■環境がクルマをつくる(キッパリ)
「小さいクルマなのに走りがいいのね」
高速道路を走っているとき、助手席の彼女がそう話しかけてきた。
確かにフォルクスワーゲン「T-CROSS(ティークロス)」の高速走行時の安定感はなかなかのものだ。それを助手席で感じ取れる彼女の感度もなかなかだと思うけど。
「だってほら、フラフラしている感じがないというか。動きが落ち着いている気がするから」
言われてみればそうかもしれない。コンパクトカー、しかも重心の高いSUVでそんな安定性の高さを実現できているのは、さすが速度無制限の高速道路「アウトバーン」のある国育ちだなといったところか。
「クルマは道が育てる」なんていう言葉があるけれど、やはりどんな環境でどんな使われかたをするかでクルマの性格は決まってくる。
たとえば日本の背の高い軽自動車は街中で使うには便利だけど、高速道路を120km/hで走ればけっこうフラフラするし、すぐに疲れてしまう。ドイツでは普通の人が当然のように130km/hで高速道路巡行するから、コンパクトカーやSUVだって高速安定性が欠かせないのだ。
ドイツ車に乗るとそんな環境がクルマ作りに大きく影響していることを実感する。
●燃費の良さもジマン
エンジンは1.0L(999cc)の3気筒という概要だけを聞けば頼りない印象だけど、ターボのおかげで最高出力は118psもあるから流れに乗って走るのには不足ない。トルクは200Nmと、自然吸気エンジンでいえば排気量2.0Lに相当する。だから加速は充分なものだ。
ただ、同じく1.0Lの3気筒ターボエンジンを積むトヨタ「ライズ」のように最初のひと踏みの力強さみたいなものはない。ライズの最大トルクは140NmとT-CROSSの2/3程しかなく、しかも最大トルク発生回転数も2400rpmとT-CROSSより高い。なのに低回転域の力強さはライズのほうが感じられるのだから何とも不思議なのと同時に、クルマはスペックだけでは語れないなと改めて思う。スロットル特性やトランスミッションとの協調なども影響しているのだろう。
パワートレインといえば、T-CROSSは燃費も自慢だ。東京から宇都宮までの高速燃費は車載の燃費計で20km/Lを超えた。ひと昔前のハイブリッドカー並みである。
●リーズナブルかも!?
「ねぇ。T-CROSSはどうして人気があるの?」
目的地へ向けて快調に走る車内で、彼女がそんな疑問を投げてきた。T-CROSSは2020年上半期に輸入SUVの販売ランキングでナンバーワンとなり、まだ正式発表はないがおそらく1年を通してもその座を得るだろう。
分かりやすいのは実用性だ。全長4.1mのコンパクトボディながら後席も荷室も広めで、使い勝手がいい。そのうえで、T-CROSSにはとても大きな魅力がある。それは価格。
ボトムグレードである「TSI 1st」の価格は301万9000円で、国産の同クラスのモデルに比べると高いけれど、輸入車としては意欲的なプライス。しかも、その価格にはカーナビや一通りの先進安全装備まで含まれているのだから、それを加味すれば国産同クラスとの差はもっと縮まる。
実用的で、価格的にも気軽に乗れる輸入SUVなのだから、日本で人気が出るのもわかる気がする。もしかすると、これまでゴルフに乗っていた人が乗りかえるのにもちょうどいいクルマなのかも。(おしまい)
(文:工藤 貴宏/今回の“彼女”:葉月 美優/ヘア&メイク:東 なつみ/写真:ダン・アオキ)