■ブルーボトルコーヒーのドリッパーはヤマハの検査治具でチェックされている
いやいやいや、こだわりが濃すぎるでしょ! なんなら、もうブルーボトルコーヒーを飲むたびに、このヤマハ製の治具が脳裏に浮かぶこと間違いなし!
まず前置きを説明しておきます。基本的にアメリカ発の話なんですが、コーヒー界にはサードウェーブという流れがあります。
昭和の頃までの、あまりこだわりなくコーヒーを飲んでいたのがファーストウェーブ。1990年代から流行った、スターバックスに代表される深煎りのエスプレッソをベースに“なんとかラテ”とかいろいろアレンジして楽しむのがセカンドウェーブ。
それに対して、産地等厳選した豆を使い、煎りかた(エスプレッソなどより浅煎り)や淹れかたを追求して飲む、わりとコーヒー通向けのこだわった飲みかたをするのが“サードウェーブ”というわけです。
で、そのサードウェーブの代表格であるチェーンが「ブルーボトルコーヒー」です。本社はアメリカで、日本ほか世界各国に店舗を持つコーヒー店ですが、なんと世界中で、日本の有田焼の銘窯「久右エ門」で作られたドリッパーが使われているそうです。
お湯の熱を奪わないために最薄部で3mmという造形にかなう陶器として選ばれたそうですが、実はそこにヤマハが関わっています。
ヤマハってヤマハ発動機ですよ。バイクメーカーですよ。YZF-R1とかマジェスティSとかを作っているヤマハですよ。ブルーボトルコーヒーの有田焼のドリッパーの抽出口の検査に用いる専用治具を、ヤマハ発動機 試作技術部門が企画・設計・製造をしているというのです。
まず、この有田焼のドリッパー自体がすごいんですよ。焼成による縮み、釉薬による厚み、それらを計算した上で100分の1mmの精度でつくられるそうなんです。それでまぁヤマハの技術者も本気出しちゃったんでしょうな。
抽出口を検査するゲージ部は材料から吟味を重ねられ、高硬度かつ錆にも強い析出硬化系ステンレスという素材が選ばれたそうです。ドリッパーの抽出口は真円ですが、その検査に使う治具は、あえて楕円になっています。そのほうが差し込み作業がスムーズでストレスが減るから。
そして、ゲージの先端から根本にかけては、肉眼ではわからないほどのテーパーがつけられています。ドリッパーの抽出口を検査した際に、1本目のラインまで入らないものはアウト。2本目のラインを超えて入ってしまうものもアウト、というわけです。
●製造に使われるのはMotoGPマシンの部品製作にも使われる設備
そのゲージを作り出すのは、3軸制御の高性能マシニングセンタ。MotoGPマシン「YZR-M1」の専用部品の製造にも使われる装置だそうです!
そして1本に要する時間はなんと60分! マジか!
できあがったゲージは、次に三次元測定機にかけられ、スタイラスと呼ばれる接触部分の赤いルビーで、ミクロンの単位のギャップまで検知し、基準に合わないものは排除されるのです。
マジで? ブルーボトルコーヒーって そこまで求めてる? いや、ブルーボトルコーヒーの人も、そこまではわからないでしょ。そこまで想像できないでしょ。
でもね、そこまでこだわれるんだったらこだわりたいと思ったんでしょう、ヤマハは。
しかも、出荷して終わりじゃないですよ。ゲージの先端部分には目視による摩耗確認ができるような溝加工がほどこされているほか、セルフチェックを可能にする専用の摩耗確認治具まで、有田焼のメーカーに送られているそうです。そして、長く使うことで仮にゲージ部が摩耗しても、手になじんだグリップ部はそのまま使えるよう、セパレート構造の設計として、ゲージ部だけの交換が可能になっているというのです!
なんというこだわりの濃さ!
感動した!
世の中の仕事って、要求どおり、予想どおりにさえいかないことは多いものですが、要求を超える、予想を超える仕事をしてくれると感動するものですよね。
ブルーボトルコーヒーの有田焼のドリッパーの抽出口の検査に用いる専用治具に、これほどのこだわりとクオリティを付与するとは! もうブルーボトルコーヒーを飲みたくなりました。検査治具に思いを馳せながらね。
(まめ蔵)