■後輪操舵システム「リヤ ・アクスルステアリング」の高い完成度で取り回しも楽
日本では8年ぶりのフルモデルチェンジとなる新型Sクラスには、自動運転「レベル3」こそ現時点では搭載されていないものの(ドイツでは、2021年後半に導入される見込み)、世界最先端の技術や機能が満載されています。こちらは、多岐にわたるため別の記事でご紹介します。
今回、筆者が試乗したのは、3.0Lの直列6気筒ディーゼルターボを積む「S 400d 4MATIC」。あえてエントリーモデルから乗ることで、素に近い仕様の完成度を知りたいという考えからでした。
とはいっても車両本体価格は1293万円。さらに70万円の「ベーシックパッケージ」、66万円の「レザーエクスクルーシブパッケージ」、99万8000円の「AMGライン」、13万円の「3Dコクピット」が加わり、オプション込みで1541万8000円に跳ね上がります。
パワートレーンは、3.0Lの直列6気筒ガソリンターボとISG(Integrated Starter Generator)を組み合わせる仕様も設定されています。トランスミッションは9ATで、全車に四輪駆動システム「4MATIC」を搭載。ボディサイズは、全長5210×全幅1930×全高1505mmと大柄で、しかも4WD。
そのため、ホテルのとても狭い駐車場では取り回しに気を使ったものの、今回搭載された後輪操舵システム「リヤ ・アクスルステアリング」がかなりの救いになっています。
約60km/h以下では、後輪が前輪とは逆方向(逆位相)に最大4.5度傾きます。逆に約60km/h以上になると、後輪が前輪と同じ方向(同位相)に最大3度操舵され、操縦安定性が高まる機能。
後輪操舵システム「リヤ ・アクスルステアリング」には、低速域では駐車モード(フロントホイールと逆方向に最大4.5度)があり、約60km/h以下ではシティモード(フロントホイールと逆方向に最大4.5度)になります。また、先述のように、高速域での走行安定性を図るべく、前輪と同方向に最大2.5度(約120km/h以上)傾くほか、ドライビングダイナミクスの向上を得るべく、フロントホイールと同方向または逆方向に最大3度まで(約60-120km/h)傾くという、状況により切り替わる賢いシステムになっています。
最小回転半径は、標準ボディが5.4m、ロングボディが5.5mに収まっています。
日本では巨体といえるボディサイズでも大きさ以上に小回りが利く印象を受けるのは、後輪操舵システムの恩恵は明らか。操舵感に違和感はほとんどなく、駐車時や幅寄せする際などでもスムーズに操作できるのも美点です。
ワインディングや高速道路では意のままのハンドリングが得られるのも長所で、こうしたシーンでの走行中は大きさを感じさせず、一体感すら得られます。ステアリングを握ってこその魅力にあふれているのはSクラスの伝統に沿うものといえそうです。
3.0L直列6気筒ディーゼルターボは、330PS/3600-4200rpm・700Nm/1200-3200rpmというアウトプットで、先代の340PS/700Nmから10PS最高出力は抑えられたものの、動力性能には何ら不足はありません。
ディーゼルエンジンとは思えないほどトップエンドまでスムーズに回転を上げていくだけでなく、700Nmという最大トルクに期待されるトルク感も十分。街中であれば少しアクセルペダルを踏むだけで、軽やかに加速していきます。
車内にいるとディーゼルエンジンとは思えないほど静かなのにも驚かされました。もちろん、ロードノイズ、風切り音などの嫌な音も伝えてきません。音・振動面の遮断が期待以上であるのと同時に、乗り心地も路面や速度域を問わずフラットで、走行モードを「スポーツ+」にしても十分に快適な乗り味が得られます。
走りというか、ADAS(先進運転支援システム)の面で唯一、気になったのは、アダプティブクルーズコントロール作動中の制御。欧州車に散見される減速時の制御が「急」な点で、最初は「本当に止まるのか」少し不安になることもありました。
しかし、レーンキープも含めたアシストの制御は概ね正確で、ロングドライブでも安楽な走りと、いざとなればスポーティに楽しめるSクラスらしいファンな要素が満ちています。
(文・写真:塚田 勝弘)