日産の次世代「e-POWER」の発電専用エンジンは世界最高の熱効率50%に到達

■完全定点運転で使用することでブレークスルー

日産が誇る「e-POWER」が、熱効率50%という新たなステージに突入します。

以前お伝えしたように、欧州に投入される新型キャシュカイに、新開発となる12Vマイルドハイブリッドシステムが組み合わされた1.3L直噴ターボエンジンを搭載するほか、欧州初となる「e-POWER」も追加投入予定としています。後者には、可変圧縮比エンジン「VCターボ」が発電専用エンジンとして搭載されます。

日産キャシュカイ
欧州に投入される新型キャシュカイ

2021年2月26日、日産は次世代「e-POWER」向け発電専用エンジンで、世界最高レベルの熱効率50%を実現する技術を発表しました。現在、自動車用ガソリンエンジンの平均的な最高熱効率は30%台で、トヨタはプリウスに最高熱効率40%を達成した1.8Lエンジンを搭載。さらに、カムリに搭載されているハイブリッド用2.5Lガソリンの41%あたりが現時点で最高値でしょうか。日産が指摘するように、現在は最高でも40%台前半となっています。

次世代「e-POWER」発電専用エンジン
次世代「e-POWER」発電専用エンジン

日産が実現を確認したという熱効率50%は、エンジン開発において極めて革新的なものと胸を張るのも頷けます。

熱効率50%を達成できたのは、発電用エンジンとして特化しているから。従来のエンジンは、車速ほか走行シーンによって異なってくる負荷をカバーする出力特性を持つ必要があります。しかしエンジンを発電専用として特化する「e-POWER」は、エンジンによる発電とバッテリー蓄電量を適切にマネージメントすることで、エンジンの使用領域を最も効率の良いポイントに限定することが可能で、エンジン燃焼を高効率化することができます。

さらにバッテリー技術やエネルギーマネジメントの進化によって、エンジンの運転条件範囲を効率的な領域で使用し、将来的には完全な定点運転とすることでさらに熱効率を向上させることが可能。次世代の「e-POWER」用エンジンはこの考え方を基に、完全に「e-POWER」専用設計として開発されています。熱効率50%を達成するため、「STARC」(Strong Tumble and Appropriately stretched Robust ignition Channel)と呼ぶ新燃焼コンセプトが採用されています。

次世代「e-POWER」発電専用エンジン
次世代「e-POWER」発電専用エンジンの開発シーン

このコンセプトは、筒内ガス流動(シリンダー内に吸入した混合気の流れ)や点火を強化し、より希釈された混合気を高圧縮比で確実に燃焼させることで熱効率を向上させるという考え方だそう。従来型エンジンの場合、変化する負荷に対応するために、混合気の希釈レベルの制御には制約があり、筒内ガス流動や点火方法、圧縮比などにもいろいろな運転条件のトレードオフ(たとえば、動力性能のために燃費を犠牲にするなど)があります。

次世代「e-POWER」向け発電専用エンジンは、発電専用に特化して完全定点運転で使用するというブレークスルーにより、熱効率を飛躍的に向上させることが可能になっています。なお、希釈方式として、排気ガス再循環であるEGRを使う場合で43%、リーン燃焼(理論空燃比)を使う際で46%の熱効率をすでに多筒エンジンで実証。それらを完全定点運転すること、廃熱回収技術を組み合わせることで、熱効率50%が実現できることを確認したと明らかにしています。

(塚田勝弘)

この記事の著者

塚田勝弘 近影

塚田勝弘

1997年3月 ステーションワゴン誌『アクティブビークル』、ミニバン専門誌『ミニバンFREX』の各編集部で編集に携わる。主にワゴン、ミニバン、SUVなどの新車記事を担当。2003年1月『ゲットナビ』編集部の乗り物記事担当。
車、カー用品、自転車などを担当。2005年4月独立し、フリーライター、エディターとして活動中。一般誌、自動車誌、WEB媒体などでミニバン、SUVの新車記事、ミニバンやSUVを使った「楽しみ方の提案」などの取材、執筆、編集を行っている。
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