スズキとダイハツが新たに参画した「Commercial Japan Partnership」の目指す未来とは?

●CASE技術を磨き、普及させる「Commercial Japan Partnership」

クルマの概念を変える技術変革、CASE技術をトヨタが提供し、社会実装に挑戦する「コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ(Commercial Japan Partnership=CJP)」の拡大が止まりません。このプロジェクトは、トヨタといすゞ、日野のトラック・バスメーカーの3社でスタートしました。そこにスズキとダイハツの軽自動車メーカーが加わり、5社体制になりました。

左からトヨタ豊田社長、ダイハツ奥平社長、スズキ鈴木社長と、Commercial Japan Partnership Technologies中嶋社長

市場占拠率あわせて60%以上の軽自動車業界の両雄が参画することで、このプロジェクトの方向性がより明確に見えてきました。

●一気通貫の意味すること

CJPの旗を振るトヨタの豊田章男社長は7月21日の3社共同会見で、両者の動きをこう歓迎しました。

「プロジェクトにスズキ、ダイハツが参画し、いっしょに動くことで、『商用』に加えて『軽』の軸でも協調の輪が広がり、多くの人が笑顔になる、もっといいモビリティ社会に一歩近づける」

豊田社長

そもそもCJPは、商用車を突破口に未来のモビリティ社会を切り拓こうとする計画でした。今年3月には豊田社長は、CJPをスタートさせる意義についてこう説明していました。

「今、求められていることは、CASE技術を磨き、普及させることだと思っております。そのためには、インフラとセットで商用車に実装することが最も大切ではないかという考えに至りました」

軽自動車は台数で、商用車全体の58%を占めます。物流拠点を結ぶ大型トラックと物流のラストワンマイルを担う軽自動車。この2者が揃うことで初めてCJPに“オール商用”と呼べる状況が生まれました。ダイハツ・奥平総一郎社長は、その効果に期待します。

奥平社長

「軽を支えてきたスズキ、ダイハツが参画することで、大動脈から毛細血管までカバーする一気通貫の商用基盤が実現。大きなシナジーが生み出せると確信している」

●商用車のコネクティッドで、物流の効率化を目指す

CJPT
Commercial Japan Partnership Technologiesが本社を置くトヨタ自動車東京本社(撮影 中島みなみ)

CJPの計画を実際に動かしていくのは、コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(Commercial Japan Partnership Technologies=CJPT社)です。スズキとダイハツは、株式譲渡により同社の株をそれぞれ10%取得しました。

自動車メーカーのためのCJPと思いきや、福島県を水素供給拠点としたカーボンニュートラル実現に向けた挑戦では自治体、インフラ事業者、運送事業者、コンビニ、スーパーなどの流通が賛同を表明して、自動車産業で培った技術をいかに社会実装するか、という点に軸足を移しているようにみられます。

協業の内容を3つに集約して、ダイハツ・奥平社長は次のように説明しましたが、第一に掲げたことは自動車の技術開発に関連することではありませんでした。

「日本の物流事業者は約6万社存在しており、その約70%が従業員20人以下の小規模や個人の事業者様であり、まだまだ一人ひとりのお客様の困りごとに寄り添えていません。今回の協業により、これまで把握しきれなかった現場のお客様の声の吸い上げや、トラックからラストワンマイルを担う軽商用までを繋ぐデータ含めた基盤を構築することで、物流全体の効率化などを実現していきたい」

各社の技術やノウハウを協業し、より廉価なADAS(先進安全技術)の開発を実施することは2番目に、商用領域の電動化技術を磨き、廉価で魅力的な商用EVの開発にチャレンジすることは3番目の内容として説明しています。

CJPT社の中嶋弘樹社長の言葉からは、よりその傾向が色濃く伝わってきます。

「ひとつの例として、多くの荷物が集まる東京都のような場所で生産者から消費者に届ける。大動脈から毛細血管までをコネクティッド技術を活用しながらつなぐ検討を進めている。ジャスト・イン・タイムの流通が可能になれば、たくさんの倉庫のありようも変わってくるのではないかと考えている」

●商用の枠を超えて広がる可能性

商用も乗用も扱うスズキ、ダイハツの参画は、CJPという名前の枠を超えていきそうです。スズキの鈴木俊宏社長はこう言います。

鈴木社長

「けして乗用車商用車をわけるつもりはない。ひとつのきっかけとして商用車でやることで、使い手の困りごとがわかりやすくなる。安全、電動化、コネクティッドも含めて商用車で開発していく。それをさらに乗用車に発展させる。商用車用に限定するのではなく、いいものは乗用車にも拡げていく。グローバルにも拡げていく取り組みで開発を行う」

もともと軽自動車メーカーの参画は、豊田社長の強い思いがありました。

「私は軽自動車こそ日本の道が作った国民車だと思っている。人々の生活や仕事を支える重要なライフラインであると同時に、クルマ文化にとってもたいへん重要な存在」と、話します。

スズキの会長を退任した鈴木修相談役は、会長最後の会見でこんな言葉を残していました。

《生きがいは仕事です。挑戦し続けることは人生であるということでもありますから、みなさんも仕事をし続けて下さい、ばいばい》
この言葉を引用して、豊田社長はプロジェクトを推進する意気込みをこう表現しました。

「《みなさん》というのは、ここにいる我々もそうですし、自動車関連産業550万人の仲間へのメッセージだと思っている。私は残された現役たちがしっかり仕事をしていくことによって、仕事をし続けて下さいと言ったおやじに、自動車業界、軽自動車のためにいいことをしてくれたね、ありがとうと言わせたい。(私の)会見を聞いているかどうかわからないが、スズキの幹部には私がこういったということを、相談役にご報告いただきたい」

中島みなみ