佐吉氏は、1890年に豊田式木製人力織機を発明し特許を取得。発明に没頭、苦労しつつも豊田紡織を立ち上げるなどトヨタグループの基礎を築き上げます。
佐吉氏の長男である喜一郎氏は豊田紡織に入社します。喜一郎氏は1926年に設立された豊田自動織機製作所の常務となります。
1933年には豊田自動織機製作所内に自動車製作部門を設置、1935年には第一号車となるトヨダAA型乗用車を製造。1937年に自動車製作部門がトヨタ自動車工業となります。
同年9月にはGHQがトラックの製造を許可、12月には民需転換の許可を得ます。1947年には戦後初の新設計車であるトヨペットSA型を製造、1955年には純国産車であるトヨペット・クラウンの製造を開始します。
少し時代が前後しますが、トヨタ自動車工業は1940年代に経営危機を迎えています。
この危機を脱するための最大の方策が、販売部門の分離でした。1950年にはトヨタ自動車販売を設立、1982年にトヨタ自動車工業とトヨタ自動車販売株式会社が合併して現在のトヨタ自動車になるまで、製造部門と販売部門は別会社だったのです。
1950年には1万2000台に届かなかったグローバル生産台数が、1959年には10万台超え、1961年には20万台超え、1968年には100万台超えと台数を伸ばし、衰えることなく2007年には850万台超となります。
この生産台数はトヨタ自動車のもので、協力企業で生産される車両も存在するため販売台数はさらに多くなります。現在、トヨタのグローバル販売台数は1000万台超で、2020年、2021年と2年連続で世界最多となっています。
●クラウンとは/60年以上の歴史を持つ国産乗用車のマイルストーン
戦後、トヨタはトラックを中心とした自動車製造を行っていました。乗用車も作ってはいましたが、当時の乗用車はトラックのシャシーをベースに架装メーカーが作った乗用車のボディを組み合わせたもので、乗り心地などはトラックそのものだったといいます。
当時の日本の道路は未舗装路が多く、トラックの強固なシャシーは道路事情に合っていたといいます。
そうしたなか、SA型というモデルを投入しますが、これは旧来の手作りのクルマであって大量生産が考えられていないモデルでした。なによりも、ドライバー重視であったため大量受注が見込める業界からは相手にされなかったのです。
しかし、乗用車製造に対する夢は当時の社長である豊田喜一郎はもとより、製造の現場にも存在しました。なかでも、のちに初代クラウンの開発責任者となる中村健也の乗用車製造に対する気持ちは強かったといいます。
初代クラウンの開発は1952年から開始されました。それまでのトラックシャシーの流用ではなく、乗用車用の専用シャシーを設計、ボディも自社でデザインし製造するという方式を目指しました。
今では当たり前となっているスポット溶接による接合も、中村の提案によって自動車製造に初めて採用されています。中村がスポット溶接にこだわったのは、戦前のような手作りではなく、大量生産を実現しコストダウンを図るためでした。中村はタクシー業界のニーズも調査し、それに合わせたクルマ作りも目指しました。
●初代:花嫁を乗せるために採用された観音開きドア
中村が「夜行電車のように突き進む」と表現した先の見えない開発を経て、1955年に初代クラウンは登場します。フレームはラダー型、フロントサスペンションはコイル式ダブルウィッシュボーン、リヤサスペンションはリーフ固定が選ばれています。
1955年当時の小型車枠はボディサイズが全長4.3m以下、全幅1.6m以下、全高2.0m以下、排気量が1500cc以下でした。初期のクラウンは搭載エンジンが1.5リットルエンジンでしたが、全幅が1680mmであったため登録は普通車となりました。
1960年に小型車の規格が全長4.7m以下、全幅1.7m以下、全高2.0m以下、排気量が2000cc以下となったことを受けて、クラウンは全幅を1695mmまで拡幅、エンジンを2リットルとしました。このタイミングでクラウンは小型車となったのです。
初代クラウンの最大の特徴は観音開きのドアで、このドアは文金高島田の髪型を纏った花嫁さんでも乗りやすいようにという中村の思いが込められていました。初代クラウンには、セダンのほかにステーションワゴンも設定されました。
●2代目:国産初のV8搭載モデルも登場
2代目クラウンは1962年に発表。フレームはX型と言われるものに変更されました。X型フレームというとトヨタ2000GTのものが有名ですが、トヨタ2000GTのフレームがセンター部分で完全に一体化されたX型なのに対し、クラウンのX型はセンター付近が絞り込まれて、左右のフレームが近づいた部分をメンバーによって結合しています。
サスペンションはフロントがコイル式ダブルウィッシュボーン、リヤは初代よりも枚数を増した(3枚→5枚)リーフ固定を基本としましたが、上級グレードにはコイルスプリング+5リンクが採用されました。
搭載されたエンジンは1.9リットルの4気筒でしたが、1965年にM型の2リットル6気筒が追加されます。2代目クラウンには1964年にボディをワイド&ロング化し、2.6リットルのV8エンジンを搭載したクラウンエイトという派生モデルも存在します。クラウンエイトは日本初のV8エンジン搭載乗用車で、のちのセンチュリーにつながる高級車のはしりでした。
●3代目:クラウンの代名詞であるペリメーターフレームを初採用
1967年登場の3代目になるとクラウンは大きく飛躍します。フレームはその後も長きにわたって使われることになるペリメーター型になります。ペリメーターフレームは枠組み構造のフレームで、中心部分にメンバー構造を持たないため、車体を低く設計することが可能です。
サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リヤが5リンクで統一され、すべての足まわりのスプリングがコイルとなりました。
3代目クラウンは多くのボディバリエーションを持つことが特徴で、4ドアセダンはもとより、ステーションワゴン、ライトバン、2ドアハードトップ、さらにはピックアップトラックまで用意されました。エンジンは2リットルですが、4気筒モデルと6気筒モデルが混在します。
●4代目:くじらの愛称を与えられた丸みをボディが特徴
その丸みを帯びた独特のデザインから「くじら」の愛称で親しまれたのが、1971年に登場した4代目クラウンです。ボディタイプは4ドアセダン、ステーションワゴン、ライトバン、2ドアハードトップでピックアップトラックは廃止されました。
フレームやサスペンションの形式は3代目からの踏襲ですが、エンジンが大型化されます。クラウンエイトを除けば、それまでは5ナンバー登録が可能な2リットルモデルのみで構成されていたクラウンのエンジンに、初めてオーバー2リットルエンジンが搭載されます。
用意されたエンジンは2.6リットルの直列6気筒で、キャブレターではなくEFI(電子制御燃料噴射)が採用されています。
クラウンは初代からATモデルの設定がありましたが、この4代目から電子制御の3ATが採用されるようになりました。また、後輪へのESCも採用されました。
●5代目:世界初のオーバードライブ付きATを搭載
5代目クラウンは1974年に登場します。現在では人気の「くじら」のクラウンですが、新車当時は人気がありませんでした。それを払拭するため、5代目ではスクエアでキッチリしたデザインが採用されます。
フレーム、サスペンションは基本を先代からキャリーオーバーします。ボディタイプは4ドアセダン、ステーションワゴン、ライトバン、2ドアハードトップに加えて4ドアハードトップも追加になりました。
それまでのATは3速直結を最上段とするものでしたが、このクラウンにはオーバードライブ(変速比が1.000以下のもの)付きの4ATを世界初採用。また、車速感応型のパワーステアリングも初めて採用されました。搭載されたエンジンは2リットル6気筒、2.6リットル6気筒に加えて、2.2リットルの4気筒ディーゼルもありました。
●6代目:ターボエンジンの搭載
6代目は1979年の登場です。ボディバリエーションは先代同様の4ドアセダン、ステーションワゴン、ライトバン、2ドアハードトップ、4ドアハードトップ。フレームとサスペンションの基本もペリメーターフレーム、フロントがダブルウィッシュボーン、リヤが5リンクで同様でした。
エンジンは2.6リットルが2.8リットルに変更。すでにライバルである日産のセドリック&グロリアにはターボ車が存在していましたが、それに遅れること10ヵ月、1980年10月についにクラウンにもターボエンジンモデルが追加されます。また、1982年には2.4リットルのディーゼルターボも追加となります。
●7代目:11種ものエンジンを用意したバブル前夜
今も語り告げられる「いつかはクラウン」のキャッチフレーズを用いたのが、1983年に登場した7代目のクラウンです。バブル景気に突入する寸前ということで、かなり贅沢な設定が行われています。
エンジンは3リットル6気筒DOHCを筆頭に、2リットルDOHCターボなど、じつに11種類ものバリエーションを誇りました。
1982年に小型車の要件が変更となり、オーバーハングを短くする必要があったクラウンは、このタイミングでホイールベースを延長しています。ボディタイプは2ドアハードトップが廃止となり、4ドアセダン、4ドアハードトップ、ステーションワゴン、ライトバンとなりました。フレームはまだペリメーターです。
サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーンで共通ですが、リヤサスペンションは上級グレードがセミトレーリングアームとなりました。ベーシックグレードは従来どおりの5リンクのままです。また、日本初となる4ESC(4輪ABS)や、世界初となるメモリー付きチルト&テレスコピックステアリングも採用されました。
●8代目:4ドアハードトップは専用のワイドボディに
1987年に登場した8代目では、4ドアハードトップモデルに専用のワイドボディが設定されます。セダン、ステーションワゴン、ライトバンは5ナンバーボディのままで、4ドアハードトップにも5ナンバーボディは残されました。
エンジンは10種にもおよびますが、その頂点に立ったのが、後にセルシオに搭載されることになる4リットルのV8ユニットでした。この時代(から少し後まで)は、新しいシステムはまずはクラウンに搭載するという風潮があり、4リットルV8もセルシオに載せる前にクラウンに搭載したというウワサすら立ったほどで、クルマとエンジンの組み合わせには不思議な雰囲気が漂っていました。
サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リヤがセミトレーリングアームで、電子制御のエアサスペンションの設定もありました。1991年には4ドアハードトップ系がフルモデルチェンジしますが、セダン、ステーションワゴン、ライトバンは製造が続きます。
1995年にはセダンの生産が終了、1999年にステーションワゴンはクラウンエステートという専用モデルに置き換えられます。また、同時にライトバンは終了となります。
●9代目:モノコックボディ&V8のマジェスタ登場
1991年、クラウンに大きな転機が訪れます。セダンを残して4ドアハードトップ系だけがフルモデルチェンジし9代目となったクラウンは、全車が3ナンバーの専用ワイドボディとなります。そうしたなか、さらに上級のモデルとしてクラウンマジェスタが設定されます。
9代目クラウンはペリメーターフレームを使ったシャシーでしたが、マジェスタはモノコックボディに変更されました。マジェスタはその後6代に渡って作られますが、初代から5代目まではV8エンジンをトップユニットに据えるモデルでした。
2013年~2018年まで作られた6代目は、専用ボディではなくクラウンロイヤル系のホイールベースを延長したモデルとなり、トップユニットもV6でハイブリッド仕様となりました。
マジェスタと分離した9代目クラウンは、ロイヤルシリーズの名前で呼ばれることになります。前述のとおりペリメーターフレームを用いたモデルで、サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リヤがセミトレーリングアームでした。ボディタイプは4ドアハードトップだけとなりました。
搭載エンジンも整理され、トップユニットは3リットル6気筒で、2.5リットル6気筒、2リットル6気筒、2リットルディーゼルターボ(のちに2.4リットル)の4種とシンプルになりました。
●10代目:ペリメーターフレームとの決別を果たす
1995年8月に、まずは4ドアハードトップがフルモデルチェンジされ10代目となります。10代目クラウンではついにペリメーターフレームとの決別を果たします。セダンは遅れて12月のフルモデルチェンジとなりました。
法人、とくにタクシー業界からはペリメーターフレームの存続が望まれましたが、トヨタはモノコックボディへの変更を敢行、先代モデルに比べて100kg以上の軽量化を実現しました。サスペンションは4輪ダブルウィッシュボーンとなります。
エンジンのラインアップは先代同様の3リットル、2.5リットル、2リットルの各6気筒と2.4リットルのディーゼルターボでした。
●11代目:4ドアハードトップを廃止しセダンのみに
20世紀末、1999年に登場する11代目では4ドアハードトップを廃止し、サッシ付きドアを採用した4ドアセダンに集約されます。従来のロイヤルシリーズに加えて、スポーティモデルのアスリートシリーズの展開が始まります。
アスリートシリーズの登場は、クラウンのユーザー年齢層の高齢化を抑制し、若い世代の支持を厚くする目的がありました。
エンジンは3リットル直6、2.5リットル直6、2リットル直6などが用意されましたが、もっとも注目を受けたのが280馬力を発生する2.5リットル直6ターボで、それまでのクラウンのイメージを吹き飛ばすパワフルなユニットでした。なお、この11代目ではマイルドハイブリッドシステムも採用になります。
●12代目:直列6気筒エンジンから全車V6に
かつて「いつかはクラウン」で最終目的だったクルマを、スタートラインのクルマに位置づけるということで「ゼロクラウン」のニックネームが与えられたのが2003年に登場した12代目です。
このモデルからプラットフォームをNプラットフォームという名の新しいものに変更、サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リヤがマルチリンクとなりました。
エンジンも長きにわたって使われてきた直列6気筒エンジンからV6に変更されたので、まさに刷新と言う言葉がピッタリとくるモデルでした。用意されたV6エンジンの排気量は3.5リットル、3.0リットル、2.5リットルの3種です。
なお、1999年に登場したステーションワゴンのクラウンエステートは2007年で終了となっています。
●13代目:フルハイブリッドユニットの採用
2008年にフルモデルチェンジされた13代目はクラウンの歴史のなかで、初めてフルハイブリッドユニットが採用されたモデルです。
プラットフォームやサスペンションは先代モデルと共通性のあるものです。搭載されるパワーユニットも3.5リットル、3.0リットル、2.5リットルの3種ですが、このうちの3.5リットルエンジンはピュアエンジン仕様と、ハイブリッド仕様がありました。
ハイブリッドシステムは296馬力のエンジンに200馬力のモーターを組み合わせたもので、高い動力性能と経済性を両立しました。
●14代目:世代交代を求めてピンクのボディも登場
14代目は2012年に登場します。プラットフォームやサスペンションは先代モデルからのキャリーオーバーです。
先代では3.5リットルエンジンとモーターを組み合わせてハイブリッドとしていましたが、この14代目では2.5リットルV6エンジンとモーターの組み合わせでハイブリッドとしました。ピュアエンジンは従来設定のあった3リットルが消滅、3.5リットルV6、2.5リットルV6、2.0リットル直4ターボがラインアップされていました。
14代目では、クラウンの常識とはかけ離れたピンクのボディカラーが設定され話題となりました。また、テレビCMで使われた空色と若草色のボディカラーについても期間限定で設定されました。こうしたボディカラーの設定は、クラウンがもっとも不得意とする若年層へのアピールのために行われたものです。
●15代目・現行型:欧州スポーツセダンにも負けない走りを求めて
2018年に登場した現行モデルとなる15代目では、新たにTNGAのプラットフォームであるGA-Lプラットフォームを採用、先代モデルに比べてホイールベースが70mm延長されるなど大幅な変更となりましたが、日本での使い勝手を重視し全幅は1800mmを固持します。サスペンションは前後ともにマルチリンクです。
用意されたパワーユニットは、3.5リットルV6+モーターのハイブリッド、2.5リットルV6+モーターのハイブリッド、2.0リットル直4ターボの3種で、ニュルブルクリンクでの開発などを折り込み、欧州のスポーツセダンにも負けない走りを確保したと言われています。
また、現行クラウンは同時に発表されたカローラスポーツとともに、初代の「コネクティッドカー」として位置づけられていて、車載通信機であるDCMが標準で搭載されています。
2022年にはクラウンのフルモデルチェンジも予想されています。クリッカーでは今後新たな情報が入手でき次第、ページをアップデートしていく予定です。
(文:諸星 陽一)