新型アウトランダーPHEV初試乗で感動。モーター駆動制御の可能性は無限大!

■2.4Lエンジンと前後モーターによるプラグイン電動車両

三菱自動車といえばSUVのイメージが強く、またMiEVシリーズなど電動化にも積極的なイメージがあります。

そんな三菱自動車らしいモデルといえるのがアウトランダーPHEVでしょう。

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試乗したのは最上級のPグレード。メーカー希望小売価格は532万700円。ボディカラーはホワイトダイヤモンド/ブラックマイカルーフ(13万2000円高)

初代モデルは世界でもっとも売れたプラグインハイブリッドSUVとなったことからもわかるように、プラグインハイブリッドカーのパイオニアといえる存在です。

そんなアウトランダーPHEVが初めてのフルモデルチェンジを実施しました。

発売開始は2021年12月でしたが、ようやく公道で試乗することができた上に、ダートコースを走らせることもできました。オンロード&オフロードで走った印象をお伝えしようと思います。

新型アウトランダーPHEVのプロフィールを簡単に説明すると、エンジンは2.4Lの自然吸気ガソリンで、基本的には発電用モーターを回しています。

高速走行ではエンジンでダイレクトにフロントタイヤを駆動することもありますが、今回80km/h程度で流れる自動車専用道で確認した範囲では、その速度域ではほとんどモーターだけで走行しているようです。

駆動モーターは前後に置いています。つまり電動4WDというわけです。モータースペックはフロント用が85kW・255Nm、リヤ用が100kW・195Nmとなっています。リヤのほうがパワフルなモーターを積んでいるのは、高速走行で4WDらしいスタビリティを生むためということですが、後述する電動4WDの特性を活かした姿勢制御においても意味ある選択といえます。

今回、試乗したのは最上級のPグレード。ボディサイズは全長4710mm・全幅1860mm・全高1745mm、車両重量2110kgとなっています。

●初のフルモデルチェンジで20インチを採用

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新型アウトランダーPHEVは、ルノー日産三菱自動車アライアンスに基づくプラットフォームに三菱独自のプラグインハイブリッドシステムを搭載した電動SUV

驚くのは標準で255/45R20というサイズのタイヤを履いていることです。カスタム仕様ならまだしも、このクラスのSUVで20インチの大径タイヤを標準装備しているというのは、まだまだ少数派といえるからです。

乗り味に無理に大径タイヤを履いているという印象はありません。乗り心地は滑らかそのもので、まるでショーファードリブンのクルマを運転しているような気分になれました。

こうしたマイルドでスムースな感触には、市街地ではモーターだけで走るから(エンジンはときどき発電するだけ)ですが、シャシー性能の高さも寄与しているのは確実です。

20インチタイヤを履きこなすことを前提に、ゼロから設計されたプラットフォームの成果といえます。

ご存知の方もいるでしょうが、新型アウトランダーPHEVのプラットフォームは、ルノー・日産・三菱自動車アライアンスで共有することを前提に開発されたもので、開発リーダーは日産が務めています。ルノーと三菱自動車はフォロワーという関係です。

このプラットフォーム、当初の予定では20インチタイヤを履かせることは前提としていなかったということですが、三菱自動車側から20インチタイヤに対応した設計とするようリクエストを出したことで、こうしたサイズのタイヤを履きこなすシャシーが実現できたといいます。

そうしたリクエストは、アウトランダーPHEVに用いることを前提にしたものなのは言うまでありません。

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ソフトパッドや上質な加飾によって500万円という価格帯に見合うキャビンとなっている

先進安全装備・先進運転支援システムについても、アライアンスの成果は感じられるものでした。

高速道路の同一車線運転支援機能「MI-PILOT(マイパイロット)」は地図情報を活用するナビリンク機能付きであることからもわかるように、アライアンスを組んでいる日産プロパイロットと同等の機能。ACC(追従クルーズコントロール)とLKA(車線維持支援機能)を組み合わせたもの。

ステアリングのボタンを押すだけでシステムが起動、車速設定レバーをセット側に倒すだけという簡単操作で、高度な運転支援システムが利用できます。

実際に使ってみましたが、その走りは違和感なく、むしろ通常レベルのドライバーよりも滑らかと感じられるレベルに仕上がっていました。なおかつ、前述したようにモーター駆動は滑らかですから、高速道路の移動が本当に楽に感じられます。もちろん、高速巡行であっても20インチタイヤがバタつくことはありません。

走行時の情報表示を行なうメインメーターは12.3インチのフル液晶タイプで、さらにマイパイロットの状況などをビジュアル的に示すヘッドアップディスプレイ(Pグレードに標準装備)も用意されています。最小限の視線移動でクルージングできるというのは、安全性アップと疲労軽減につながることでしょう。

●自然すぎる味つけのドライブモードは7種類

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センターコンソールのダイヤルで7つのドライブモードを選択できる

前後モーター駆動と四輪独立ブレーキ制御を組み合わせた車両運動統合制御システム「S-AWC」を標準装備しているのも、新型アウトランダーPHEVの特徴です。

新型モデルでは、ノーマルを基本にエコ/パワー/ターマック/グラベル/スノー/マッドと全部で7つのドライブモードを持っています。世の中には、こうしたドライブモードを切り替えても、微妙な違いすぎてわかりづらいクルマもありますが、アウトランダーPHEVはどうなのでしょうか。

本記事の最後に動画で紹介しているように、ドライブモードを切り替えたときにフル液晶メーターに各モードを示すイラストが映し出されるあたり、自信のほどを感じさせます。

オートランド千葉というダートトライアルのコースで、アウトランダーPHEVのS-AWCの各ドライブモードを体験することができました。

結論からいうと、乾いたフラットダートと濡れた泥道が混在するオートランド千葉では、悪路脱出性能に特化したマッドモードが気持ちよい走りを味あわせてくれました。

タイヤや路面のクリーニングを狙い、積極的に泥を跳ね飛ばす制御となっており、電動4WDとは思えないほどワイルドな走りを楽しむことができたのです。実際、ノーマルモードやスノーモードでは失速するような滑りやすい路面において、マッドモードでは圧倒的なトラクションを持っていることがわかりました。

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ダートコースのオートランド千葉に持ち込んで新型アウトランダーPHEVのドライブモードを体感した

ただし、マッドモードは前に進むことが優先で曲がる制御はあえて意識していません。そのため、ステアリングを切り込んだままアクセルを踏み込むと、タイヤが外側に流れていくプッシュアンダー的な挙動を見せます。

そこでグラベルモードを選ぶと、ステアリング操作を考慮した、曲がるダート走行に最適な制御に変わったことが実感できます。マッドとグラベル、名前のイメージは似ていますが、はっきりとした違いがありました。

調子にのって、舗装路に最適化したターマックモードでダートコースを走ってみましたが、鋭い加速は他のモードをリードしていましたが、スリッピーなコーナーではトラクション不足を感じさせるもので、なるほど、ドライブモードごとにキャラクターの明確な違いがあることが確認できたのです。

さらに感心させられたのは、どのモードを選んでも自然な感覚に仕上がっていることです。この手の電子制御というと違和感バリバリというケースも少なくなく、三菱自動車もかつてのランサーエボリューションではそうした制御だった時代もありますが、新型アウトランダーPHEVのドライブモードはいずれもナチュラルな味つけとなっていました。

とはいえ、ナチュラルというのは内燃機関での感覚に近いという意味にもなります。モーター駆動には、もっと緻密な制御を行なうポテンシャルがあるはずです。人間の感覚では感知することが難しい、4輪スリップ比をコントロールするような電動4WDならではの制御ができるような究極のモードがあっても、いいかもしれません。

そんな「サイバーエボ」的なドライブモードへの期待も高まります。

●3列シート仕様が新設定できたワケ

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初期受注において3列シート仕様の比率は83%と高くなっている

従来のアウトランダーPHEVは5人乗り2列シート仕様だけでした。ベースとなっているアウトランダーに存在していた3列シート仕様が用意できなかったのは、後輪用のインバーターなどが荷室を圧迫していたからなのですが、新型アウトランダーPHEVは7人乗り3列シート仕様がスタンダードとなっています。

リヤ駆動モーターを、デファレンシャルやインバーターなどを一体化した、いわゆるe-アクスルにしたことでスペースを確保できたことが、プラグインハイブリッドの3列シート仕様を可能としたのです。実際、9400台ほどの初期受注においては、約83%が3列シート仕様を選んでいるということで、ユーザーにとっては待ちに待った仕様といえそうです。

ただし、日常的な7人乗車を前提にアウトランダーPHEVを選ぶのは、あまりおすすめできません。

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ただし3列目の足元は狭小で、平均的な大人が長時間乗ることは難しいのも事実

筆者の身長は163cmと成人男性としては小柄な方ですが、それでも3列目に座るとヘッドクリアランスは不足していますし、ひざ回りの余裕はなく、2列目シートの背面に足がくっついてしまいます。あくまでも、近距離利用のエマージェンシー的スペースであることは認識しておくべきでしょう。

それでも、小学生くらいの子どもであれば十分に座れるスペースは確保されています。家族構成によっては、アウトランダーPHEVの3列シート仕様は「待ってました!」といえるモデルであることは間違いありません。

新型アウトランダーPHEVには、総電力量20kWhの駆動用バッテリーが搭載され、WLTCモードで83~87km、JC08モードで99~103kmのEV走行が可能となっています。

駐車場に充電設備を設備できる環境であれば、日常的にはガソリンを使わずには走ることが可能で、環境性能と経済性の両面で有効なSUVであることも魅力です。

自動車コラムニスト・山本晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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