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■パフォーマンスダンパーは免振ビル構造のようなもの。ドライバビリティをよくする
突然ですが、「パフォーマンスダンパー」って聞いたことがありますか?
それは、ヤマハ発動機が開発した自動車用(その後2輪車にも展開している)の性能向上技術。純正としてレクサスの「F SPORT」シリーズなどに新車時から組み込まれているほか、車種によってはカスタマイズ用品としてアフターマーケットでも展開しているので、後付け装着が可能です。
クルマ好きなら、詳細までは知らなくてもその名前を聞いたことがある人が多いのではないでしょうかね。
でも、知っている人でも、心の底では思っていたりするのではないでしょうか。「それって本当に効くの?」と。
何を隠そう、この記事を執筆しているワタクシ自身もそのひとり。
そこで今回は、開発製造元であるヤマハ発動機を訪ね、同じ車両で「装着/非装着」を体験してきましたよ。もちろん忖度一切なしのガチンコインプレッションです。
まずは前編として、パフォーマンスダンパーについておさらいしてみましょう。
●そもそも、パフォーマンスダンパーってなに?
ひとことでいえば、走行中の車体に生じるごくわずかな変形や振動を吸収する装置。「車体制振ダンパー」とでもいえばいいでしょうか。
走行中の車体は、路面から衝撃を受けてほんのわずか(1mm以下)ながら絶えず変形しています。その変形を緩和し、また振動を吸収することで車体が設計通りの性能を発揮するサポートをするのが、パフォーマンスダンパーの役割。もっとも効果があるのは、車体前後端(バンパーの裏側付近)に装着することです。
●どんなメリットがあるの?
パフォーマンスダンパー装着のメリットはたくさんありますが、大きなものはふたつあって「乗り心地」と「ハンドリング」。いずれも「車体がしっかりするとよくなる」なんて言われている部分ですが、パフォーマンスダンパーの効果によって向上するのだそうです。
それが本当なら、ドライバーにとっても同乗者にとってもメリットありですね。
●パフォーマンスダンパーが効く原理は?
新しい建築物のなかには、「免震構造」と呼ばれる構造を採用したものがあるのをご存じでしょうか。地震の揺れを緩和する構造です。そのキモは、建物と基礎の間や骨格のつなぎ目などにダンパーが組み込まれていること。ダンパーが動きを吸収することで、建物の揺れを減衰するわけです。
それと同じ原理で、建物を車体に置き換えたのがパフォーマンスダンパーと考えるとわかりやすいかもですね。
ダンパーがほんのわずか(0.01mmほど)動くことで車体の変形エネルギーを吸収。「そんなの効果ないのでは?」と思うかもしれませんが、この0.01mmの動きが効くのだそうです。
実は鉄って、減衰性が低くて一度起こった振動はなかなか止まらないもの。つまり、一度入力が入ると共振が長く続くのです。その振動(=変形)をダンパーの働きで止めようというのが、パフォーマンスダンパーというわけ。
ちなみに、パフォーマンスダンパーが吸収したエネルギーはサスペンションのショックアブソーバーと同じく、熱として空気中に放出されます。
もしかすると「わざわざダンパーじゃなくてもつっかえ棒でいいのでは?」なんて思う人もいるかもしれません。気持ちはわかります。
でも、つっかえ棒だと補強にはなりますが、ダンパーと違って振動の減衰はしません。振動を吸収するというのが、パフォーマンスダンパーのポイントなのです。
ダンパーの内部構造は、サスペンションに使う単筒式のショックアブソーバーに近いですが、伸び側も縮み側も同じように減衰して中立を維持するために、リバウンドスプリングが組み込まれています。
●硬さは21種類ある。実はセッティングも大切
そんなパフォーマンスダンパーですが、筆者は恥ずかしながら「つければなんでもいい」と思っていました。でも、それはとんでもなく大きな誤解。
ダンパーの減衰力は21種類あり、開発では車種ごとに取り付ける車体のサイズや特性などに合わせてマッチングを詰めていきます。車体前後に装着するのが効果的なので、組み合わせはフロント21×リヤ21で合計441パターン。そのなかから、マイスターが実際にテスト走行しながらもっとも適した減衰力を探していくのです。
長さも10種類ほどあり、車体側の取り付け部分の状況に応じて決めるそうです。
なかには、自分の愛車とは異なる車種用のパフォーマンスダンパーを取り付けよう…なんて考える人もいるかもしれません(大きな声では言えませんが、中古で買う場合はその傾向が強いかもしれませんね)。それでも非装着よりは効果があるでしょう。
でも、最大限の効果を得ようとするなら…というか、せっかく装着するのであれば、やはり走行テストを重ねてマッチングがしっかり図られたその車種向けを選ぶべき、というわけです。
後編では、同じ車体でパフォーマンスの有無を乗り比べて「本当に効くのか?」を探ります。
(文:工藤 貴宏/写真:田村 弥)