電気自動車で雪道を走るとどうなのか、スバル・ソルテラで試してみた

■トヨタと共同開発しながらスバルらしさを追求

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ソルテラはFWDとAWDを用意する。今回はAWDを試乗した

トヨタとスバルが共同開発している電気自動車「bZ4X(トヨタ版)」と「ソルテラ(スバル版)」のプロトタイプに試乗する機会がメディア向けに提供されました。

残念ながら筆者はトヨタbZ4Xに試乗する機会はありませんでしたが、スバル版であるソルテラを雪上試乗することができましたので、その印象をお伝えします。

とはいえ、普通の試乗ではありません。写真を見ればおわかりいただけるように、初試乗がいきなり雪上です。市販前のプロトタイプということもあり、雪に覆われた群馬サイクルスポーツセンターというクローズドコースで試乗することになりました。

スバルのAWD車といえば、降雪地域で絶大な支持を集めています。もはや、ひとつの記号となっているほど、スバルのAWD車には信頼があるといえます。

そうしたブランドの価値は電気自動車の時代になっても守られるのか、また、雪道という限界性能がわかりやすい環境で、スバルらしさは感じられるのか? そのあたりをテーマにソルテラの初ステアリングを握ることにしたのです。

●X-MODEとグリップコントロールを設定

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スバルのSUVではおなじみX-MODEを備える。対角線で空転するようなシーンにも対応する

ソルテラの電動パワートレインの構成は、総電力量71.4kWhのリチウムイオン電池と前後独立モーターになっています(FWD仕様はフロントモーターのみ)。

AWD仕様のシステム最高出力は160kW、前後とも80kWというピーク性能を持つモーターを採用していますので、出力的には0:50~50:50~50:0といった範囲に、リニアに任意の駆動力コントロールができるというわけです。

これはエンジン車に対して大きなアドバンテージとなります。特にスバルのトルクスプリットAWDでは、100:0~50:50までしか駆動力配分をコントロールできませんから、電動AWDではリア優勢の駆動力コントロールも可能ということですし、さらにいえばモーターの高応答性という特徴を活かして、制御のきめ細かさでも有利といえます。

さらに細かい話をすれば、従来のエンジン車ではタイヤのスリップを検知してからエンジン制御系やブレーキ制御系に指令が出ていましたが、モーターの制御系がスリップを感知して、即座にトルクを絞るなどの対応させることができますから、その点でも応答性は向上しています。

電動メカニズムのメリットと、これまでの経験を活かした「X-MODE」と「グリップコントロール」という2つの機能が、SUVとしては圧倒的な走破性を実現しているのです。

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シフト操作はダイヤル式。手前側・右上のボタンでシングルペダルモードが発動する

今回、人工的に作られたモーグルセクションにおいて、両機能を試してみました。写真でもわかるように外から見ているとタイヤが完全に浮いてしまうようなシチュエーションですが、これが運転しているとまったく怖くないどころか、なんの工夫もいりませんし、ドライバーにスキルを求めてこないのです。

X-MODEを選んで、さらに一定速で微速前進するグリップコントロールを利用していれば、運転席に座っているだけで、モーグルをクリアできてしまいます。ドライバーがやることはコースをクリアした後にブレーキを踏むことくらいです。ここまで機械任せで走れてしまうのを体感すると、雪道での完全自動運転というのも夢物語ではないと感じてしまうほどです。

ちなみに、グリップコントロールはセンターコンソールのスイッチで4段階に速度を設定できます。スイッチは若干見づらい印象もありますが、単機能のスイッチとなっているので、操作でミスをしてしまうことはなさそうです。このあたりの手堅い設計も、スバルの知見が感じられる部分といえるでしょう。

●雪道でワンペダルを使ってみたが…

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前後独立モーターの4WD。各モーターの最高出力は80kWで合計160kWを発生する

いよいよ、群馬サイクルスポーツセンターのコースに入ります。今回は、除雪により道幅2m強のルートが設定されていました。ソルテラの車幅が1860mmですから、かなりギリギリとなるのですが、まったく気になりません。

そこには2つの理由があります。

ひとつには、ボディの見切りがよく車幅やノーズ位置、さらにいえばタイヤの位置感覚が掴みやすいことにあります。ボディがそれなりに重いことで、手足のように操れるというほどリニアではありませんが、十分に四隅の位置が把握しやすいボディとなっているのです。

もう一つは、ソルテラがバイザーレスでステアリングの上から覗き込むトップマウントメーターを採用していることにあります。メーターをしっかり見ようとすると着座位置を高めにするため、自然と視線が高くなり、視野が広がります。これも雪道での運転のしやすさにつながっているポイントです。

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メインメーターは7インチ、センターディスプレイは12.3インチ。回生ブレーキの強さを切り替えるパドルを備える

ソルテラには3つのドライブモード(エコ/ノーマル/スポーツ)、Sペダルという名称のワンペダルドライブ、4段階に回生ブレーキを調整できるパドルが備わっています。ワンペダルとパドルは同時に利用できない仕様となっていますが、雪道ではどの組み合わせが乗りやすいのでしょうか。

個人的には、スポーツモードでパドルを併用するというモードが運転しやすいと感じました。ワンペダルはアクセルだけで減速できるので、滑らかに走ることはできるのですが、スリッピーな雪道ではブレーキペダルと回生ブレーキの強弱をコントロールして、減速Gをコントロールするほうが安心して走ることができるという印象を受けたからです。特に群馬サイクルスポーツセンターはアップダウンがあります。ワンペダルでは上りと下りで回生ブレーキの強弱を狙い通りにコントロールするのが難しいとも感じました。

ドライブモードでスポーツが好印象だったのは、もっともリニア感があったからです。電子制御で不要なスリップは制御してくれますから、おそるおそるアクセルを踏むよりも、積極的にトラクションをかけていくほうがクルマの動きがわかりやすいと感じたのです。

こうした積極的な運転のほうが安心感があるのは、それはそれでスバルらしさなのかもしれません。その上で、後輪モーターを上手に使うことで、上りながらのコーナリングではリヤを少し流しながらグイグイと曲がり登っていくという走りも見せてくれました。電気自動車であっても、スバルらしい走りのDNAをしっかりと感じることができたのです。

●スバル・ソルテラ主要スペック

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第一印象はとにかく静か。遮音性も高く、内装トリムからの異音も最小限のため高級感が半端ない

なお、今回の試乗ではエアコンは使っていません。電気自動車の雪道走行ではバッテリーの電力を有効活用するため、シートヒーターやステアリングヒーターで暖を取るのがスタンダードになっていくと考えたからです。そして、試乗している間、寒さはまったく感じませんでした。

シートヒーターは座面と背面が暖かくなります。大きなカイロに包まれているような感覚で、体全体がポカポカとしてきます。後席にも左右にシートヒーターが備わりますから、4名乗車でエアコンを使わないで雪道を走る、なんてこともあり得そうです。

なお、ソルテラには廃熱を利用するヒートポンプエアコンが備わり、空調ダクトも断熱性を考慮したものになっていますから、通常の暖房を使用しても航続距離への影響は抑えられています。それでも、シートヒーターのほうがエアコンより暖まるまでの時間も素早く、出来のいいシートヒーターがあれば空調は使わなくなるという予想通りの展開になりそうです。

まとめると、電気自動車で雪道を走るというのは、目立ったネガがないというより、むしろエンジン車よりも楽しく快適に走れる、そんな印象を受けたソルテラの初試乗でした。

【スバル・ソルテラAWD(プロトタイプ)主要スペック】
全長:4690mm
全幅:1860mm
全高:1650mm
室内長:1940mm
室内幅:1515mm
室内高:1160mm
乗車定員:5名
ホイールベース:2850mm
最小回転半径:5.7m
最低地上高:210mm
車両重量:2020kg~
一充電走行距離:460km前後
システム最高出力:160kW(前 80kW 後 80kW)
システム最大トルク:337Nm
バッテリー総電力量:71.4kWh
総電圧:355V
サスペンション形式:前ストラット 後ダブルウィッシュボーン
タイヤサイズ:235/50R20

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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