第2戦富士の大クラッシュからドライバーを守った装備の一つ「HANS(ハンス)」ってなに?【SUPER GT2022】

■270km/h以上の大クラッシュからドライバーを守る装備の一つ

5月3日(火・祝)~4日(水・祝)に行われた2022 AUTOBACS SUPER GT Round2 FAV HOTEL FUJI GT 450km RACE。コロナ禍の制限もだいぶ緩和されたおかげで、決勝日である4日には4万4000人以上の大観衆が来場して大盛況となりました。

SUPER GT 2022 第2戦富士のスタート
SUPER GT 2022 第2戦富士のスタート

そんな中、58周目にストレートで起きた大クラッシュは、誰もがドライバーの安否を気遣ってしまうほどのものでした。しかしドライバーは検査入院のみで翌日には退院できる状況ということで、観客や関係者はほっと胸をなでおろしています。

クラッシュのあった現場
クラッシュのあった現場

270km/hを超えるスピードでガードレールに激突したマシンに乗っていた選手が無事であったということで、レーシングカー、とりわけSUPER GTのGT500クラスにおける強固な共通モノコックがドライバーを守ってくれたとして、自動車メディアではそんな論評の記事を数多く目にすることがありました。

また、それに加えてHANS(ハンス)によっても安全が担保された、とする論調をメディアだけではなく、多くのSNSでも見かけます。

●「HANS」とは、衝突時に首が伸びることを防ぐアイテム

現在のGT500マシンのモノコックは、完全にドライバーを包む形で作られており、そこに強力なシートベルトで固定されていれば車外に飛び出すことはありません。

しかし、それは肩から下の話です。

GT300井出選手のHANS
GT300井出有治選手のHANS

モノコックやシートに体を固定するレース用のシートベルトは肩を押さえますが、首から上は固定されていません。このことで、2013年には日本国内でもスーパー耐久のレース中のクラッシュにより、死亡事故が起きてしまいます。衝突時にかかる重力で、固定されていない首はあり得ないほど伸びてしまうのです。

スーパーフォーミュラ山下健太選手のHANS
スーパーフォーミュラ山下健太選手のHANS

今ではレーシングドライバーの義務装着品となっているHANSですが、かなり深刻な生命の危機を確実に守るための装備として、スポーツ走行会などのドライバーなどにも普及しています。

HANSという名称は「Head and Neck Support(頭部前傾抑制装置)」の頭文字からきています。FIA国際自動車連盟ではヘルメット・ヘルメット装着アンカー・テザー含む身体装着デバイスを一括したシステムとし、安全規格統一の上で「FHRシステム(頭部および頸部の保護装置)」と呼んでいます。

HANS本体
HANS本体

そのHANSとはいったいどういうものなのでしょうか?

一見すると、むち打ち症のカラーのようにも見えるHANSですが、これを肩に載せて、被ったヘルメットにHANSからつながるベルトを取り付けます。

そしてシートベルトはHANSごと体を固定します。

これにより、HANSからつながるベルト以上の距離では首が伸びなくなるというものなのです。

HANSの義務化や普及に伴い、4輪レース用ヘルメットもHANSのベルトを取り付けるためのアンカー穴が最初から開いているもの、アンカーが最初から打ってあるものなどが販売されており、今ではなくてはならないものとして認識されています。

HANSも速度域によってグレードがあり、SUPER GTやスーパーフォーミュラ、スーパー耐久のST-3クラス以上であればカーボン製が使用されます。ナンバー付きワンメイクレースなどでは強化樹脂製が使用されます。参加するカテゴリーに合わせて、最適なものを利用するようにしましょう。

(写真・文:松永和浩

この記事の著者

松永 和浩 近影

松永 和浩

1966年丙午生まれ。東京都出身。大学では教育学部なのに電機関連会社で電気工事の現場監督や電気自動車用充電インフラの開発などを担当する会社員から紆余曲折を経て、自動車メディアでライターやフォトグラファーとして活動することになって現在に至ります。
3年に2台のペースで中古車を買い替える中古車マニア。中古車をいかに安く手に入れ、手間をかけずに長く乗るかということばかり考えています。
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