遠心式クラッチとは?遠心力を利用して動力を断続させるクラッチ【バイク用語辞典:パワートレイン編】

■マニュアルトランスミッションのバイクや無段変速機のスクーターで採用

●クラッチレバーを省いて動力を断続する部分を自動化

遠心式クラッチは、エンジン回転に応じて発生する遠心力を利用して自動でエンジンの動力を断続するクラッチです。マニュアルトランスミッションで採用される湿式多板クラッチとスクーターなどで採用される湿式シュークラッチの2種があります。

遠心式の湿式多板クラッチと湿式シュークラッチについて、解説します。

●2種類の遠心式クラッチ

代表的な遠心式クラッチは、スーパーカブなどのマニュアルトランスミッションで採用されている湿式多板クラッチとスクーターの無段変速機で採用されている湿式シュークラッチです。

スーパーカブのようなマニュアルトランスミッション車の遠心式・湿式多板クラッチでは、ハンドルにクラッチレバーはなく、シフトペダルで変速します。一方、スクーターのように遠心式無段変速車では、動力はベルトを介してドライブプーリーからドリブンプーリーに伝えられ、ドリブンプーリーに遠心式・湿式シュークラッチが装着されています。

●遠心式・湿式多板クラッチの構造と作動

クラッチの構造は、湿式多板クラッチをベースにして、クランク軸上に装着された重りの動き、遠心力を利用して動力を断続しましす。ハンドルにクラッチレバーはなく、シフトペダルを踏み込んで変速します。

遠心式・湿式多板クラッチの構造と作動
遠心式・湿式多板クラッチの構造と作動

スタート時、エンジンの回転が上昇すると回転によって重りに遠心力が働きます。重りがフリクションプレート(エンジン側)とクラッチプレート(トランスミッション側)を圧着して、動力がトランスミッションに伝わって発進します。スタート直後は、クラッチが滑る半クラッチ状態なのでショックのないスムーズな発進ができ、その後回転の上昇とともに圧着力が増して完全な接続状態になります。

回転が下がり始め遠心力が小さくなると、フリクションプレートとクラッチプレートを圧着する力が弱まり、プレート間に隙間が発生してクラッチが解放されます。また変速の場合も、シフトペダルを操作することでクラッチリフターによって重りがクラッチから離れて動力が断たれて変速、その後また接続されます。

●遠心式・湿式シュークラッチの構造と作動

遠心式無段変速機では、エンジンの動力はベルトを介してドライブプーリーからドリブンプーリーに伝えられます。ドリブンプーリーには、動力を断続する湿式シュークラッチが装着されます。

遠心式・湿式シュークラッチの構造と作動
遠心式・湿式シュークラッチの構造と作動

クラッチには、スプリングでつながれたクラッチシュー(ドリブンプーリーと連動)が装着され、回転が上がり始めるとクラッチシューが遠心力で外側に広がります。さらに回転が上昇すると、遠心力が強まりクラッチシューがドライブシャフトとつながっているクラッチアウター(ドライブプーリと連動)と圧着して動力を伝達します。

回転が下がりアイドル状態になると遠心力が小さくなり、スプリング力に負けてクラッチシューとクラッチアウターの圧着力が弱まり、隙間ができ動力が遮断されます。


遠心式クラッチをマニュアルトラスミッションと組み合わせるとクラッチ操作は必要ありませんが、変速操作はしなければいけません。一方で、無段変速機やオートマチックミッションと組み合わせた場合は、クラッチ操作も変速操作も必要ありません。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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