目次
■接点(ポイント)の代わりにトランジスター回路を使って耐久信頼性を飛躍的に改良
●電子制御のフルトラ点火で精度良く点火時期を制御するのが現在の主流
接点式点火システムの課題であった接点の摩耗やチャタリング、点火時期制御の精度を改良したのが、無接点式のフルトラ(フルトランジスター)式です。フルトラ式は、接点の代わりにトランジスターのスイッチング特性を利用した点火システムです。
現在、点火制御のベースとなっているフルトラ式点火システムの構成と特徴について、解説していきます。
●接点式点火の課題
機械式の接点(ポイント)を利用する旧式の接点式点火では、次のような問題がありました。
・接点で1次電流を制御するので、点火時期制御の精度が低い。
・接点の摩耗や劣化が発生するので、定期的に接点隙間を調整する必要がある。
・接点のチャタリング(接点の開閉が瞬時に複数回起こる現象)が発生して、点火時期が安定しない。
・高回転条件で2次電圧が下がりやすい。
以上の課題を解決したのが無接点式点火システムです。現在ほとんどのバイクが採用しているのは、コイルの起電力を使うフルトラ式とコンデンサに溜めるCDI(容量放電)式です。
●セミトラ式点火システムへの進化
2000年頃から徐々に接点機構を必要としないフルトラ式点火へと切り替わりました。しかし、フルトラ式点火に移行する前に、過渡的ですがセミトラ(セミトランジスター)式点火システムがありました。
セミトラ式では、接点の開閉でなくカム山を電気的に検出して、それを点火のトリガー(1次電流遮断)信号として使います。カム山信号を矩形波に変換してトランジスターのベースに入力し、トランジスターのスイッチング機能によって1次電流を遮断します。
1次電流が遮断された瞬間に、2次コイルに高電圧が発生して火花が飛びます。
●フルトラ式点火システムへの進化
フルトラ式では、点火時期信号のための基準信号はマグネット式や光学式のクランク角センサーなどを利用したシグナルジェネレーターで作ります。この基準パルス信号は、エンジンの上死点など既定のクランク角度を示します。これをベースに、点火時期制御回路で運転条件に応じた点火時期を設定します。
パルスの点火信号がトランジスターのベースに入力されて、パルスON時にバッテリーから1次コイルを通電させてエネルギーを蓄積します。その後、パルスがOFFになると1次コイルの電流が遮断され、2次コイルに高電圧が発生して点火プラグに火花が飛びます。
●点火制御
フルトラ式点火になっても初期の点火時期制御は、回転数は重りの遠心力を利用したガバナー方式で、負荷については吸気管負圧を利用したバキューム方式で行っていましたが、現在は高精度な電子制御になっています。
ベースとなる点火時期は、エンジン回転数とスロットル開度や吸気圧などで決まり、点火制御ユニットあるいはECU(エンジンコントロールユニット)にあらかじめ点火時期マップとしてプログラムされています。これに、エンジン水温や吸入空気温度などを考慮した補正を加えて、最終的な点火時期が決定されます。
点火プラグの火花が弱くなったり不安定になったりすると、シリンダーの燃焼に大きな影響を与えます。旧型バイクの接点式点火システムでは、接点の摩耗などの不具合によって燃焼(エンジン)が不安定なるトラブルがよく発生していました。
電子制御のフルトラ式点火システムの普及によって、バイクの耐久信頼性は飛躍的に改良されました。
(Mr.ソラン)