■新社長・三部敏宏さんは、独立独歩な社風からアライアンスを厭わないホンダに導くか?
2021年2月19日、本田技研工業(以下、ホンダ)が経営体制についての重大な発表を行ないました。
ひとつ目は、2021年6月に開催予定の定時株主総会をもって「指名委員会等設置会社」へ移行すること。二つ目が人事面で、生え抜きの新任取締役候補として鈴木麻子氏が選ばれたことが発表されました。
そして、もっとも重要な発表がありました。それが、社長交代です。
4月1日より、これまで本田技研工業・専務取締役であり本田技術研究所・代表取締役社長の三部敏宏(みべ としひろ)さんが、本田技研工業の社長に就任すると発表されました。また、6月1日以降は指名委員会等設置会社への移行に伴い、三部さんの肩書は取締役 代表執行役社長になることが予定されています。
社長交代の発表後に開催された記者会見は、現・代表取締役社長である八郷 隆弘(はちごう たかひろ)さんと次期 代表取締役社長である 現・専務取締役の三部敏宏さんが出席して進められました。
八郷さんの挨拶は、社長在籍の6年間に対して感謝を述べるというものでした。狭山や欧州での生産工場整理、本田技術研究所の体制進化などの改革を進めたという実績、それによって既存事業の盤石化、刈り取りの段階に入ってきたことを述べました。
ホンダの伝統であって開発と生産を別会社にわけるという協調運営体制から、SEDB(営業・生産・開発・購買)の各領域を統合した一体運営体制へ変えるという大変革を実行してきたという実績をアピールする挨拶と感じた人も多いのではないでしょうか。また、「2050年カーボンニュートラル」と「2050年交通事故死者ゼロ」というモビリティメーカーとしての責務を明言したことも八郷体制での事績といえるでしょう。
そして、新社長となる三部さんへの期待については「豊富な知見と力強いリーダーシップでこの厳しい環境に打ち勝ち、ホンダならではの新たな価値の提供をしてくれると考えています」とエールを送ります。
つづいて、次期社長である三部敏宏さんの挨拶となります。
現時点で、本田技術研究所の社長を務める三部さんは「(研究所の社長として)2030年以降のホンダを創っていく新たな技術、価値創造の研究開発を進めてきました。今度はホンダの社長として、これまで仕込んできたものをお客さまにとって魅力ある”モノ”や”コト”として形にしていきます」と話します。
注目は『”モノ”や”コト”』という表現をしたことです。モビリティメーカーとしては、”モノ(商品)”を売ることが従来のビジネスモデルですが、そこに”コト(サービス・体験)”を提供することをビジネスの軸にしようという意図が感じられるからです。
環境エンジンの開発で実績を残したエンジニア出身の三部んさんですが、決してエンジンを積んだモビリティにこだわっているわけではなく、またモビリティというハードにもこだわっているわけではないと、この発言は示しています。
そして、激動の時代にホンダがこれからも「存在を期待される企業」としてあり続けるには、「大きな転換・スピードが求められます」とリーダシップの決意を表面しました。
これまでのホンダといえば内製化にこだわるメーカーという印象もありますが、三部さんは『新しい価値を早期に実現するために、必要であれば、外部の知見の活用やアライアンスの検討なども含めて、躊躇なく決断、実行』していくとも発言しています。
すでにGM(ゼネラルモーターズ)との協業については燃料電池車領域からはじまり、電気自動車、自動運転テクノロジーと拡大していますが、それ以外のブランドとの協業も視野に入れているということなのかもしれません。
現社長の八郷さんは三部さんについて「技術を見極めるセンスがある」とも評していますが、それは三部さんと話したことがあれば、誰もが感じる印象でしょう。
100年に一度の大変革期においてホンダとして実現すべき「”モノ”と”コト”」のために、いい意味で手段を選ばない、変化を恐れないリーダー。技術を愛し、理解の深い三部さんには、そうした姿が期待できるのです。
(自動車コラムニスト・山本 晋也)