マツダは燃料に石油を一滴も使わないディーゼルエンジンで耐久レースに参戦【スーパー耐久 2022】

■燃料に一滴も石油を使わないディーゼルエンジン耐久レースマシン

3月20日(日)に決勝レースが行われたENEOS スーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankook 開幕戦「鈴鹿5時間耐久レース」。その予選日である3月19日(土)にトヨタの豊田章男社長、スバルの中村知美社長、マツダの丸本明社長が共同で記者会見を行いました。

マツダの丸本明社長
マツダの丸本明社長

記者会見でマツダの丸本明社長は、デミオからマツダ2に新しくアップデートしたバイオディーゼルの参戦マシン、MAZDA SPIRIT RACING MAZDA2 Bio conceptについて、「昨年スポット参戦した岡山戦からかなりパワーアップを果たしている」と説明しました。

バイオディーゼル燃料は、昨年から引き続き株式会社ユーグレナのサステオを使用。これは食用油の廃油を生成したものと、ミドリムシ由来の炭化水素をブレンドした、石油由来の成分を一切持たないディーゼル燃料です。

MAZDA SPIRIT RACING MAZDA2 Bio concept
MAZDA SPIRIT RACING MAZDA2 Bio concept

今回のパワーアップポイントは、ターボエンジンのタービンを1.8リッターエンジンに装着する大型のものに変更しているとのこと。しかし、パワーアップの弊害としてトランスミッションへの負担が大きく、この開幕戦の鈴鹿ではピークパワーを抑えての参戦となっているとのことです。

MAZDA SPIRIT RACING MAZDA2 Bio concept
MAZDA SPIRIT RACING MAZDA2 Bio concept

ル・マン優勝のMAZDA 787Bと同じ55番というゼッケンに改められたMAZDA SPIRIT RACING MAZDA2 Bio conceptは、ピークパワーが抑えられていたとはいえ2分31秒241と、昨年の鈴鹿戦でTEAM NOPROの出した2分33秒520を大きく上回っています。

なお、このトランスミッションの対策品は6月3日(金)~5日(日)に開催される第2戦NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レースから投入されるとのこと。そうなればフルパワーをかけることができ、ラップタイムは大幅に向上することでしょう。

●リッター1万円!バイオディーゼル燃料の認知拡大が普及と量産のカギか?

石油由来の成分を一切使わないことで、カーボンニュートラルを実現しているバイオディーゼル燃料ですが、現段階では普及をしているとはいえず、実験プラントのような設備での製造のために量産効果がありません。そのため、リッター当たりの単価が1万円!という価格となっています。

MAZDA SPIRIT RACING MAZDA2 Bio concept
MAZDA SPIRIT RACING MAZDA2 Bio concept

トヨタがスーパー耐久で走らせる水素エンジンのカローラが掲げるスローガンの「作る、運ぶ、使うの三位一体」は、このバイオディーゼル燃料にも当てはまり、使う側のマツダにはこのスーパー耐久を通じてバイオディーゼル燃料の認知拡大も期待されます。

そういった中、マツダの丸本明社長は「マツダの技術者からはレース用に2.2リッターディーゼルエンジンで300馬力を開発したいという要望があって、それを承認した」との発言が飛び出しました。

これは、2月23日に行われた富士公式テストなどでトヨタやスバルのカーボンニュートラル燃料マシンの開発陣を見たマツダのエンジニアが、「もっと強力な体制を組んでいきたい」と社長に嘆願したものとのことです。

マツダの技術者は「マツダの燃焼技術があればどんな燃料でも燃やせます」と大きな自負を持っているようですし、この300馬力のマシンがレースに参加して、カーボンニュートラル燃料のGR86やBRZ、水素カローラとバトルともなれば、バイオディーゼル燃料の認知も一気に拡大することでしょう。

ピットでエンジニアなどの仕事ぶりを視察する丸本社長
ピットでエンジニアなどの仕事ぶりを視察する丸本社長

その2.2リッターで300馬力のバイオディーゼルエンジンを積んだマシンは、どうやらマツダ3となるようです。現行のマツダ3は国内レースでの参戦実績はありませんが、つい最近まで世界ツーリングカーカップなどに参戦できるTCR仕様の開発が行われていたこともあり、また1世代前のアクセラではスーパー耐久で表彰台の経験もあることから、投入してすぐに好タイムを期待できる状況にあると思われます。

デミオからマツダ2、3世代が並んでのフィニッシュ
デミオからマツダ2、3世代が並んでのフィニッシュ

広島という土地柄から、電気よりも内燃機に重きを置いていた時期もあるマツダは、コンパクトカーからSUVまでのオールラインでディーゼルエンジンを展開する日本で唯一のメーカーです。

そのマツダがディーゼルエンジンをカーボンニュートラルとして存続させるための大きな挑戦となるのが、このスーパー耐久でのバイオディーゼルエンジンによる参戦です。

そんなマツダのチャレンジも含めて、スーパー耐久のST-Qクラスは、近い未来の自動車産業の在り方を模索する実験場の役割としても機能しているのです。

(写真・文:松永 和浩

この記事の著者

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松永 和浩

1966年丙午生まれ。東京都出身。大学では教育学部なのに電機関連会社で電気工事の現場監督や電気自動車用充電インフラの開発などを担当する会社員から紆余曲折を経て、自動車メディアでライターやフォトグラファーとして活動することになって現在に至ります。
3年に2台のペースで中古車を買い替える中古車マニア。中古車をいかに安く手に入れ、手間をかけずに長く乗るかということばかり考えています。
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