■低いシートのワケ
「低く座るシートが、BMWって感じね」。助手席に座った瞬間から彼女の鋭いチェックが入る。
一般的にクルマの着座位置は年々高くなっているけれど、そんな世間の動きには流されていないのがBMWだ。
「4シリーズ」はクーペだから当然と言えば当然だけど、そうじゃなくてもBMWは低く座るスタイルにこだわっている。床面と着座位置の高低差が低いのだ。
そして、ステアリングのチルト調整も、その低いポジションにしっかりと合うように設計されているのも「わかっているな」と思う。
そんな低いポジションの目的はスポーティな走行感覚のためだけど、ボクはそれだけじゃないと考えている。非日常感の演出だ。
お尻を沈めるように乗り込む感覚は、日常から非日常へのスイッチではないだろうか。普通のクルマの着座位置が高まりつつあるからこそ、4シリーズのような低さに特別な意味が出てくるように思える。
「ちょっと乗り降りがしづらいけれどね」
彼女はそういうけれど、表情はいたずらっぽく笑っている。嫌ではない……のだろう。
●実用性も高い
「後席も広いよね。車体のデザインはいかにもスポーツカーなのに。この見た目と実用性のギャップは、いい意味で予想を裏切られた」
そう、大人が座れるだけの足元スペースを用意する後席も、4シリーズのちょっとした自慢だと思う。
4シリーズの前身は「3シリーズクーペ」で、その前は3シリーズの「2ドアセダン」だった。ドアの数こそ2枚だけど、後席にはセダン同様の居住スペースを備えたパッケージングがルーツなのだ。
いまは4シリーズとして3シリーズからは独立した車種となり、グッと伸びやかでエレガントなスタイリングも3シリーズとは異なるもの。しかし、しっかりと大人が座れるリヤシートを備えるという基本は、初代3シリーズの2ドアがデビュー時からずっと変わっていないのだ。
「見て見て! トランクもちゃんと広いよ」と彼女。さすが目の付け所が違う。
その実用性が、4シリーズが見た目と走りだけのクーペじゃないことの何よりの証明なんじゃないかな。
(文:工藤 貴宏/今回の“彼女”:くるす蘭/ヘア&メイク:長谷川 さほ/写真:ダン・アオキ)