動力伝達の概説:エンジン回転と出力を調整して後輪に伝達する仕組み【バイク用語辞典:動力伝達機構編】

■一般的には2つの減速機とトランスミッションでエンジンの回転数とトルクを調整

●トランスミッションとしてはMTが主流だが、無段変速機のような様々なタイプのATも増えている

エンジンのシリンダー内の燃焼によって発生する出力は、クランクシャフトの回転力として取り出されます。その後、1次減速機とクラッチ、トランスミッション、2次減速機で構成される動力伝達機構を経てリアタイヤに伝えられます。

動力伝達機構の基本的な流れとそれぞれの役割について、解説します。

●動力伝達機構とその役割

エンジンンで発生した出力、クランクシャフトの回転力が、最終的にリアタイヤを回転させてバイクを走行させる動力になります。しかし、そのまま単純に連結するだけではバイクを走らすことはできません。そのため、エンジンの動力は「1次減速機構」「クラッチ」「トランスミッション(変速機)」「2次変速機」を経て、3段階で減速して最終的にリアタイヤの駆動力になります。

なぜ、減速機や変速機が必要なのでしょうか。

エンジンは、通常アイドル時の1,000rpmから最高出力を発揮する10,000rpmを超える回転まで作動します。エンジンの出力そのままでタイヤを回転させようとしても、質量が100kg以上あるようなバイクを動かすためにはトルクが足りずバイクは走りません。そこで、減速機による減速やトランスミッションによる変速が必要なのです。

●なぜ減速や変速が必要なのか

エンジンは、高いトルクが発揮できるトルクバンドが狭いため、低回転から高回転まで高いトルクを維持するために減速機やトランスミッションが必要となります。

エンジン出力特性
エンジン出力特性

発進や登坂のような大きなトルクが必要な場合は、変速比が大きいローギヤを使います。トランスミッションによって減速されても、入力されるエンジン出力(トルクx回転数)は変わらないので、減速されるとその分トルクが増大します。例えば、変速比が2では回転数は半分に下がリますが、トルクは2倍に増大します。

一方、高速ではハイギヤを使います。変速によって相対的にエンジン回転数を低下させて燃費を向上させます。また、高速走行中に追い越し加速するときはシフトダウンして、変速段を下げて加速力を強化します。

以上のように、力強くスムーズに走行するために「1次減速機」「トランスミッション」「2次減速機」の3段階で減速および変速して、走行状況に応じた適正な回転数とトルクをリアタイヤに伝達します。

●動力伝達の4つの機構

動力伝達機構
動力伝達機構

・1次減速機

エンジンのクランクシャフトからの出力をギヤで取り出します。その時、大小のギヤを使ってエンジンの回転数を下げてトルクを増大させます。

・クラッチ

1次減速機で減速した動力をトランスミッションに伝える断続機構です。スタート時や変速時、停車時などでエンジンの回転がトランスミッションに伝わらないように遮断します。

・トランスミッション

走行条件に合わせて変速比を変化させ、エンジンの回転数とトルクを調整します。

・2次減速機

1次減速、クラッチ、トランスミッションを経た動力をさらに減速してリアタイヤに伝える減速機、その役割から最終減速機と呼ばれます。

●様々なトランスミッション

MTのギヤ機構
MTのギヤ機構

バイクのトランスミッションとしては、MT(マニュアルトランスミッション)が主流ではありますが、最近はさまざまなAT(オートマチックトランスミッション)が増えています。

DCTの構造
DCTの構造

多くのスクーターに使われているような無段変速機や一部の高性能バイクで採用されているDCT(デュアルクラッチトランスミッション)などです。それぞれ一長一短があるので、バイクの種類や用途などで棲み分けされています。


発進や登坂走行、低速から高速走行まで、さまざまな走行条件で最適な動力性能と燃費性能が得られるように、エンジンの回転数とトルクを調整するのが動力伝達機構の役目です。

本章では、動力伝達の流れとそれぞれの役目について、詳細に解説します。

(Mr.ソラン)

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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