ブレーキ性能とは?安全かつ安定に減速・停止できる能力【バイク用語辞典:走行性能編】

■制動による停止距離は、空走距離と実制動距離の合計

●タイヤロックが発生しない限界で制動力を発揮できるように前後輪ブレーキを調整

ブレーキレバーやペダルを操作すると、その力は油圧やリンクで倍力され、ディスクローターにパッドを押し付けて車輪の回転を止めようとするのが、制動機構の仕組みです。

安全かつ安定して減速、停止する重要な役割を担っているブレーキ性能について、解説していきます

●ブレーキ性能の基本

制動挙動
制動挙動

バイクの制動装置の基本構造は前後独立であり、減速度の大小に応じて前後の操作力を調整するような仕組みです。クルマのように自動的に前後の車輪に制動力が配分されるのとは、大きく異なります。

ライダーが危険を発見して停止の判断をして、実際にクルマが停止するまでの流れを考えてみます。

・空走時間と空走距離

危険を発見してから制動力が発生するまでの時間を空走時間、その間に走行する距離を空走距離と呼びます。空走距離は、ライダーの認知・判断・行動の一連の流れの時間、空走時間で決まるため、車両の性能とは別にライダーの個人的な操作行動能力に依存します。個人差が大きく、危険レベルにもよりますが、一般的には空走時間は0.5~1.0秒程度です。

・実制動時間と実制動距離

制動が効き始めてから停止するまでの時間を実制動時間、その間の走行距離を実制動距離と呼びます。バイク自体の制動機能や車速、路面の摩擦係数によって変化します。

両者を合計したのが、停止時間と停止距離です。

●バイクのブレーキ性能

バイクのブレーキ性能は、クルマと比べると効きが弱いと言われることがありますが、実際はそんなことはありません。ただし、バイクは前輪がロックすると転倒のリスクが高まるので、クルマの急ブレーキのように最初から思い切りブレーキをかけるのは怖いという心理が働くので、運転技術が未熟だとブレーキが甘くなることがあります。

急ブレーキの際、クルマは思い切りブレーキペダルを踏んでもタイヤロックによって方向安定性はそれほど大きくは悪化しません。一方バイクは、後輪がロックすると尻を振り、ロックしない場合より実制動距離は長くなります。尻振り時のバランスを取るのは非常に難しく、特に高速時は至難の技です。そのためバイクも新型車は、2018年10月からABS(アンチロックブレーキシステム)の装着が義務化されています。

●制動距離

タイヤロックしない限界での制動力配分
タイヤロックしない限界での制動力配分

バイクでは、タイヤロックによる転倒を防止するため急ブレーキの状況でも力一杯レバーを握らずにロックしない範囲で制動することが重要です。車輪をロックさせない制動とは、車両の速度を下げるだけでなく、車輪の回転速度も適切に下げなければいけません。

また、減速度の大きさによって前後の制動力の配分を変えなければいけません。

ロックしない限界での理想的な制動力配分は、路面とタイヤの摩擦係数が大きい場合、急ブレーキのように実制動距離を短くしようとすると、前後輪合計の全制動力は当然大きくなり、前輪の制動力が支配的になります。ただし、後輪の制動力もある程度使う必要があります。

一方で路面とタイヤの摩擦係数が小さい、滑りやすい場合は、強い制動力はかけられず実制動距離は長くなりますが、後輪制動力の割合は高める必要があります。


バイクのブレーキ性能は、制動機構の性能に依存しますが、ライダーは車速や路面状況に応じて前後輪の制動力を調整する必要があります。ABS(アンチロックブレーキシステム)の装着が義務化されてはいますが、転倒リスクを回避しながら安定性を確保するためには、ライダーのブレーキ操作技術に頼るところが大きいです。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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