ヘルメットの材料とは?軽さと高強度を両立させる工夫【バイク用語辞典:材料編】

■衝撃を分散させるシェルと衝撃を吸収するライナーで頭部を保護

●「Arai」と「SHOEI」は、高機能のFRP(繊維強化プラスチック)を使用

転倒時にライダーの頭部を保護するヘルメットは、バイクの性能向上とともに劇的に進化しています。耐衝撃性だけでなく軽量化などの要求に応えるため、シェル素材としてABSやポリカーボネート、FRPなどの高性能樹脂が使用されています。

ライダーの命を守るヘルメットの素材について、解説していきます。

●ヘルメットの構造

ヘルメットの構造は、シールド、シェル、ライナー、チンストラップに大別できます。

ヘルメットの構造
ヘルメットの構造

・シールド
走行時の風やゴミ、ホコリ、日差しや紫外線から、ライダーの目を守るのが役目です。広くてクリアな視界が求められるので、一般的には透明性に優れ高い強度をもつポリカーボネート(PC)が使われます。

・シェル(外殻)
転倒などによる衝撃を分散して吸収する重要な役目を担います。ABSやポリカーボネート(PC)、より高い強度を持つFRP(繊維強化プラスチック)など軽量で高強度の樹脂が用いられます。

・衝撃吸収ライナー
シェルの内側に貼り付けてあるライナーは、衝撃吸収力に優れた発泡スチロールが使われます。2重構造や多段発泡などによって吸収性を高めています。

・チンストラップ(あご紐)
ヘルメットが脱げないようにヘルメットを固定するバンドです。破断や伸びに強い剛性繊維でできています。

この中で安全性にとって最も重要なのは、シェルです。代表的な材料であるABSとポリカーボネート、FRPの特徴について以下に紹介します。

●ABS

ABS樹脂は、ポリスチレンを改良して作ったAS樹脂にさらにポリブタジエンというゴムを添加した熱可塑性(熱を加えて加工)樹脂です。汎用性の高い樹脂でカウルなどにも使われ、比較的安価な材料です。ただし、熱に弱く、紫外線で劣化しやすいという弱点があります。

●ポリカーボネート(PC)

ポリカと呼ばれ、高い透明度を持つ熱可塑性樹脂で、シールドやヘッドライトにも使われます。ABSよりも高価で耐衝撃性に優れますが、ABS同様耐熱性が低いのが弱点です。

●FRP(繊維強化プラスチック)

軽量化素材の強度とコスト
軽量化素材の強度とコスト

芯となる繊維を樹脂で固めたもので、樹脂の低い弾性を繊維で補うことを目的とした樹脂です。

・GFRP(ガラス繊維強化プラスチック)
ガラス繊維を固めたのがGFRPで、一般にはFRPというとGFRPを指します。軽量でABSやPCに比べても高い強度と耐熱性を持ち、FRPの中では比較的安価で使いやすい樹脂です。ヘルメット材料に適しており、2大ヘルメットメーカーの「Arai」と「SHOEI」はすべて独自に改良したGFRPを採用しています。

・CFRP(カーボン繊維強化プラスチック)
カーボン繊維を固めた樹脂がCFRP(カーボン繊維強化プラスチック)です。軽量かつ高強度でGFRPより優れており、レース車のカウルやボディに使われる超高価な材料です。

F1ドライバーやMotoGPのライダーのヘルメットに使用され市販化もされていますが、公道で走る分にはGFRPで十分です。

●ヘルメットの規格

ヘルメットの規格
ヘルメットの規格

ヘルメットの安全性を示す代表的な規格としては、PSCマークやSGマーク、JIS規格、SNELL規格などがあります。

安全レベルは、概ね SNELL規格>JIS規格>PSC>SGの順に高くなります。

・PCSマーク
国が定めた安全基準に適合したことを示すマークです。国内で販売されるバイク用ヘルメットには、このマークの取得が義務付けられています。

・SGマーク
PCSマークと同様の安全基準を、国ではなく製品安全協会が承認したことを示すマークです。SGマークの取得は任意なので、SGマークが無くても国内で販売できます。

・JIS(日本産業規格)マーク
産業製品全般に関する規格を定めたマークです。PSCやSGよりも厳しい規格ですが、この取得も任意なのでマークが付いてなくも販売は可能です。

・SNELL規格
世界で最も厳しいことで知られるアメリカの規格です。「Arai」や「SHOEI」のトップモデルがSNELL規格を取得しています。


ヘルメットは、様々な規格や種類があり、メーカーによっても多種多様です。ここでは、材質について紹介しましたが、フルフェイスやジェットタイプなどのスタイルの違いやデザイン性も選ぶときの重要な要因です。自分のバイクの種類や用途、乗り方など総合的に判断して選ぶことが大切です。

Mr.ソラン

この記事の著者

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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