新型ヴォクシーの実用的な駐車支援機能には楽しさもある?【新車リアル試乗2-4・トヨタヴォクシー 車庫入れ/荷室/空調性能編】

■新型ヴォクシーのバック操作アシスト機能を試す

parking scene
さあ、いっぱんの乗用車に対して駐車感覚はどれほど変わるのか?

新車リアル試乗の第4回目は、どこのメディアの試乗記でもきれいさっぱり忘れている駐車のしやすさの確認です。

ことに、ごく通常のクルマから初めてヴォクシーのようなクルマに買い換えようとしているひとにはずいぶん気になることではないでしょうか。着座位置が高くなる、リヤガラスが遠くなる、全高は2m近い…トヨタ車ならアクア、カローラ、プリウスなどと比べると車両感覚はだいぶ変わります。

というわけで試してみました。

●駐車のしやすさ、普通の乗用車からミニバンへはどう変わる?

rear diagonal view lamp and rear glass
キャビン後ろをサイドからリヤにかけてガラスだけが覆っているが、内側には太いピラーやバックドアフレームがあるので、中からも視界は外から見た印象ほどではない

旧型でリヤピラーにそびえ立っていたリヤランプは、新型ではリヤボディからL型を描きながらリヤガラス下で横たわるようになりました。その跡地はラウンドするクォーターガラスとリヤガラスとが覆っています。

legacy 1st 1989
初代レガシィ(1989年)
concert 1988
ホンダコンチェルト(1988年)

キャビン後端をガラスが包む風のスタイルは意外と少なく、ホンダコンチェルト、初期のレガシィ、いまのムーヴキャンバスに見る程度で、筆者の好みなのですが、衝突要件対応一辺倒の世相から想像できるとおり、室内から見ると想像以上にリヤピラー、バックドア枠が太く、外から見たときほどの印象ではありません。太いピラーを隠すガラスのセラミック塗装部のせいで、透過部分はガラス全体からするとずっと小さいのです。

まあ、このへんの室内からの眺めは、現行セレナ、新型ステップワゴンらと並べても大同小異で、ヴォクシーに限りませんが、車両感覚の把握は前向きだけではなく、後ろを向いたときのことも忘れないようにし、クルマを買うときには販売店での試乗段階できちんと掴み、納車後もきちんと確認しておきたいところです。

このクルマで車庫入れをしてみるとどのような感覚になるのか?

試す前に、車庫の寸法の計測をしておきました。肝心な車庫寸法を出しておかなければ読者のみなさんが読んでも尺度がつかめないと思ったからです。

うちの車庫のサイズはこのとおりでした。

garage 1 with measure
昭和・平成時代典型の車庫。一億総中流意識時代に造られた車庫はみなこのようなものだろう。レンガのエリアは2000(平成12)年8月に増築したもので、クルマがタテに2台入る
garage 3 with measure
こちらコンクリート部分がオリジナルで、1984(昭和59)年に造られた。ここにはクルマをV字に2台置くことができる

うちの場合、ご近所様の家と違って土地が狭い割に、ヘンな形をしているせいで、クルマが前側の入口から直線部にタテ2台、後ろの入口からV字型に置いて2台、計4台入るというふしぎな車庫になっていいます。写真に写っているのはタテに2台用のスペースです。

●後方視界と車庫入れ性

実質幅2740mmの車庫には、35mm拡大で大きくなった車幅1735mmのヴォクシーはきちんと入りました。そもそも写真に写っているプリウス(2代め)の車幅が1725mmで、ヴォクシーとは10mm差。片側5mmの差がものをいうはずがありません。

入れ始めから終了までの様子は写真をごらんください。

putting in the garage 7 rear tire left side
左後輪はこれくらいにまで近づいてちょうどいい。いや、これでも切り返しが必要なクルマが多く、実はこのヴォクシーでも1回切り返しをした

バック駐車のスタートは、車体左後ろで車庫入口左にぶつけんばかりにしてバックすることです。ほんとうにぶつけちゃいけません。あくまでもぶつけるかのように。左後輪をブロックまで可能な限り寄せれば、リヤボディ右まわりのスペースもより空き気味になります。

ただ、最近はどのクルマも幅が広がっていることから、借りたどのクルマを入れるにしても、1発で決められることは少なくなりました。最低1回はどうしても切り返しが必要になります。新型ヴォクシーのホイールベースは旧型初期と変わらない2850mm、最小回転半径は、旧型が15インチ、16インチタイヤ車問わず5.5mで、新型は16インチ、17インチタイヤ車とも同じく5.5m。旧16インチタイヤ車と17インチタイヤを履く試乗車の新型とでフロントトレッドが同じ1500mmなら、車幅が広がったぶん、小さく回れる感じるのでは?と期待したのですが、運転席で感じる取りまわし性は、実質的には変わりませんでした。

気をつけなければいけないのは、全高と着座部が通例のクルマに比べて高い位置にあり、かつウエストライン(サイドガラス下端)も高いため、いままで乗っていたクルマがアクアやカローラのようなクルマだった場合、周囲のフェンスやポールなどが見えなくなる可能性があることです。ただ、このようなことを想定してか、新型ヴォクシーばかりではなく、いまのセレナだって新型ステップワゴンだって、ウエストラインは、この種のクルマとしては低めにしてあるので、ちょいと気をつければ問題はないと思います。

もうひとつ、これは誰にでも当てはまるわけではないのですが、この車庫には、敷地内から出る際に車道の様子を知るためのミラーが車庫先端左に設置してあります。これは写真のプリウスの運転席から助手席窓を通して見上げて目にする高さにセットしてあるため、ヴォクシーからするとルーフよりもちょい下位置になります。左後ろバックで下がったとき、スレスレにまで迫ることに…世の中を見まわすと、車庫に確認用ミラーを設置している家が少なくありませんが、このような設置物の存在を忘れると、納車の日にさっそく「コツン!」とやりかねないので要注意!

putting in the garage 9-3 hight check 3
開けると、ポート屋根にはここまで近づくんだぞ!
putting in the garage 9-2 hight check 2
この種のクルマの購入を検討するときは試乗車を借りて車庫に入れ、バックドアを開けてみることもお忘れなく

それと、この車庫のように、ポート屋根がある場合は、念のため、きちんと上下寸を図っておくことをお忘れなく。今回のヴォクシーで筆者がいちばん気にかけたのはポート屋根とヴォクシーのルーフの関係です。入れる前に外から見て大丈夫そうだとわかっていても、いざ入れてみるまではわからない。不安なひとは、ディーラーセールス氏に相談して、試乗車を自宅車庫に入れてみることをおすすめします。でないと、これまた納車当日に入らないじゃん! ということに。併せてバックドアのお試し開閉も忘れずに。

ところで第1回で触れた、バンパー裾と地面とのクリアランスについて忘れないうちに。借りている間、ヴォクシーはうちの車庫の後方入口から前向きに突っ込んで入れたのですが、入口がせまいぶん、周囲のフェンスや生け垣をクリアランスソナーが障害物と判断し、あまりにピーピーガーガー鳴るものですから不安にかられ、「いったいどんなことになっているのか」と外に出てみたら、別に周囲のものと接触しそうになっていたわけではなかったのですが、その代わりフロントバンパー下を見て口から心臓を吐き出しそうになりました。

このようなことになっていたのです。

昨今のクルマを見るにつけ、筆者はサイドシルやバンパー下の低さに懸念していて、実際、コンビニ駐車場の出入り口でバンパー裾を「ガリガリ」と擦っているクルマをときおり見かけますが、ヴォクシーをうちの車庫に出し入れしようとするとこんなことになろうとは! このときのバンパー下~地面の距離、56mm!

通常、道路は雨水を流すために左右が低くなっています。車道から車庫にかけてが特に斜面になっている方、お気をつけください。

さきのほうで書いた「後ろから振り返ったときの視界は、柱が太いので云々…」というのはあるにせよ、おもしろかったのは、あるケースではむしろカローラクロスよりバックがしやすかったことです。車道から収容スペースまで、少し長い距離をバックで移動して入れなければならないようなケース。バックとしては長い距離ですが、後ろを向いてちょいと腰を浮かせ気味にすると(最近のクルマはバックレストが高く、ヘッドレストも大きいため、背伸びしないと後ろが見えない)、キャビンが割と直方体なのと、ガラス面積が大きいため、車両感覚がつかみやすいのです。

●バックガイドモニター/パノラミックビューモニター

どのクルマにも、ピラーやフード、ドアパネルに隠れて直接見ることのできない「死角」が存在します。ことにヴォクシーは低めにあるとはいえ、普通の乗用車に比べるとウエストラインが高いことにはちがいないため、死角は大きめであることを念頭に入れておくべきです。購入価格を押し上げる原因にはなりますが、この死角を補うのが車両そこかしこに設けられたカメラで、ヴォクシーの場合、駐車操作をアシストする「バックガイドモニター」「パノラミックビューモニター」に用いるカメラは写真のように複数台据えつけられています。

camera front with text
フロント周辺のカメラは、パノラミックモニター装着車なら3つ
camera rear with text
リヤにはひとつ

バックガイドモニター用はバックカメラが1つ、パノラミックビューモニター用はここにフロントナンバープレート直上にひとつ、ドアミラー左右それぞれにひとつずつ加わります。

バックガイドモニターはS-Zに標準装備、S-Gに1万6500円の工場オプション。パノラミックビューモニターは、パーキングサポートブレーキとセットで全車に工場オプションですが、グレードによって他のオプションとセットだったり、何とセットにするかでも価格は変わってきます。

・バックガイドモニター

シフトをRにいれたとき、「バックビュー画面」と「ワイドバックビュー画面」のふたとおりで、車両後ろの様子をモニターに生中継します。

ここでは「バックビュー画面」にて説明します。

表示モードは、カローラクロスでは2とおりでしたが、ヴォクシーは4通りあります。

<予想進路線表示モード>

monitor back view 1 prediction way mode with text
バックガイドモニター・予想進路線モード

ハンドル操作に応じて、画面左右に移動する予想進路線を表示するモードです。

<駐車ガイド線モード>

monitor back view 2 parking guide line mode with text
バックガイドモニター・駐車ガイド線モード

説明書そのままの文章を書くと、「ハンドルの切り返し点(駐車ガイド線)が表示されます。予想進路線表示を必要とせずに駐車できる、車両感覚に慣れた方におすすめします。」と。

<距離目安線モード>

monitor back view 3 rough distance line mode with text
バックガイドモニター・距離目安線モード

この「距離目安線モード」と「車両中央予想進路線モード」が、カローラクロスにはなかった画面。「距離目安線モード」は、車両後方の距離の目安を赤線1本で示し、その距離はリヤバンパー後端の中心位置から約0.5m(50cm)。

<車両中央予想進路線モード>

monitor back view 4 center line of the car prediction way mode with text
バックガイドモニター・車両中央予想進路線モード

ハンドル操作連動で、予想進路線や車両中央線の目安などを表示。リヤバンパー中心を、看板やポールなどの目印に寄せる場合に表示させるモード(説明書より)です。

すべてのモードに共通して表示されるのは「後方距離目安線」。リヤバンパー後端の中心からの距離を示し、赤が約0.5m(50cm)、黄色が約1mを示します。ただし「距離目安線モード」は赤線1本だけ。いちばんシンプルで、案外このモードが使いやすいのではないでしょうか。

「後方車幅延長線」は<予想進路線表示モード>と<駐車ガイド線モード>に共通される表示で、クルマをまっすぐ後退させるときの進路の目安を表示。

「後方予想進路線」は<予想進路線表示モード><車両中央予想進路線モード>で表され、ハンドル操作と連動して進路の目安を黄色い線で表示します。

「車両中央線」は<予想進路線表示モード><駐車ガイド線モード>の2つで表示。後方車幅延長線の中心位置を示すというもので、筆者がカローラクロスで初めてみて「こんな誰でも思いつきそうな線、何でいままで(自分が)思いつかなかったのか」と落胆した線です。

「車両中央予想進路線」は<車両中央予想進路線モード>だけで表示される線(あたりまえだ)で、その内容は前記しました。

・・・・・・。

すべて述べたつもりで抜けはないと思うのですが、書いている本人すらややこしく感じるこの文章、読み飛ばしたいひとも多かろうと思います。百聞は一見にしかず。写真をごらんください。

クルマの動きを予測する線はよしとして…

車両後端からの距離を示すラインは、肝心な意味…「0.5m」「1m」とライン横にでも示してくれないとわかりません。説明書に記載はありますが、画面そのものにも表示して初めて使いものになるのだと思います。また、クルマが後ろにあるとき(写真の車庫駐車のように)はこのラインでもいいとして、多くは後ろの壁スレスレか、バックドアが開く程度の空白を残して駐める場合のほうが多いのではないかと思います。フィットやカローラクロスのときにも述べましたが、「バックドア開閉可能限界線」を追加し、「バックドア」表記を添えてくれるほうが、実用性は格段に向上するのではないかと思っています。

次の写真は、プリウスを後ろに、バックドアが開けられる、わざとらしくない空白を残して駐めたときの様子です。写真の地面に示した赤い線を画面にも表示してほしいのです。このときの車間距離は、筆者実測で1100mm。さすがに車高1895mmで、垂直におっ立ったバックドアを空けるには、1m超の距離が必要でした。

実は、バックドアを開けない前提の、ごく普通の距離…結果的に570mmの間隔を置いてバックドアを開けてみたら、何とプリウスの前バンパーにもフードにも引っかかることなく開いてしまいました。ただ、これはプリウスのフードがずるりと下がっている、サメの横顔みたいなフロントスタイルだから開いたのであって、たまたまだと思ったほうがいいでしょう。もし後ろに、バックドアをこちらに向けた(=バックドア同士が向かい合う)同じヴォクシーがいようものなら、ヴォクシーのバックドアがヴォクシーのバックドアを、下から上に「ガリガリガリ…」と傷つけることに…やはりバックドア開閉可能線を追加したほうがいいヨ。

・パノラミックビューモニター

さきに掲げた4つのカメラをフル動員。4つの画像を合成して、モニター画面に映る上面視のヴォクシー(これは絵)と重ね、車両周囲の様子を映し出すというものです。

さあ、ここから先は、バックガイドモニターの5倍くらいややこしいぞ!

シフトポジションによって表示モードが異なるからです。そして各モード内でカメラスイッチを押すたび、異なる表示をさせることができます。

・シフトPのときの表示モード

monitor panoramic 1 see through view with text
パノラミックビューモニター・シースルーモード(写真はアニメーション表示の動画撮影からキャプチャーしたもの)
monitor panoramic 2 moving view with text
パノラミックビューモニター・ムービングモード(写真はアニメーション表示の動画撮影からキャプチャーしたもの)

車両周囲の障害物を、合成画像で表示するモード。運転席からの眺めや、まるでドローンで写しているかのような斜め上方からのクルマをアニメーション表示します。このアニメ表示が見ていてなかなか楽しいものでした。

・シフトがD、Nのときの表示モード

monitor panoramic 3 panoramic and wide front view with text
パノラミックビューモニター・パノラミックビュー&ワイドフロントビュー
monitor panoramic 4 panoramic and side clearance view with text
パノラミックビューモニター・パノラミックビュー&サイドクリアランスビュー
monitor panoramic 5 panoramic and cornering view with text
パノラミックビューモニター・パノラミックビュー&コーナーリングビュー

見通しの悪い交差点やT字路などで、フロントカメラからの映像で車両左右の様子を中継し、接近するクルマや自転車、歩行者の有無の確認ができる画面です。第2回で述べたToyota Safety SenseのFCTA(フロントクロストラフィックアラート)の説明で用いた画面はこのモードです。

・シフトがRのときの表示モード

monitor panoramic 6 panoramic and back view with text
パノラミックビューモニター・パノラミックビュー&バックビュー

先述しているバックガイドモニターの説明は1画面で行いましたが、画面モード切り替えボタンにより、車両上方視を加えたパノラミックビュー&バックビュー、パノラミックビュー&ワイドバックビューに切りかえることができます。

●おおいに気に入ったぞ! 床下透過映像表示

カローラクロス試乗第4回で、「そのうち車両真上や床下路面を映すべく、ルーフやフロア下排気管あたりにもカメラがつくようになるのではと疑いたくもなる。」と書きましたが、このとき筆者はすっかり忘れていました、それを擬似的に表示する技術トヨタにあったことを…「床下透過映像」機能です。

ドラえもんのポケットのひみつ道具の中には、形は違えど、21世紀の現代でもあるていど実現しているものがいくつかあります。友だちの居場所を知る「トレーサーバッジ」の機能は、いまのGPS機能付き携帯電話やスマートホンが持っているし、インターネットなど、筆者は20世紀末から21世紀にかけて広まった「どこでもドア」だと思っています。

ドラえもんの道具の中のひとつに「タイムテレビ」というものがあります。連載初期のタイムテレビは、画面から自分たち(ドラえもん、のび太)の歩く数秒先の姿を画面からホログラフィックで投影するというものでしたが(小学館・てんとう虫コミックス「ドラえもん」第1巻「ドラえもんの大予言」)、多くはある場所の過去・未来を映し出すというモニターとして描かれています。

monitor of through picture at under floor 1
初めのうちは、画面上のヴォクシーの床下は黒いが…
monitor of through picture at under floor 2
動くとほどなく前後カメラの記憶映像が表示される

お話戻ってヴォクシーの「床下透過映像表示」。これはカメラからの映像を一定時間記憶、クルマが進んで記憶した映像部分がクルマの床下に来た頃に、その記憶画像を(たぶん歪みなども修正して)画面上の車両イラストの床下部分に当てはめるというものです。つまりそのとき画面上のヴォクシーはスケスケになっており、さきに筆者が述べた「ボディがガラスでできていれば」「床下排気管にカメラ」が擬似的に実現できているわけです。

異論はあるでしょうが、筆者はこの「床下透過映像」が、たった数秒前のものであるにしても、「過去の様子を映し出す」という点で、ドラえもんの「タイムテレビ」を彷彿させるものに見えてなりません。

この「床下透過映像」は何も新型ヴォクシーに始まったものではなく、トヨタでは先代のランドクルーザー(ランクル200)や現行の300、現行アルファード/ヴェルファイアあたりで実証済みの技術で、カローラクロスの記事を書いたときは忘れていました。実際に目の当たりにしたのは今回のヴォクシーが初めてだったのですが、なるほど、想像していた以上にごく自然に映し出しており、なかなかよくできていると思いました。これは前進でも後退時にも働きますが、車速が20km/h以上になったとき、車両停止後、一定時間が経過したとき、逆に車両始動後、一定上の距離を走っていないときには表示されません。

バックガイドビューにしろパノラミックビューにしろ、表示の種類が多岐に渡りますが、設定項目も豊富に揃っており、クリアランスソナーの表示有無やブザー吹鳴開始距離、移動物警報有無の設定ができるばかりか、画面上のヴォクシーイラストの車体色まで選べるという芸の細かいことセッティングも可能です。

●トランクルーム

luggage room 1 normal
荷室ノーマル時
luggage room 2 maximum
荷室最大時

車室が上にも大きいボディ形状であるため、当然ながら荷室容量も広大。7名フル乗車時のときこそ奥行きは筆者所有の旧ジムニー並みの358mmでしたが、3列目格納時、2列め前進時と使い方しだいでいくらでも拡大することができます。

バックドアの開口部や荷室の寸法は写真のとおり。

荷室寸がわかるよう、その尺度にティッシュの箱を使うことにしていますが、10個では足りないのではと思うほどの寸法でした。

●よく考えぬかれたサードシートの収容法

新型ヴォクシー、現行セレナ、新型ステップワゴン、荷室を拡大するための3列目サードシートの収容法は、比べてみれば3車3様。畳んだときの見た目がいちばんすっきりなのは新型ステップワゴンで、背もたれを倒したシート全体を床下に落とす方式。残る2台は左右跳ね上げ式で、セレナはほぼクォーターガラス下内壁部分に、ヴォクシーは旧型同様、クォーターガラスをふさぐ形で格納されます。

昔のライトエースワゴンじゃあるまいし、いまどきガラスをふさぐなんて感心しないと思ったのですが、ガラスをふさいでしまう点に目をつぶれば、その格納方法はなかなかよく考えられていました。

パーキングブレーキをかける、3列め中央席のベルトとヘッドレストを格納するといったお約束作法を経て、座面下のレバー引きで背もたれを倒し、サイドガラス側に跳ね上げるところまでは新旧一緒。エラいのはその先で、旧型では跳ね上げたシートを抑えながらベルト固定させていたのに対し、新型はシートをぐっとガラス側に押しやれば、シート側のストライカーが内壁に新設されたロック部に自然と入り込んで固定されるというしくみ。シート足の格納も巧みで、旧型からの継承ですが、跳ね上げ操作に連動して足も同時にたたまれるのも立派。セレナは手作業だし、最後の固定もベルト式です。

よくやったなと思うのは、「スーパーリラックスモード」と呼ばれる、2列めセカンドシートのロングスライド機構とうまく両立させている点。旧型のそれは、左右のキャプテンシートをいったん横スライドさせて双方を内寄りにする必要がありましたが、新型はそのまま下げるだけですむようになりました。

seat 3rd retract 11
セカンドシートを後ろにスライドしても、お互いのシートや乗員は接触しない
seat 3rd retract 12
格納時に室内を向くサードシート座面裏もうまく削り取ってある

ここでうまいのは、セカンドシートをロングスライドで下げても、乗員やシート肩が格納後のサードシートにいっさい干渉しないところです。きちんとリクライニングもできる。格納後サードシートは座面裏が室内に面しているわけですが、その表面を巧みに削っているフシもあります。充分な強度を持たせた上でサードシートを軽々と格納できるようにし、かつセカンドシートがどこに来ようと触れないようにしなければならない…このへん、35mmの車幅拡大の効果ぶんを差し引いても、シート設計者、リヤボディまわり設計者、ともに相当な苦労をしたのではないか。

こう考えると、さきに感心しないと書いた、ガラスを塞ぐようなサードシート格納法も、セカンドシートのロングスライドと無関係ではないことがわかります。ステップワゴン式にすればサードシートを収める床下スペースとの関係で、これほどの長いスライドレールが成立したかどうか、セレナ風に内壁格納を選んでも、どうしたってガラス側に追いやるよりは内側に来る…車幅拡大の助けはありますが、旧型と同じガラスふさぎ方式でもその意味はまるで違う(と思う)、サードシートの収容法でした。

●パワーバックドア

ヴォクシーのバックドアは、任意の開度で止められる「フリーストップバックドア(開度調整機構)」なる仕掛けが話題のようですが、今回の試乗車には「パワーバックドア」がついていました(「快適利便パワーパッケージ」に内包して12万6500~15万1800円で、S-Zに工場オプション。)。

開閉方法がリモコン、車内外スイッチでできるほか、手動で閉じ操作ができるのと、開度を5段階&ユーザー任意でセットできる点はカローラクロスと同じですが、バンパー下に足をかざして開閉する機能は、ヴォクシーではサイドシル下に足をかざすスライドドアに移行しています。

<リモコンで>

power back door switch 1 smart key with text
ボタンのチョン押し、長押しでいろいろなことを行うことができる。ガラスの開閉など便利だ

リモコンのスイッチ約1秒押しで、ブザー吹鳴とともに自動開閉。動作中に再押しすると自動停止します。ここでまた約1秒押し続けると逆向きに作動します。

<車内から>

power back door switch 2 inner with text
ルームランプユニット内にはバックドアオープンスイッチのほか、スライドドア開閉スイッチもある

天井ルームランプ部にあるバックドアスイッチを約1秒押し続けると、ブザー吹鳴とともに自動開閉します。動作中のボタン押しでストップし、再度約1秒間押し続けると反転作動するのはリモコン操作時と同じです。

<車外から>

power back door switch 3 outer with text
リヤボディサイドに設けられた、バックドア開閉スイッチ。黒い樹脂に黒いスイッチが埋もれてよく間違えたので、閉じボタンに突起をつけてくれるといい。

おもしろかったのは、たいていのクルマならバックドア本体にある開閉スイッチが、ヴォクシーではスライドドアレールの後端にある点でした。それもボディ両側に、オープン用、クローズ用と別立てにしてあります。これは実車を見るまでわからなかったし、初めて見たときも何のボタンかと思ったのですが、使い慣れれば便利なアイデアだと思いました。ドア付けだと、開けるときはスイッチを押すや、人間はせり上がるバックドアから離れるべく、クルマのサイドに避けなければなりません。どうせ避けるなら、その避ける先にスイッチを置いておけばいいじゃないかというわけです。

power back door switch 3-3
ぐわっと開く!
power back door switch 3-2
ワンタッチで…

左右どちらの場合も、車両前方側がクローズ用、後ろ側がオープン用で、バックドアの動きに即した配列となっているのですぐに覚えるでしょうが、ボタンが黒でレール後端に嵌められている黒の樹脂カバー内にあるため、黒が黒に埋もれて暗がりでも明るい場所でも何度も押し間違えました。ヘンに目立たないようにという配慮でしょうが、リモコンのドアロックボタンと同じく、例えばクローズ側だけ突起を設けてくれるといいと思います。

バックドア解錠時はオープン側を押して、バックドア施錠時はリモコン携帯の上、オープン側長押しで、ブザー吹鳴とともに開。途中でボタンを押したときの動作は、前記と同じです。

閉じ操作はクローズ側ひと押しで閉じますが、クローズ後に全ドアを施錠する「クローズ&ロック機能」もあり、クローズスイッチをブザーが鳴るまで押し、鳴った後に再度押すとバックドアクローズと同時に、全ドアロックまでしてくれます。

バックドアハンドルを持つ、またはドア本体を引き下げるとブザー吹鳴とともに自動で閉まりますが、モーターの抵抗で結構重いので、やはりスイッチでの電動開閉で使うひとがほとんどでしょう。

開度を5段階で調整できる様子の写真も撮っておきましたのでごらんください。

欲をいえば、開ける場所しだいで、スイッチの押し方によって「いまは3」「ここでは全開」と選べるようになるといいと思います。現状、開度の選択は、メーターでの設定画面でしか行うことができません。トヨタのことですから、いずれはそのようにしてくれるでしょう。

●空調性能

auto air-con control panel 1 with text
左右独立温度調整付きオートエアコン&ヒーターコントロールパネル
auto air-con control panel 2-2 rear 2 with text
後席天井部に設置されるリヤオートエアコンの操作盤。リヤ空調の操作はフロントパネルででもできる

5人乗りではない、最大8人乗りのクルマですから、空調コントロールは後席にも備わっています。「左右独立温度コントロールフロントオートエアコン+リヤオートエアコン(リヤクーラー+リヤヒーター)」がS-Zに標準、S-Gに工場オプション。S-Gには「フロントオートエアコン+リヤクーラー」が標準装備となっています。

運転席がわ吹出口から「ナノイー」なる、肌や髪にやさしい弱酸性成分が風とともに放出する「nanoeX」が内蔵されているのと、後席用にもエアコンが備わっている以外、カローラクロスと差はありません。

ひとつだけ特筆したいのは、走行風圧(ラム圧)による自然外気導入量。筆者は過去、雑誌にもクリッカーの過去試乗記にも、「経験上、トヨタ車はラム圧による風の導入量が多い」と書き、カローラクロスもその例にもれないことを確認しました。

自動車メーカー実験部並みの検証はできず、素人発案による感覚的検証でしかないのですが、空調コントロールを「上半身送風」「外気導入」「ファンOFF」にし、80km/h時、100km/h時の風の進入度合いを、全7段階のファン風量のどれに相当するかで見てみました。

ヴォクシーのそれは、カローラクロスの比ではない…と書くと大げさなのですが、そのようにいいたくなるほど豊かなものだったことに驚かされました。

今回はカローラクロスと比較しながら述べると

【80km/h時】
ファン風量全7段階中、以下それぞれの状態で次の風量に相当(()内、カローラクロス)

・全窓閉じ:1.4~1.5(0.7~0.8)
・運転席窓10mm開:1.8(1)
・助手席窓10mm開:1.8(1)
・両席窓10mm開:2.1~2.2(1.5)

【100km/h時】
同じく、

・全窓閉じ:2.1~2.2(1)
・運転席窓10mm開:3(2)
・助手席窓10mm開:3(2)
・両席窓10mm開:3.2(2.2)

輸入車は知らず、たいていの国産車は100km/hでせいぜい0.5~0.7止まりがいいところで、それでも多い方であることが少なくないのですが、ヴォクシーはかなりの風の入り込みを確認することができました。

乗車人数が多いほど二酸化炭素の問題で眠気に誘われたり、多湿な日、雨の日にはガラス内側がくもりやすくなる…多人数乗りのヴォクシーだからこそ、トヨタの空調設計者&実験部は、意識的に外気導入量=換気量を豊かになるようにしたのかも知れません。

これでデフロスター(フロントガラスくもりどめ)を、吹出口選択(MODEボタン)から追い出し、外気温と近い風で吹き出す、完全独立になれば文句なし! 左右独立温度調整にもう1系統加えればできるでしょ?

今回はここまで。

(文・写真:山口尚志 モデル:Mai)

【試乗車主要諸元】

■トヨタヴォクシー S-Z (6BA-MZRA90W-BPXRH型・2022(令和4)年型・2WD・ガソリン・自動無段変速機・ホワイトパールクリスタルシャイン)

●全長×全幅×全高:4695×1730×1895mm ●ホイールベース:2850mm ●トレッド 前/後:1500/1515mm ●最低地上高:140mm ●車両重量:1640kg ●乗車定員:7名 ●最小回転半径:5.5m ●タイヤサイズ:205/55R17 ●エンジン:M20A-FKS(水冷直列4気筒DOHC) ●総排気量:1986cc ●圧縮比:- ●最高出力:170ps/6600rpm ●最大トルク:20.6kgm/4900rpm ●燃料供給装置:D-4S(筒内噴射+ポート燃料噴射) ●燃料タンク容量:52L(無鉛レギュラー) ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):15.0/11.4/15.3/16.9km/L ●JC08燃料消費率:- ●サスペンション 前/後:マクファーソンストラット式/トーションビーム式 ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク ●車両本体価格339.0万円(消費税込み・除くメーカー/ディーラーオプション)