■コルクと縁がある
「コルクっていいよね。明るい感じがするでしょ」
そういう彼女の視線の先にあるのは、マツダMX-30のセンターコンソール。その表面にはコルクが貼られているのだ。量産車としては極めて珍しいマテリアルである。
「このクルマを作ったマツダは創業当初は『東洋コルク工業株式会社』という社名で、コルクを作っていたんだよ。瓶の栓をはじめ、当時の日本ではまだ珍しい板状のコルクを作るにも挑戦したんだ……」という話は、喉まで出かかったけどやめておこう。きっと「ふ~ん」で終わってしまうから。
もちろん、「東洋コルク工業株式会社の発足は1920年で、今年(2020年)は創業100周年」という話も。
いずれにしろ、マツダはコルクと縁がある。
でも、MX-30にコルクが使われているのはそのこととはほとんど関係がないらしい。「わたしらしく生きる」がMX-30のメインテーマで、そこからイメージする空間に仕上げるために考えたのが、独特の表情や暖かみを持つコルクだったのだとか。
■マツダのこだわり
もうひとつ、「わたしらしく生きる」をこのクルマのメインテーマとすると、裏テーマは「サスティナビリティ」。日本語では「持続可能な」という意味とかで、将来に渡り社会や地球環境を保持し続ける取り組みなんかを指すらしい。
そしてこのコルク、木を伐採するのではなく皮を剥いで作られるから環境保全にふさわしい材料なのだ。約8~10年ごとに収穫できる環境にやさしい天然素材で、まさにサスティナビリティにふわさしい。
「でも、使っているうちにボルボロになったりしないのかな?」
彼女がそんな疑問を覚えるのはもっともだ。ボクだってそこは気になる。
しかし、マツダによるとコーティングなどでしっかり処理してあるから心配はいらないらしい。それはそうだろう。自動車メーカーが素人でも感じるような心配をそのままに製品化するわけがない。
目的地に着いたとき、降りようとした彼女が「ここにもコルクがあるね」と教えてくれた。なんど、ドアを開け閉めするときに握るグリップ部分の裏側が、コルク張りになっているのだ。
「見えないお洒落だね。服の裏地にこだわるみたいに」
彼女のそんな印象はもっともだと思う。よく見える表側ではなく、裏側にコルクを貼っているというのがなんとも奥ゆかしく感じるとともに、マツダのこだわりを見た気がした。(つづく)
(文:工藤 貴宏/今回の“彼女”:葉月 美優/ヘア&メイク:東 なつみ/写真:ダン・アオキ)