一気に1000km走れる電気自動車。メルセデスのVISION EQXXが凄すぎる

■電気自動車のネガをすべて消したコンセプトカー

●F1のノウハウを活かした高性能バッテリー

VISION EQXX
一充電航続距離1000kmという超ロングレンジを実現するための技術ショーケースといえるコンセプトカーだ

2022年、いきなりダイムラー(メルセデス・ベンツ)がすごいコンセプトカーを発表しました。その名は「VISION EQXX」、F1テクノロジーを活かした理想的な電気自動車です。

いわゆる4ドアクーペ的なスタイリングとしているのは意味があって、このコンセプトカーが目指しているのは一般的に電気自動車の弱点として言われることの多い航続距離を十分以上に伸ばすこと。

結論からいえば一充電航続距離1000kmを可能にするために、すべてのメカニズムをロジカルに積み上げられた電気自動車といえます。

VISION EQXX
タイヤやホイールも走行抵抗を低減するためのスペシャルメイド

クーペ的なボディも、よく見るとラングヘック(ロングテール)形状になっていて、明らかに空力優先でデザインされたことがわかります。

ドアミラー、アウターハンドル、タイヤ、ホイールそしてAピラーの形状まで空力が最優先。フロントにはメルセデスらしいグリルはなく、わずかな開口部もシャッターによって完全に閉じることができる設計となっているほどです。

ちなみに、VISION EQXXはRWD(後輪駆動)となっていますが、最高出力は150kWとメルセデスの電気自動車コンセプトというイメージからすると控えめ。

ですが、それも一充電航続距離1000kmを実現するために必要なファクターとして求められたスペックといえるでしょう。

VISION EQXX
バッテリーからタイヤを回すまでのエネルギー効率は95%と無駄がない

その駆動モーターやバッテリーの開発においては、メルセデスAMG F1での経験がフィードバックされているといいます。たしかに、F1マシンのパワーユニットに使われる駆動モーターやエナジーストア(バッテリー)には小型軽量・高効率であることが求められます。

そうしたノウハウがVISION EQXXには投入されているのです。

たとえば駆動系ではバッテリーからホイールに伝わるエネルギー効率95%を達成しているといいます。ホイールは軽量なマグネシウム製で、タイヤもころがり抵抗を大幅に低減したスペシャルな専用品となっています。

バッテリーについてもF1で使うエナジーストアの考え方を応用することで、コンパクトで軽量なバッテリーパックを実現しています。エネルギー密度は400Wh/Lに達しています。

●軽量ボディは超空力性能を実現する

VISION EQXX
見るからにテールが長く空力に優れたスタイル。Cd値は0.17と驚異的なレベル

コンセプトカーながら、そこかしこに市販モデルを思わせるVISION EQXXですが、テールが伸びたスタイリングは独特です。これが空気抵抗を減らすためのフォルムであることは間違いなく、そのCd値は驚異的な0.17を実現しています。

一般的な市販車でいえば、空力特性に優れたモデルでも0.23前後となっていますから、完全にひとつ上の次元に行っているのがVISION EQXXというわけです。

同社の発表によれば、アメリカンフットボールのボールが0.18ということで、もはやライバルはクルマではなくなっているのでした。

VISION EQXX
格納式リヤディフューザーを採用。高速域での安定性と日常での空気抵抗低減を両立させる

一般論ですが、空力を求めすぎるといくつかの弊害が出てきます。たとえば空気抵抗を減らすことで高速域のリフトが発生、ハンドリングが不安定になる傾向もありますが、VISION EQXXではリトラクタブル・リヤディフューザーを採用することで高速安定性と両立させているのです。

さらに軽量化についても追求されています。

発表されている車両重量は1750kg。バッテリーパックの重量が495kgということはボディとしての軽量化についてもかなり力が入っているはずです。軽量化のためにブレーキディスクまでアルミ合金製としているほどです。

●100kWhのバッテリーで1000kmを走る

VISION EQXX
F1由来のテクノロジーを活かした新型バッテリーはエネルギー密度が高く、軽量になっている

このように、軽量でコンパクトなバッテリー、高効率な電動パワートレイン、空気抵抗の小さな軽量ボディといった要素によって、VISION EQXXは、一充電航続距離1000kmを実現しています。

そして、バッテリーの総電力量は100kWhと発表されています。

しかし単純にバッテリーを大きくして航続距離を稼いだ力技の一台と捉えるのは早計です。

VISION EQXX
ルーフのソーラーパネルにより一日で25km走行相当の発電が可能

バッテリー総電力量と航続距離から電費を計算すると、10km/kWhとなります。電気自動車に乗っている人であれば実感できるでしょうが、この電費はそう簡単には達成できない非常に高いレベルです。

このバッテリーと高効率なパワートレインの知見を活かしたコンパクトカーを作れば、さらに優れた電費も期待できるかもしれません。

そしてユニークなのはソーラーパネルを備えている点です。トヨタが近々販売を開始する電気自動車「bZ4X」にもソーラーパネルは備わっていますのでアイデアとしては二番せんじの感もありますが、VISION EQXXでは一日で25km相当の発電が可能になっているというのが注目ポイント。

チョイ乗りが多いユーザーならば、太陽光に当てておくだけで日常使いが可能になるかもしれません。

つまり充電プラグにつなぐという手間さえ不要な電気自動車としても使える可能性があるのです。

山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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