■最後は試乗車も少数だった
筆者の所有欲を盛り上げたのは、SRがなかなか試乗できないモデルだったから、でもありました。
販売終了を控えて広報車のスケジュールは一杯で、街場のヤマハ販売店で試乗できるところを探すと、筆者が調べた昨年6月の時点では東京には1店舗、千葉にも1店舗しかありませんでした。
東京都心のどちらかというと東側に住んでいる筆者は、わざわざ30kmも離れた西東京市まで試乗に向かいました。
スタッフの先導で近くをしばらく走らせると、予想以上にふわふわと優しい乗り心地で、エンジンも想像より振動や音量が控え目、車体も軽く、その外観同様、ひたすら癒やされる印象を抱きました。
「生産終了まで、残り2台です」というディーラーの言葉に、普段は「迷ったら買わない」を座右の銘としている筆者ですが、「最悪、飽きても大事に乗っていれば買い手がつくだろう」という目論見もあり、即決で注文することに。
「納車は半年後、値引きはゼロです」とさらりと言われました。
結局、他の客のキャンセルなどもあり納車は3ヵ月後の9月に。
ディーラー担当者はキックスタートのやり方や、オプションパーツの選び方(ディーラーでも一部の社外品を扱って取り付けまでやってくれる)、メカニズムが古いためカムチェーンやドラムブレーキの調整など、定期的な整備が不可欠であること、新車保証が3年まで延長可能であることなどを丁寧に説明してくれました。
キックスタートは、デコンプレバーを引いてシリンダー上の小窓を確認、銀色のインジケーターが見えたところで、目をつむり、歯を食いしばるつもりでとにかく思い切りキックペダルを踏み降ろせば、たいてい一発でかかります。
慣れれば小窓を確認しなくても、ペダルの位置を調整するだけでうまく始動できるようになるでしょう。最後のSRは電子制御燃料噴射式なので、始動時にスロットルを開けてはいけません。
ピカピカの新車を自分がおろすというのはとても気持ちのいいものです。日が暮れた一般道を、軽快な単気筒エンジンのサウンドを響かせながら気持ちよく家路につきました。
●さっそく直面したいくつかのトラブル
予め用意してあったバイクカバーをかけ、数日後。再びSRに乗ろうとすると、エンジンから突き出た排気管に、熱で溶けたバイクカバーが付着して穴が開くという大問題が発生していました。
恥ずかしながら、ネイキッドバイクを所有するのが初めてである筆者は、走行直後で熱いバイクにそのままカバーをかけてはいけないことを知らなかったのです。カバーの穴は仕方ないとして、排気管に着いた樹脂は、ちょっとやそっとこすっただけでは落ちそうにありません。
さてどうするか…。ネットを調べると、答えを見つけることができました。
「こすって落とそうとしても無駄だし削れば傷つくので、バイクのエンジンをかけて排気管に熱を加えて、温まったところで拭けばいいんです」
ドキドキしながらエンジンをかけてみると、徐々に溶けた樹脂が柔らかくなっていきます。きれいなウエスでこすってみると、ありがたいことにすべてきれいに落ちました。ろくに走っていない新車が汚れていては大恥なので、本当によかったです。
ちなみに世の中には、排気管の部分だけ樹脂ではなく耐熱性のある綿などで覆ったバイクカバーもあるのですが、それに覆われていない部分は一瞬で溶けるので、やっぱり熱いままカバーを掛けるのはNGです。
筆者はSRに合わせて明るいグレーのライディングパンツを新調したのですが、しばらく走らせていて気がついたことは、どこかから細かなオイル粒が吹き出しているらしく、右足の膝の部分だけ汚れる、という症状が出ていることです。
しばらく走らせていると収まってきたようなのですが、これから初回点検を受けるときによく見てもらおうと思います。
このほか困ったことといえば、街中の渋滞した上り坂で、うっかりエンストさせてしまったところ、焦ったのが悪かったのか再始動に何回もキックを要してようやく掛かり、交通の流れを乱して肝を冷やしたことがありました。
慣らし運転はエンジン回転数4000rpm以下を保つことが指定されており、その期間は納車後1ヵ月または1000kmということで、筆者は安全策をとって走行400kmの現在も4000rpmまでしか回していません。
街中で走らせるぶんには4000rpmでも十分なのですが、高速道路ではトップの5速でも85km/hしか出ないので、後ろからガンガン抜かれることになります。
隣の車線から250ccのアメリカンバイクがかなりの速度差で抜いて行ったときには、ちょっと情けなくなったのも事実です。
ちょっとだけ慣らし運転の禁を破って100km/hほどまで出してみたことがありましたが、5000rpmに達するエンジンは振動が顕著になり、あまり快適とはいえません。エンジンは新車時よりも勢いよく、高い回転数まで回ろうとするようになってきました。
市街地ではソフトで心地良いサスペンションは、自分が前に走らせていたのがどっしりとしたBMWだったからかもしれませんが、高速道路だと風に煽られて落ち着かないのと、前後のバランスが保てずピッチングの動きが出て怖い気もします。
人馬一体という言葉がありますが、そういうものをSRに期待しないほうがいいでしょう。むしろ、馬は乗り手と別の生き物なのだから、それが自然に走る様に人間が合わせてあげるような気分です。
まあ、高速道路を日常的に走らせるならサスペンションにもエンジンにも手を入れてやりたくなるところですが、そんなことをするくらいなら別のバイクをもう一台入手するほうが手っ取り早い気がします。何も触っていないSRの、純な姿が筆者は気に入っているのですから。
現状、このような感じの最終型SR400、これからしばらく自分の愛車として走らせてどんな変化を見せていくのか、そしてそれに対して自分の心持ちがどうなっていくか。
たとえば、徐々にモディファイを重ねていってみたいと思うのか。まずはSRのペースに合わせて、ゆっくり見極めようと思っています。
(文・写真:チーム パルクフェルメ)