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■空気量の変化に対して適切な燃料を供給することが重要
●キャブ仕様車では、キャブレター内部の燃料通路の詰まりが不具合の主因
エンジンが不調で回転がスムーズに吹き上がらない原因には、適正な燃料と空気が供給されていない、適切に点火されてない、圧縮不足が考えられます。この中で最も不具合事例が多いのは、適正な燃料が供給されない場合です。
吹き上がり不良の原因として多い燃料の供給不良について、解説していきます。
●適正な混合気とは?
ガソリンエンジンは、アクセル開度に連動してエンジンのスロットルを開けます。スロットルで吸入空気量を調整して、その空気量に応じたガソリンを供給します。エンジンに供給される吸入空気と供給燃料の質量比を空燃比と呼び、運転条件によって最適な空燃比を設定します。
空燃比は、常用運転領域では排ガス規制に対応するため理論空燃比(14.7)に設定し、パワーが必要な加速時や高負荷高回転域ではガソリンが多い空燃比に設定します。
燃料供給方法には、キャブレター方式と電子制御の噴射弁方式があります。キャブレター仕様のバイクは、すでに日本では製造されておらず、噴射弁仕様バイクが主流となっています。しかし、市場にはまだ多くのキャブレター仕様のバイクが走っています。
●キャブレターの不良
キャブレターが適正なガソリンを供給できない原因の多くは、内部の燃料系通路の目詰まりです。目詰まりは、長期使用によって残存ガソリンがタール状に変質してガソリン通路を塞ぐことに起因します。
キャブレターの基本構造は、高速域のガソリン量を調整するメインジェットと、中速域の燃料量を調整するジェットニードルで構成されています。メインジェットは、ガソリン通路を絞り穴の大きさで調整、ジェットニードルはニードルのリフト量を調整することでガソリンの吸い出し量を調整します。ラインが詰まると、供給ガソリン量が減って空燃比が薄くなります。この状態では、出力不足で加速時や高速運転中のエンジンの吹き上がりが鈍くなってしまいます。
また、キャブレター下流のキャブレターと吸気マニホールド、あるいは吸気マニホールドとシリンダーヘッド間の接合部のガスケットのシール不良が発生すると、そこから空気を吸い込むので混合気が薄くなり、同様の問題が起こります。
空燃比が薄い場合だけでなく、逆に何らかの原因で濃すぎた場合もエンジンは不調となり、エンジンの吹き上がりは悪化します。
●噴射弁の不良
現在日本で生産されているバイクは、すべて電子制御の噴射弁方式を採用しています。
噴射弁は、エンジン回転数とスロットル開度、または吸気圧センサーやエアフローセンサーの情報から最適な空燃比になるようにガソリンを噴射します。各種のセンサーが故障すれば空燃比の設定が変わりますが、通常はバックアップ機能があるのでエンジンが不調になるほど空燃比が変化することはありません。しかし、長期使用のエンジンでは噴射弁先端の噴口部に変質したヘドロ状のガソリンやカーボンが堆積して、噴射量が減る場合があります。
またキャブレター同様、マニホールドの接合部などから空気を吸ってしまうと、吸気量変化を検出できないので空燃比は薄くなって、吹き上がりが悪化します。
●その他の原因
燃料不足以外の原因として点火プラグが適正に点火しない場合も、エンジンは不調になります。
点火プラグも長期間使用することで劣化し、点火プラグの電極にカーボンが堆積して点火エネルギーが弱まる、電極が摩耗して電極ギャップが広がって火花が飛び難くなるようなことが起こります。
このような場合は、加減速の少ない定常的な運転の場合は問題なくても、加速や高速運転時のエンジン吹き上がりが鈍くなることがあります。
燃焼の3要素は、適正な燃料、点火、圧縮であり、1つでも欠けると、エンジンは不調になります。吹き上がりが悪い場合は、多くは燃料が適正でない、空燃比が薄いことが原因です。キャブレターから噴射弁方式に切り替わった現在のバイクでは、この症状が出ることは随分少なくなりました。
(Mr.ソラン)