天空を目指せ!第99回パイクスピークを制したのはロビン・シュート。期待の日本勢は活躍ならず

■観客ありで行われた偉大なる草レース、パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム2021

●日本から参戦の『RacingYouTubeR』大井貴之選手のリーフe+は…(涙)

1916年に初開催され、以後アメリカ独立記念日前後に開催されてきたパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム(通称:パイクスピーク)が、今年2021年も無事に開催となりました。

PikesPeak
標高4302mのパイクスピークをスタート地点付近から見上げる

世界で2番目に長い歴史を持つこのレースは、別名「The Race to the Clouds(雲へ向かうレース)」とも呼ばれ、コロラド州コロラドスプリングズ近くにあるパイクスピークという山を舞台に開催されます。

レース距離は12.42マイル(約20km)、コースには156ものコーナーが待ち受けています。ゴール地点であるパイクスピークの頂上の標高は海抜14,115フィート(4302m)あり、スタート地点からの標高差は4725フィート(1440m)。

このコースを誰が一番速く走り切るか、1台ずつタイムアタックして競う単純明快なレースなのですが、標高が上がるにつれて酸素が薄くなる高山での走行のため、頂上付近ではエンジンの出力が30%近くダウンするといわれています。

The Race to the Clouds
今年の大会は「The Race to the Clouds」というよりは、「The Race in the Clouds」かも

参戦車両は、市販車ベースのものから、レース車両、果ては自作車両まで幅広く受け入れられています。近年死亡事故が相次いだ二輪部門の開催は昨年からいったん見合わせとなっているため、今年も4輪のエントリーのみを受け付け、この決勝に進出したのは、合計55台。

昨年は新型コロナウィルス感染症拡大の影響で無観客での開催となったこのイベントですが、今年は観客も受け入れることが可能となりました。決勝前、金曜日の夜にコロラドスプリングスのダウンタウンで行われていたファンフェスタは開催中止となったものの、決勝日には先着3500名にギフトバッグが配られるなど、ファンにとってはうれしい観戦復活となりました。

#98 PVA-003 Dallenbach Special(2006年式)
何度もこのパイクスピークの総合優勝経験を持つポール・ダレンバック選手は予選トップだったが、決勝では総合3位に沈む

事前に行われた練習走行は、コースをロア/ミドル/トップに3分割し、エントラントも3つのグループに分けて走行をするようになっています。そのため、決勝日前に事前に20kmのコースを通しで走行することはできず、ここでの予選は練習走行で設定されている3日間のうち、ロアセクションのベストタイムで決定されます。

この練習走行は、初日の22日、そして23日ともに好天に恵まれたものの、予選最終日の24日は朝から雨が降り、路面はウエットからドライに変わるというタイミングでの走行。そのためこの3日目の予選組は軒並みタイムが伸び悩むという結果となりました。

結果、このパイクスピークに長年参戦し、山の男の称号を何度も受けているポール・ダレンバック選手(#98 2006年式PVA-003 Dallenbach Special)が23日に走行した3分52秒497が、予選トップタイムとなりました。

●頂上は…雪⁉

パイクスピーク頂上
通常のチェッカーポイントの様子。路面は凍結し、雪も積もっています

そして決勝日を迎えたわけですが、前夜にパイクスピーク山頂付近に降った雪が積もり、アッパーセクションはまさかの真っ白な雪景色に変わっていました。路面も一部凍結が見られ、とてもレースを行う環境ではなく、午前7時半にスタートするはずの決勝もディレイとなりました。

オフィシャルスタッフが除雪作業を懸命に行いますが、それでも限界はあり、日が昇って路面を照らすようになれば路面状況の改善は可能ですが、早々にコースの短縮が決定しました。

路面状況が悪化する手前のミドルセクションまでのコース(正確な数値は発表されていませんが、レース距離は約9マイル)での決勝レースとなりました。この決勝レースの短縮は2006年以来となります。

2021年の山の男
ロビン・シュート選手が2年ぶり2度目の総合優勝となった

今年の大会は、まずエキシビジョンクラスの8台がタイムのリバース順に走行。続いてポルシェ・パイクスピーク・トロフィクラスの4台が同じくリバースでのタイム順にスタートした後に、それ以外の全クラスの車両の予選タイム順にスタートすることとなります。予選トップだったダレンバック選手は13番目に走行スタートとなります。

#49 Wolf GB08 TSC-LT(2018年式)
2年ぶりの参戦だったが、エアロを見直したり、ターボのタービン径を変えるなど、今回の優勝に向けシュート選手自らが進化させてきたという

その注目すべきタイムは6分35秒663でした。これをターゲットタイムに各車がアタックしていきます。

予選2番手のコーディ・ワショルツ選手(#18 2013年式Ford Open)は6分45秒301、3番手のラファエル・アスティア選手(#991 2015年式Porsche BBI Turbo Cup)は6分36秒867と、ダレンバック選手のタイムを上回ることができません。

#38 Porsche 911 GT2RS Clubsport(2019年式)
ロマン・デュマ選手がドライブする#38 Porsche 911 GT2RS Clubsport(2019年式)は総合2位

それに続き、雨の予選で好成績を残せなかった、一昨年の『山の男(優勝者)』であるロビン・シュート選手(#49 2018年式Wolf GB08 TSC-LT0)が16番目に出走。このシュート選手はダレンバック選手のタイムを大きく上回る5分55秒246のタイムを出してトップを奪取。

それに続く17番目の出走には、VWのI.D.Rパイクスピークでのコースレコードを持つロマン・デュマ選手(#38 2019年式Porsche 911 GT2RS Clubsport)が走りました。デュマ選手もダレンバック選手のタイムを上回りました(6分31秒914)が、シュート選手には及ばず。

結果唯一の5分台をマークしたロビン・シュート選手が今年の総合優勝を飾りました。

●アメリカ在住ドリフトレーサー・吉原大二郎選手✕テスラモデル3は不調により最下位

#90 Tesla Model 3
セーフティモードに入ったままの決勝となったモデル3。バックミラーを見ながらの走行だったという

日本勢では、エキシビジョンクラスに参戦している吉原大二郎選手が7番目に走行。東京都出身、カリフォルニア州セリトス在住のドリフトレーサーでもある吉原選手は、3年連続でこのパイクスピークに参戦しています。昨年はトヨタ86を駆り10分05秒006のタイムで、アンリミテッドクラス優勝(総合9位)を果たしました。

今年は車両をテスラ モデル3に変えてこれに挑戦しています。しかし、吉原選手のモデル3は、スタート直前に出力が出ないという症状が…。再起動を試みることも考えたようですが、もし再起動ができなかった場合、スタート前にリタイアする可能性もあり、再起動せず不調のままスタートしたのですが、スピードが回復することはなく、淡々とセーフティモードで走行を続けざるを得ず、そのタイムは完走した52台のうちの最下位(11分41秒162)という結果となってしまいました。

●話題のRacing YouTubeR・大井貴之選手は車両トラブル→練習走行に間に合わず、出走断念…

#230 リーフe+4WD仕様
サムライスピードが持ち込んだリーフの改造モデル。電気制御系トラブルのため、練習走行に間に合わず今回の出場にはなりませんでした

一方、全日本ラリー選手権に出場(に向けた自主隔離期間確保)する奴田原文雄選手に替わって、クリッカーでもお馴染み『RacingYouTubeR』でもある大井貴之選手にドライバーをスイッチして参戦を予定していたSAMURAI SPEEDは、製作した4WD仕様のリーフe+(イープラス)が、事前のテスト走行時にシステム制御系の不具合が発生し、その後も異なる不具合が散発。

チームは解消に向けて作業を続けましたが、事前の練習走行の出走ができないまま時間が過ぎてしまいました。パイクスピークでは、ルーキーであるドライバーに3セクションの全行程の練習走行が義務付けられていたことから、この条件を満たすことができず、出走を断念しました。

ただチームは、近郊にあるPPIR(パイクスピーク・インターナショナル・レースウェイ)でのテスト走行を重ね、車両のデータ収集を行いました。このデータを基に、来年の100回記念大会への参戦の準備を進めるとのことでした。

さらに、決勝日のスタートポイントでの車両展示やファンサービスを実施しました。

パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムは99回目の大会を終え、次回は100回記念大会となります。次回の開催は2022年6月26日に決勝レースが行われる予定です。

青山 義明

この記事の著者

青山 義明 近影

青山 義明

編集プロダクションを渡り歩くうちに、なんとなく身に着けたスキルで、4輪2輪関係なく写真を撮ったり原稿書いたり、たまに編集作業をしたりしてこの業界の片隅で生きてます。現在は愛知と神奈川の2拠点をベースに、ローカルレースや障がい者モータースポーツを中心に取材活動中。
日本モータースポーツ記者会所属。
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