冬季に使うチョークとは?始動性を高めるため混合気を濃くする装置【バイク用語辞典:故障・トラブル編】

■燃料制御が難しいキャブレター仕様のエンジンで採用

●空気を絞る方法と、追加の通路から燃料を吸い出して増量する方法の2種

冬季に気温が下がると、始動しづらくなるというトラブルが散発します。キャブレター仕様のエンジンは、噴射弁仕様のようにガソリン噴射量が自在に制御できないので、チョークを使って混合気の空燃比を濃くします。

キャブレター仕様エンジンで採用されているチョーク機構について、解説していきます。

●低温時に始動性が悪化する理由

ガソリンエンジンでは、吸入空気量に見合ったガソリンをシリンダー内に供給して、混合気を燃焼させて始動させます。常温ではスムーズに始動できても、冬季に気温が0℃を下回るようになると、始動性が悪化します。

悪化する主因は、混合気が薄くなることと、クランキング回転が低下することです。

・ガソリンの気化性悪化
シリンダー内では、ガソリンの気化成分と空気が適正な空燃比(混合比)の混合気を形成して燃焼します。したがって、気化成分が少ない低温時には、空燃比が薄くなり正常に燃焼しづらくなります。

・空気の密度の上昇
空燃比は空気とガソリンの質量比なので、吸入空気の温度が下がり密度が上がれば混合気は薄い状態になります。

・バッテリ電圧の低下
バッテリは、温度が下がると内部抵抗が上昇して、電圧と容量が低下します。バッテリ電圧が下がると始動時のクランキング回転数が低下して燃焼しにくくなります。

・エンジンオイル粘度の上昇によるフリクション増大
オイル粘度が上がると、エンジン摺動部のフリクションが増大して始動時のクランキング回転が低下します。

●チョークバルブ式

チョークバルブ式
チョークバルブ式

最近の噴射弁仕様エンジンは、電子制御で噴射量を自在にコントロールして空燃比を制御できるので、チョーク機構は組み込まれていません。一方キャブ仕様エンジンには、低温時に空燃比が薄くならないようにするチョーク機構が採用されています。

チョークとは、「塞ぐ、絞り」という意味ですが、初期のチョークはスロットルバルブとは別に、その上流にチョークバルブを設けた機構です。チョークバルブは通常は開いていますが、低温時にライダーがハンドルにあるチョークレバーやボタンを操作するとチョークバルブが閉じます。チョークバルブが閉じると、キャブレター通路の負圧が大きくなり、より多くのガソリンが吸い出されて混合気が濃くなります。

●スターターバルブ式

スタータ-バルブ式
スタータ-バルブ式

比較的新しいキャブレター仕様のエンジンでは、チョークバルブ式でなく、スターターバルブ式を採用しています。この方式では、キャブレターに通常の燃料通路に加えて、チョーク用の燃料通路を設けています。チョークレバーを操作すると、チョーク用の燃料通路が開いて追加のガソリンが吸い出されます。結果として、混合気は濃くなり始動性が改良されます。

手動式のチョーク機構は、始動して10~20秒ぐらいでエンジンが安定したら止める必要があります。チョークが効いたまま、濃い混合気の状態で長時間運転し続けるのは、エンジンにとって良いことではありません。比較的新しいキャブ仕様では、手動でなくチョーク機構がエンジンの状況に応じて自動で働くオートチョーク機構が採用されています。


エンジンは、気温が下がれば下がるほど始動しにくくなります。キャブ仕様のエンジンを搭載していた50年ほど前のクルマでも、チョーク機構が付いていました。

バイクでは、キャブ仕様のほとんどのエンジンにはまだチョーク機構が付いていますが、多くはオートチョークなのでユーザはその存在や働きを認識してないかもしれません。

Mr.ソラン

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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