■500万円台でフル装備のキャデラックに乗れる
GM(ゼネラルモーターズ)が展開するブランドのなかで、もっとも上位に位置するプレミアムブランドがキャデラックです。世界中のどのプレミアムブランドも同じですが、ボディサイズが大きなものからスタートし、やがて社会情勢に合わせてダウンサイジングモデルが登場してきています。
キャデラックはすでに、1975年にはセビルというミドルセダンを投入。今回試乗したCT5は、そうしたミドルセダンの流れのなかにある最新モデルで、2019年にアメリカで発表。2021年1月から日本に導入されています。
アメリカでは6.2リットル・V6を積むCT5-Vブラックウイングというモデルも用意されますが、日本に導入されたモデルは2リットルエンジンを積むモデルで、FRの後輪駆動がプラチナム、4WDがスポーツと、駆動方式によってグレード名が異なります。
試乗車はFRのプラチナムで、240馬力/350Nmの2リットル直列4気筒。組み合わされるミッションは10速のATとなります。
かつてのアメリカ車のようなゆるいフィーリングは存在せず、カッチリした欧州車のような乗り味を獲得しています。
長い間アメリカ車は、自国の広い国土を安いガソリン代で走ることをベースにクルマ作りをしてきました。それはそれでいい時代で、アメリカを感じられるものだったのですが、日本ではどうしても使いにくいフィーリングとなりました。
また、アメリカ国内でも欧州車のようなフィーリングが好まれる傾向が出てきて、次第にアメリカ車のなかにもカッチリしたフィーリングをもつクルマが増えてきました。CT5の前身となるCTSや、セビルの後継となるXTSではそうした傾向が強くなり、欧州や日本での評価も高まってきました。
ダウンサイジングされているといっても、車重は1.5トンを超えて1680kgという重量級モデル。わずか1500回転で最大トルクの350Nmを発生するエンジンは、しっかりと力強い発進を披露します。オルガン式のアクセルペダルは扱いやすく、低速での速度調整でも疲れません。もちろん長距離ドライブはACCにまかせてしまえます。
10速のATは小気味よくシフトアップしていきます。きっちりと、ステップシフトを味わうことができますが、決して変速ショックが大きいわけではありません。試しにアクセルをグイッと踏み込んでみると、しっかりとターボが効いてグイグイ加速していきます。排気音もなかなか軽快で、ドイツ車のV6エンジンのような重低音ではない、どちらかといえばイタリア車の4気筒のような軽快さがあります。
ステアリングにはパドルスイッチが付き、マニュアルでもアップ&ダウンが可能。必要性の有無はともかく、ワインディングにこのクルマを持ち込めばマニュアル操作したくなるのは必至でしょう。びっくりするくらいにハンドリングが正確で気持ちのいい動きをするのです。
走行モードは「ツアー」「スポーツ」「アイス&スノー」の各モードに加えて、自分でスロットルやシフトプログラム、ステアリング、そしてエグゾーストサウンドなどを自由に組み合わせられる「マイモード」が用意されています。
「スポーツ」で走ると、これってアメ車か?(と感じる時点で筆者もまだ固定観念に取り憑かれているのですが)と思わせるほどに軽快なのです。
キャデラックで2リットル? キャデラックで4気筒?という疑問を持つ人も多いでしょう。プレミアムモデルで贅沢するということは、イコール無駄を楽しむという風潮があったのは、もう昔のこと。今はそんな考えではなく、いかに無駄なく未来のことを考えながらが大切。そうしたことも含めてプレミアムモデルを楽しむという時代だと言えます。
そうしたことを考えると、この2リットル4気筒のキャデラックはかなりの魅力です。
レザーシートにオートハイビーム、ACC、歩行者対応のオートブレーキ、オートパーキングアシストと装備も満載。FRのプラチナムなら560万円、4WDのスポーツは運転席&助手席マッサージ機能や19インチホイール&タイヤなども追加され620万円のプライス。
レクサスRXやアルファード(アルファードはさらに高価格帯のモデルも存在する)と同価格帯でキャデラックに乗れるのは、すごいことだと思うのです。ただし、左ハンドル仕様しか用意していないのは…ちょっといただけません。
(文・写真:諸星 陽一)