新型ベンツ Sクラスは、4WSの採用でボディサイズを感じさせないハンドリングを誇る

■やっぱりSクラスならガソリンエンジンがしっくりくる

ショーファードリブンと呼ばれる運転手付きのクルマをはじめ、長きにわたってさまざまな上級モデルを作り続けていたダイムラーが1972年に導入をはじめたフラッグシップセダン、Sクラス

1959年デビューのW111&W112、その後の1965年デビューのW108&109と2代続いた縦長ヘッドライトに代わり、横長角形ヘッドライトに変わった最初のモデルがメルセデス・ベンツSクラスとなりました。

S500 フロントスタイル
フラッグシップセダンらしい堂々としたスタイリング。写真はS500

その後Sクラスは7〜8年ペースでフルモデルチェンジを行い、2020年9月のフルモデルチェンジで、7代目となる現行モデル(型式名W223、V223)へと移行しました。

日本での発売開始は2021年1月で、日本仕様に用意されるパワーユニットは3リットル直列6気筒のガソリンターボ+電動スーパーチャージャーとディーゼルターボ。

ガソリン仕様はS500の車名で435馬力/520Nmのスペック、ディーゼル仕様はS400dの車名で330馬力/700Nmのスペックです。

ガソリンエンジンには16kW/250NmのISG(モータージェネレーター)が組み合わされます。ISGの駆動には、電装系12Vとは別に48Vのリチウムイオンバッテリーを使いマイルドハイブリッドシステムを構成しています。

組み合わされるミッションは9速のAT。今回、日本に導入されるモデルはすべて4WDの4MATICとなります。

ボディタイプは全長/ホイールベースが5180mm/3105mmの標準ボディと、5290mm/3215mmのロングボディを用意。ハンドル位置はすべてのモデルで左右の選択が可能です。

S500エンジン
直列6気筒であることを主張するエンジンカバーを取り付けるS500のエンジン
S400dエンジン
見た目ではほとんど同じでガソリンエンジンと区別が難しいディーゼルエンジン。よく見るとオイルフィラーキャップの位置が異なる

わずか1200回転で700Nmものトルクを発生してしまうディーゼルエンジンは、じつに力強い印象を持っています。

たぶん、アイドリング状態でもとんでもないトルクを発生しているのでしょうが、ブレーキペダルから足を離してクルマが動き出す瞬間のトルク感はジェントルです。

そこからグッとアクセルを踏むと、力感あふれる加速を披露してくれます。さらにアクセルペダルをグィっと踏み込むと、2トンオーバーの車重を感じさせることなくしっかりと加速していきます。

一方、ガソリンターボエンジンはどうかというと、これまた素晴らしいスタートフィールと加速フィールなのです。

最大トルクは520Nmで最低発生回転数も1800回転と、ディーゼルエンジンに比べると劣るように見えるのですが、250Nmのモーターがアシストしてくれるため、スタートフィールや加速フィールも同じように力感あふれるものです。

S500メーター
メーターは細長いタブレットのような液晶方式。サイドのエアコン吹き出し口が2連となっているのがめずらしい。写真はS500
S400dインパネ
正面からみるとセンターモニターがほぼ正方形であることがよくわかる。ステアリングデザインはスポーティになった。写真はS400d

高速道路走行中に巡航走行に入り、アクティブディスタンスアシスト・ディストロニックとアクティブステアリングアシストをオンにしてしまえば、あとはステアリングに触れていればSクラスは快適な移動体と化します。

サスペンションはフロントが4リンクと呼ばれるダブルウィッシュボーンのアレンジタイプ、リヤはマルチリンクとなります。金属バネは用いずに空気バネとしたエアスプリングですが、乗り味はしっかりと剛性感があります。S400d、S500ともに2トンを超えるボディなのでエアサスとのマッチングが非常にいいという印象です。

どちらのエンジンも静粛性、振動特性ともに優れていて、Sクラスらしいフィーリングを実現しています。あえてどちらのエンジンか?と言えば、私はガソリンエンジンを積むS500が好印象でした。

S500フロントシート
タップリと余裕がありながらも、しっかりしたサイドサポートが付けられているフロントシート。シートベルトのラップベルトはシートに固定されるので、密着性が高く安全性が向上する。写真はS500

S400dは少しだけですがディーゼル感があります。これにはいい意味でのディーゼル感も含まれるのですが、Sクラスとディーゼルエンジンという組み合わせがどうもしっくりきません。逆にEクラスならディーゼルを感じられるほうが”らしい”のですが、Sクラスだとやはりガソリンエンジンのほうがしっくりくるという印象があります。

排ガスからはディーゼルの香りはしないのですが、給油時にスタンドで燃料を入れる際に軽油の香りを嗅ぎながら……というのも、ちょっとSではないなぁ…と思うのです。

まあ、Sクラスに乗る人は日本では安い軽油を求めてセルフで給油する必要もないでしょうから、あまり関係がないかもしれません。

S400dリヤシート
もちろんリヤシートのスペースには不満がない。写真はS400d
S500リヤシート
S500はリヤラグジュアリーヘッドレストが標準。写真はリヤコンフォートパッケージ(エアバッグ、ベルトバッグなどセットで125万円)をオプション追加している

大きなボディが与えられ、ホイールベースは3mを超え、駆動方式が4WDとなる新型Sクラスですが、ハンドリングはそのボディサイズを感じさせない軽快感を持っています。

その軽快感を生み出す最大の要因は、リア・アクスルステアリングの名で呼ばれる4輪操舵です。60km/h以上で走っている際には最大約3度の同位相、60km/h以下では最大約4.5度の逆位相に操舵されます。この60km/hという設定速度がじつに微妙なのです。

60km/hは日本では一般道の法定速度です。つまり一般道を合法的に走っている状態ではリヤタイヤは逆位相にステアされ、Sクラスは機敏な動きを示してくれます。一方で高速域に入るとリヤタイヤは同位相にステアし、スタビリティが一気に高まります。

その恩恵をもっとも受けるのが、ディストロニックでクルージングしている際にアクティブレーンチェンジングアシストで車線変更を行うときです。車線変更したい側のウインカーを作動させるとクルマが安全かどうかを確認し、自動的に車線変更を行うのがアクティブレーンチェンジングアシストですが、リヤタイヤもステアされることで圧倒的に高い安定感を獲得しています。

S500正面スタイル
大きなグリルを備えるが、曲線構成で多少威圧感が軽減されている。写真はS500
S500真横
3mを超えるホイールベースはかなり堂々としたスタイリング。写真はS500
S500真後ろ
丸みを帯びたリヤのスタイルはまるでクーペのような端正さを感じる。写真はS500

また、リア・アクスルステアリングは、駐車場などでクルマをこまめに動かさないとならないときの小回りにも大きく貢献します。

1987年、ホンダがプレリュードに量産乗用車として初となる4WSを採用した当時、逆位相にステアするリヤタイヤを操って縦列駐車するのはなかなか至難のわざでしたが、それから30年以上も経った現在、そしてメルセデス・ベンツSクラスですから何の心配もいりません。

クルマを俯瞰で見ることができる360度カメラを備えるので、クルマを動かすのは楽々です。そして、いざ駐車が難しいとなったらアクティブパーキングアシストを使ってしまえば、縦列駐車も並列駐車もクルマが自動で行ってくれます。

S400dラゲッジ
ラゲッジルームの容量は標準で535リットル。リアコンフォートパッケージを装着すると505リットルに減少。写真はS400d
S400dフロントスタイル
S400dのフロントスタイル

(文・写真:諸星 陽一

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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