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●一線を「歩み」続けて42年余…鈴木修会長、勇退
2021年2月24日、スズキは電動化と品質向上を2本柱とする2026年3月まで5か年間の新中期経営計画を発表。さらに2025年までの電動化製品の量産拡大の見通しを明らかにする中で、鈴木修代表取締役会長の退任予定を公表しました。
42年余り経営トップとして君臨し続けた修会長は「計画の着実な実行を推進するために役員体制を一新して、後進に道を譲ることを決めました」と述べ、6月の株主総会で一線を退きます。
“生涯現役”会長の修節は、退任会見でも変わらず、響き渡りました。
●退任しても現役
スズキが“偉大なる中小企業”と称されるゆえんは、同社を世界的な自動車メーカーへと成長させた父・修氏のカリスマ的経営手腕と、その下で堅実に社内を取りまとめてきた長男・俊宏氏の家族的な関係にありました。俊宏社長の言葉は、それを物語っていました。
「まだ4か月間は会長として任期がありますし、退任された後も相談役ということで、私はじめ役員の相談を受けてくれるという立場で残られます。今までも指導していただきましたし、それが変わるものではないと思います。(私にとっては)中期経営計画をしっかりやり切るというのがまず第一、数か月間ご指導を賜りながらしっかりと離陸できるようにしていきたい」
株主総会で承認されると、42年余り代表権を持って一線に立っていた修氏は代表権のない相談役になります。
「相談役でありますから、現役の役員衆は気軽に相談できる。肩ひじ張って肩書でやることは遠慮して、相談役として堅苦しいことはやめて気軽に相談してください、という建前でそういうことになりましたね。悪しからずご理解いただきたいと思っております」
と、自然体でスパイスの効いた談話を返す修氏。ただ、会見の参加者を心配させたのが、話の途中で息を接ぎ、言葉を途切れさせた様子です。健康状態を聞かれて、こう答えました。
「昨年、ゴルフは年間47回やりまして、ぴんぴんしています。ご安心ください」
また、こうも話しました。
「退任するけれども現役でいるわけですから。逃げも隠れもしません。相談役を受けることにしましたが別状、肩書を捨てても現役でありますから、どうぞよろしくご相談ください」
修氏は1958年、2代目社長の鈴木俊三氏の娘婿として入社。1978年に社長に就任しました。その後2000年に会長となりましたが、後継者の健康問題などから2008年に会長兼社長として再び前線へ戻ります。現在の体制に落ち着いたのは、2015年の連結売上高3兆円台の回復で、8代目の社長に俊宏氏が就任して以降のことです。
しかし、その後、燃費・排出ガス不正や完成検査不正、大量リコールなど品質問題が噴出。そのことが修氏が会長として取りまとめた今回の新中期経営計画にも盛り込まれます。
「100周年の峠を越えたので決意したわけですが、中期経営計画を電動化とリコール対策にしぼってやってくれることが取締役会で承認されたので納得できてやめることになりました」
●インド市場に続くラストフロンティアは「歩け、歩け!」
修氏が社長時代に手掛けた最も大きな功績のひとつはインド進出でした。1983年12月の生産開始から、インド市場は新中期経営計画でも国内と並ぶ収益の大きな柱です。ホワイトボードにインド工場のレイアウトを描いたことが、ライバル社を抜き去り、決断に踏み切らせたと言います。このことを記者から「先見の明があった」と評されたことも、“修節”で返しました。
「先見の明はありませんね。勘ピューターであります。行きあたりばったりで、到着したら、インドが見えて、上陸したらそこそこ(うまく)いきました」
インドに続く新たな市場について、俊宏社長へのアドバイスを重ねて聞かれた答えもこうでした。
「社長にお勧めするのは『歩け、歩け』。行動力で発見しなさいということ。地球上にはまだ見ない新天地がありますから歩け歩け、行動力で発見すれば大丈夫ですよ」
現役を続ける、力の源は「挑戦」
91歳、やり残したことがあるか、と尋ねられた時、絶えることのない行動力の源泉がわかりました。修氏は過去を振り返りませんでした。
「仕事でも人生でもプライベートでも挑戦し続けることは可能です。生きながらえている間は挑戦し続けていきましょう」
「長期、中期経営計画を見続けていきます。挑戦することは、同時に経営計画をチェックすることでありますから、永久に挑戦することになります」
これには俊宏社長も、こう返すしかなかったようです。
「会長は非常に数字にお強いので、計画を達成すべく無駄のないように、役員連中、部長連中と議論しながら、会長に後ろ指されないようにやっていきたい」
修氏の叱咤激励は我々にも向けられました。
「生きがいは仕事です。人間は仕事を放棄したら死んでしまえ、ということになりますから。生きがいでもあります。挑戦し続けることは人生であるということでもありますから、みなさんも仕事をし続けて下さい」
“中小企業おやじ”と言われた修氏の退任表明は、俊宏社長の経営計画と共に1時間30分にわたって続きました。そして、社長ら役員が深々を頭を下げて会見を切り上げようとした瞬間、つぶやきながら、笑って会場を見渡しました。
「バイバイ…バイバイ」
(文・中島みなみ)