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■注目の新型と人気の小型スポーツをサーキット比較
スポーツバイク好きの間では、最近、サーキットのスポーツ走行が人気です。
たとえば、筆者もよく行く茨城県の筑波サーキットでは、ショップが主催する走行会イベントに200台以上のバイクが参加。また、同サーキット主催の初心者向けスクールなどでも、平日なのに100台近いバイクが集まり、いつも満員状態です。
参加者は、筆者のようなアラフィフやアラフォーが中心ですが、なかには20代や30代の若いライダーも意外に多くいます。乗っているバイクも、1000ccの大排気量から、250ccクラスの小排気量車などさまざま。
サーキットというと、ついついレースをイメージしがちですが、筆者みたいに、単純にサーキットを思い切り走りたいとか、ライディングが上手くなりたいといった層も多くいます。
そんな2輪スポーツ走行のファン向けに、ヤマハが発売した新型フルカウルモデルが「YZF-R7(以下、R7)」です。
700cc・2気筒エンジンを搭載するスーパースポーツなのですが、コンセプトがすばらしい。
なにせ、最新レーシングマシンのようなスタイルを持ちながらも、誰にでも扱いやすい特性を持つというのですから。
筆者のようにバイク歴は40年と長いものの、サーキット通いは最近始めたばかりといったライダーには、ど真ん中のバイクです。
そんな注目のR7を、ヤマハ主催のメディア向けサーキット試乗会で乗ることが実現しました!
今回は特に、やはり初心者やリターンライダーなどに人気のコンパクトモデル、250ccの「YZF-R25(以下、R25)」や320ccの「YZF-R3(以下、R3)」と比較する機会も頂きました。
サーキットを気負わずに、それでいて上手く走るには、R25やR3も気になっていたモデルたちですから一石二鳥です。
舞台は、千葉県にある袖ヶ浦フォレスト・レースウェイ。全長は2436mですから、筆者がよく行く筑波サーキット同様のショートコースなのも、感じが掴みやすくて好都合。
果たして、オジさんライダーにとって、R7とR25、R3のどれが一番楽しいのか? 早速レポートしてみます。
●扱いやすさとスタイルを両立したR7
まずは、各車の簡単なプロフィールを紹介します。新型R7は、ネイキッドモデルの「MT-07」をベースに、各部をサーキットなどのスポーツ走行に最適化したモデルです。
外観は、ヤマハのスーパースポーツ「YZF-R」シリーズ共通のアグレッシブなデザイン。YZF-Rの特徴ともいえるフロントカウルのM字ダクトも採用します。
ただし、フラッグシップの1000ccマシン「YZF-R1M/R1」が走行風を取り入れる仕様なのに対し、R7のM字はダクトではなく、その中にヘッドライトを搭載しています。
代わって、走行風はカウル左右の2ヵ所のダクトと、ヘッドライト下のウイングレット+インナーパネルの計3ヵ所から取り入れる仕様となっています。
エンジンは、MT07と共通の688cc・2気筒を採用。ヤマハ独自の「クロスプレーン・コンセプト」を基に開発されたエンジンは、慣性トルクが少なく、燃焼室のみで生み出される燃焼トルクだけを効率良く引き出すのが魅力。
低回転域から発生するトルク特性などにより、扱いやすさに定評があります。
R7では、それをベースに、スロットルプーリーをハイスロットル化したり、2次レシオのロング化などで、スーパースポーツらしいパワー感や、タイトコーナーからの立ち上がり時のトルク感をより引き出すことに成功。最高出力は73ps・最大トルクは6.8kgf-mを発揮します。
車体も、MT-07と共通のフレームを採用しながら、剛性バランスをチューニング。アルミ製のセンターブレースをリアアーム外側からピボット上下にリジッドマウントするなどで、各部の締付剛性の最適化や、剛性アップなどを図っています。
ほかにも、直径41mmインナーチューブを採用した新設計の倒立式フロントサスペンション、リヤにはリンク式モノクロスサスペンションなども装備。セパレートタイプのハンドルやバックステップなどにより、スポーティなライディングポジションも実現します。
価格(税込)は、99万9900円で、2022年2月14日の発売予定。
また、2輪最高峰レースWGP(ロードレース世界選手権)へのヤマハ参戦60周年を記念した400台限定モデル「WGP 60thアニバーサリー」も設定。
こちらは1980年代のヤマハワークスカラーを身に纏った仕様で、価格(税込)は105万4900円。2022年3月14日の発売です。
●高回転型エンジンでも乗りやすいR25/R3
一方、R25とR3は、同じ車体に違う排気量のエンジンを搭載した兄弟車です。元々は、スポーツバイク人気が熱い東南アジアなどに向けたモデルで、生産もインドネシア工場。
ところが、日本でも250ccなどの小排気量スポーツバイク熱が盛り上がってきたことで、国内でも2014年に販売。前述の通り、初心者からリターンライダーなど、幅広い層に大きな支持を受けているモデル群です。
エンジンは、R25が排気量249cc、R3は排気量320ccのいずれも直列2気筒を搭載。最高出力はR25が35ps、R3が42psで、いずれも1万回転以上回る高回転型ながら、扱いやすい特性も魅力です。
これら2モデルは、2019年のマイナーチェンジにより現在のスタイルに変更。
YZF-Rシリーズ共通のフロントカウルにあるM字ダクトなどを装備し、よりレーシーなデザインに生まれ変わりました。
また、倒立フロントフォークや肉抜き加工を施したアルミ鋳造製ハンドルクラウン、樹脂タンクカバー付きの燃料タンクなども装備。
各部のディテールも、フラッグシップのYZF-R1M/R1を彷彿とさせるデザインとなったと共に、よりスポーティな走りに貢献します。
価格(税込)は、R25が65万4500円、R3は68万7500円です。
●よりレーシーなR7のポジション
では、R7とR25/R3、それぞれの乗り味を比較してみましょう。
まず、ポジションは、R7の方がよりレーシーな前傾姿勢。R25やR3の方が、上体は起き気味になります。サーキットでより気持ちが高まるのはR7、R25やR3は街乗りや長距離ツーリングにも適したポジションですね。
シート高はR7が835mmで、R25/R3は780mm。R7も足着き性はさほど悪くなく、身長165cm・体重59kgの筆者でも、片足ならカカトまでベッタリ着きます。
ただし、リヤサスペンションがあまり沈まないため、サーキットではしっかり踏んばってくれるものの、街乗りやツーリングなどでは、立ちゴケなどがちょっと不安。
筆者のような体格の人であれば、普段使いなど飛ばさないときは、リヤサスのイニシャルをやや弱めにし、もう少し足着き性をよくした方がいいかもしれません。
対するR25やR3は、筆者の体格でも片足どころか両足もベッタリ。車両重量はR7も188kgとこのクラスとしては軽い方ですが、R25/R3は170kgとさらに18kgも軽量。
狭い駐車場などでの取り回しも含め、初心者や背が低く重たいものを持つのが苦手な女性などには、R25/R3の方が扱いやすいですね。
●R25とR3はコーナーが魅力
コースインして、まずはストレートでアクセルをグンッとひねり加速。当然ながら、排気量がより大きいR7の方が、車速の伸びがよく、サーキットの直線では気持ちよく走れます。
ただし、どちらも、低回転域からトルクが出る2気筒エンジン特有の基本特性はよく似ていて、低速域からとても扱いやすいのが好印象です。
R25とR3では、排気量が大きい分、やはりR3の方が若干ながら速度が上がる時間が短い感じ。
そのため、シフトアップのタイミングも少しだけ早めになりますが、加速フィール自体にはあまり差は感じられませんでした。
ちなみに、今回テストしたコースで最も長いストレートは400m。
筆者の場合、ストレートエンドでの速度は、R7がギヤ4速で170km/hをちょっと超えるくらい。対して、R25やR3は、やはり4速で130〜135km/hくらいでした。
そこから、右に約90度曲がった第1コーナーへ、減速しながらギヤを2速まで落としながら入ります。
ブレーキングではR7の方が速度が出ている分、よりハードブレーキングになりますが、フロントサスペンションがしっかりと踏んばってくれるため、前のめりになりすぎるということはありません。
また、A&S(アシスト&スリッパー)クラッチを装備するため、シフトダウン時に掛かりやすい過度なエンジンブレーキを抑制してくれ、車体姿勢がとっても安定します。
R25やR3にはそういった装備はないため、シフトダウン時にクラッチを切りつつアクセルをアオるブリッピングという操作が必要な場合もあります。
また、量産車で初採用されたブレンボ製の純ラジアルマスターシリンダー付きブレーキレバーは、ライダーの入力に対し、制動力がよりリニアに出てくる感覚を味わえます。MotoGPマシンなど、レーシングマシンにも採用されているこのシステムの効果は、かなり絶大でした。
さらに、R7は、このクラスとしては車体がスリムなこともあり、倒し込みも軽快。旋回性もナチュラルで、狙ったラインを思い通りにトレースしてくれます。
対して、R25やR3は、フロントサスペンション自体はR7より柔らかめの設定ですが、進入車速がR7より低く、しっかりとダンパー効果も出ているため、ハードな制動時でも底付きするような不安はありません。
しかも、車体がより軽いこともあり、倒し込みはさらに軽快。慣れてくると、R7よりもコーナーリングスピードを上げて旋回することが可能となります。
●どちらも疲れにくいのが印象的
R7とR25/R3は、どちらも、サーキットで長い時間、ずっとリラックスして走ることができる点も驚きです。
直線はもちろん、コーナーを旋回する速度も当然ながら公道より高いのがサーキット。必然的に、旋回中の体重移動をより大きくする必要があるなど、とにかく体をよく動かさないと、上手く走れません。
ストレートでは、ちゃんと燃料タンクにアゴを乗せしっかりと伏せつつ、減速ポイントまで前方のできるだけ先をちゃんと見る。コーナー手前では、上体を起こしステップやシート後端などで踏んばりながら、ブレーキングGに耐えつつ減速とシフトチェンジを同時に行う。
コーナー旋回時はヒザや上体をイン側に入れ体重移動し、アウト側の太もも辺りをシートに押しつけマシンをホールド、立ち上がりではマシンをできるだけ早く起こすなど、とにかく忙しく動きます。
筆者は、疲れてくると、そういった動作や操作がおろそかになり、特にブレーキングやシフト操作をミスしがち。また、コーナー中の体重移動が甘くなったりします。
ところが、R7やR25/R3は、そういった体力の消耗や集中力が切れることによるミスが少なかったのが印象的です。
しかも、結局、筆者のレベルであれば、コース全体でみると、走るペースはあまり変わらない感じ。R7の方が直線が速い分、ペースも速く走れると思いきや、コーナーの速度はR25/R3の方が高くできるためです。
周回タイムを計っていないため、あくまで感覚ですが、特に、今回試乗したショートコースでは、さほど差が出にくいことを実感しました。
●結局どれが一番楽しいか?
前述の筑波サーキットの走行会などで、250ccに乗る上手いライダーの人たちが速い理由は、まさにこの点でしょう。筑波サーキットや今回の袖ヶ浦フォレスト・レースウェイのように、直線が短いコースでは、マシンのパワー差が出にくい。
しかも、長い時間でも疲れず走れるという点も、特性の違いこそあれ同じでした。いずれのバイクも、幅広いレベルのライダーが、サーキットを安全に楽しむには最適ですね。
では、筆者ならどれを選ぶか?
今回は試していませんが、よりパワーがあるR7は長距離ツーリングなどでも快適な気がします。サーキット以外も楽しそうです。
あと、全長が約4.6kmあり、約1.5kmの長いストレートがある富士スピードウェイなどの、より大きなコースでも、きっとダイナミックな走りを満喫できるでしょう。
ちなみに、ガソリンはレギュラーでOKで燃費はWMTCモード値で24.6km/L。シリーズのフラッグシップ「YZF-R1M/R1」だと、燃料はハイオク指定で、燃費はWMTCモード値で15.2km/L。
1000ccスーパースポーツと比べ、お財布に優しい点もうれしいところです。
対して、R25やR3は、ショートコースを楽しむなら最適。自分のコーナリングが上手くなった気さえします(筆者の場合あくまで錯覚ですが)。
ただし、R3には車検が必要なため、維持するコストを考えると車検がないR25の方がいいのかも。でも、R25より走りに余裕があるのも確か。
そう考えると、R3は、ナンバーを切りサーキット専用車にして、マフラーやハンドル、ステップなど、さまざまなパーツを付けてカスタムするのも楽しそうです。
本音をいえば、お金さえ許せば、できれば全部所有したいくらい。そんなさまざまな夢が広がるほど、R7やR25/R3は、楽しいバイクたちでした。
そして、きっとそれは、筆者のようなオジさんライダーだけでなく、これからバイクでスポーツ走行を楽しみたい、若いサーキット初心者なども同様じゃないでしょうか。
さて、あなたなら、どれを選びますか?
(文:平塚 直樹/写真:奥隅 圭之、ヤマハ発動機)