マフラーからの白煙や黒煙とは?燃焼室にオイルが入ると白煙、混合気が濃すぎると黒煙が出る【バイク用語辞典:故障・トラブル編】

■マフラーから白煙や黒煙が出るのは、エンジン燃焼系の不調のサイン

●白煙は未燃のオイル成分、黒煙は炭素微粒子(カーボン)で構成

最新の排ガス規制に適合しているバイクの排ガスは、ほぼ透明で臭いもほとんどなくクリーンです。しかし、シール系の不具合によって燃焼室内にオイルが浸入すると白煙が、また混合気が濃すぎると黒煙が排出されます。

マフラーから排出される白煙および黒煙の発生メカニズムについて、解説していきます。

●白煙と黒煙とは

マフラーから排出される白煙には、2種類あります。

ひとつは、低温時に発生する水蒸気に起因する白煙です。これは、エンジンが暖まってない低温時に排ガス中の未燃ガソリンの一部と水蒸気が冷やされ、微小な液滴となって空中に浮遊している状態です。したがって、エンジンが暖まると自然に消えるので、不具合ではなく一般的に起こる現象です。

もうひとつは、オイルが燃焼することによって発生する白煙です。オイルは、エンジン内部の摺動部の潤滑を担っていますが、燃焼室に侵入するとガソリンの混合気とともに燃焼します。オイルは、揮発性が悪く燃焼しづらいため、一部が未燃のまま白煙として排出されます。

また黒煙については、何らかの原因でシリンダー内の混合気が設定空燃比より濃い(燃料が多い)場合に発生します。濃い空燃比で燃焼すると、酸素不足で燃焼しきれなかったガソリンの一部が炭素微粒子(黒煙)となって排出されます。

●白煙が発生する原因

白煙の発生原因であるオイルの燃焼室への侵入には、「オイル上がり」と「オイル下がり」と呼ばれる2つの不具合があります。

オイル上がりとオイル下がり
オイル上がりとオイル下がり

・オイル上がり
シリンダーライナーとピストンの間には、熱膨張を考慮してクリアランスが設定され、その隙間をピストンリングが埋めて圧縮を保持します。ピストンの嵌め込まれている3本のピストンリングのひとつオイルリングは、ピストンとシリンダーの隙間を潤滑するオイルを掻き落とする役割をしています。

しかし、リングが折れたり、異常摩耗したり、張力が弱まったりすると、ピストンとライナー間のシール性が悪化して、オイルが燃焼室内にかき上げられる「オイル上がり」が起こります。その結果、オイルが混合気と一緒に燃焼して白煙が発生します。特に、オイル上がりが増える高回転域で白煙が発生します。

・オイル下がり
シリンダーヘッドには、高速で上下運動する吸排気バルブが傾かないようにするバルブガイドがあります。バルブガイドには、シリンダーヘッド側のオイルがバルブステムとガイドの隙間からポート側に漏れないようにバルブステムシールが装着されています。

このステムシールのシール性が劣化などによって悪化すると、特に吸気側はオイルがポートに吸い出されて燃焼室に供給され、白煙が発生します。この「オイル下がり」は、吸気ポートの負圧が高いアイドルや低速運転中に発生します。

●黒煙が発生する原因

エンジンのシリンダーに吸入されるガソリンの混合気は、運転条件に応じて適正な空燃比(吸気質量とガソリン質量の割合)になるように設定されています。設定空燃比よりもガソリン量が多い、または吸気量が少ない状態になると、酸素不足の不完全燃焼となり、燃焼しきれないガソリンの一部が炭素微粒子(黒煙)となって排出されます。

最近の電子制御のバイクでは、吸気量と燃料量が精度良く制御されるので、黒煙の発生はほとんどありません。しかし、キャブレター仕様の旧型バイクでは燃料系の不具合やエアクリーナーの詰まりによって黒煙が発生することがあります。かつてディーゼルトラックがよく黒煙を排出しているのを目にしましたが、燃料こそ軽油と違うものの、原因は同じ過濃燃料による不完全燃焼です。


電子制御のおかげで燃料系の不具合による白煙や黒煙のトラブルはほとんどありません。しかし、オイル上がりやオイル下がりによる白煙については、ピストンリングやバルブオイルシールの劣化や不具合によって、走行距離とともに発生の可能性が高まります。

Mr.ソラン

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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