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■感染症に振り回された2020シーズンをプレイバック
2020年1月の春節から世界中に拡散した新型コロナウイルス感染症COVID-19。この疫病は今年、私たちの日常生活を根底から変えてしまいました。
そんなコロナ禍において、多くのモータースポーツファンを魅了し、日本国内のみならず世界中から絶大な人気を誇るスーパーGTも、今シーズンは開催日程の変更を余儀なくされました。
予定されていた海外戦は中止となりましたが、4ヵ月遅れで7月に開幕を迎えた2020シーズン全8戦は例年より約1ヵ月遅れで先日無事最終戦が開催されました。
今回はそんな記憶に残るシーズンにおいて最終戦ならではの光景を交えつつ、2021シーズンのスーパーGTについての個人的な展望を拙筆ながらご覧いただければと思います。
●有終の美を飾ったRAYBRIG
最終ラップの最終コーナーでの劇的な逆転劇で2020シーズンシリーズチャンピオンを獲得したRAYBRIG NSX-GT。
歴史にも記憶にも深く刻まれたこの最終戦を前に、RAYBRIGブランドを展開するスタンレー電気は2021年3月末をもって当ブランドを終了させ、新たに「STANLEY」ブランドを国内外の自動車用品市場で展開することを発表しました。
COVID-19による国内レースの開催遅延などの影響もあり、例年シーズン終了後の11〜12月に開催されていた各自動車メーカーのファン感謝祭も早々に中止がアナウンスされていることから、この週末には「アリガトウ レイブリック」のボードがピットに設営され、RAYBRIGブルーを纏ったNSX-GTのラストランはシリーズチャンピオン獲得という優秀の美で締めくくられました。
スーパーGTの前身である全日本GT選手権(JGTC)での1997年から24シーズン、TEAM KUNIMITSUと苦楽を共にしサーキットを駆け抜けたRAYBRIG。近年では開幕前に開催される公式テストでの限定カラーを楽しみにしていたファンの方も少なくないと思います。
そんな今回の「RAYBRIG」ブランド終了は、昨2019年のGT-Rメインスポンサーの一つ「CALSONIC」の経営形態および屋号変更によるブランド名消滅危機、そして同じくNSX-GTのメインスポンサーである「KEIHIN」の日立astemoへの事業統合など、自動車関連企業の統廃合やCOVID-19による世界経済の縮小という、昨今の世界情勢にも少なからず影響されただろうというのは想像に難くありません。
慣れ親しんだスポンサーの撤退は、報道する側の立場としても、そしてもちろんモータースポーツファンとしても時代の流れとはいえやはり寂しさを感じずにはいられない、今回の最終戦となりました。
●離れていても共に戦ったNC
最終戦の予選では、昨シーズン同じLEXUS陣営の中でチャンピオンシップ争いを演じた山下健太選手がコースレコードでポールポジションを獲得し、ディフェンディングチャンピオンという最強の助っ人を擁して最終ラップの最終コーナーまで完璧なレース運びを魅せた37号車KeePer TOM’S GR Supra。
3年ぶりとなるシリーズチャンピオン獲得は「あの」瞬間まで誰もが疑わなかったでしょう。史上最年少23歳でシリーズチャンピオンを獲得した平川亮選手とニック・キャシディ選手のコンビはスーパーGT最強の1チームとして、その2017年から4シーズンにわたり毎年、チャンピオンシップを賭け最終戦を戦ってきました。
ところがそのニック・キャシディ選手が来シーズンのFormula-Eにフル参戦することが決まり、その開幕前テスト参加のために前戦もてぎと今回の最終戦を欠場することになりました。
チームやチームメイトである平川選手はもとより、キャシディ選手にとっても今回の戦線離脱は苦渋の決断であったことは間違いありませんが、来シーズンから世界選手権に格上げされるFormula-Eのレギュラードライバーとして世界へ挑戦するキャシディ選手をチームは温かく送り出しました。
そして今回の最終戦ではその37号車に、こんな粋な計らいをしていました。
左右のドアゼッケンに描かれた「NC NICK CASSIDY」には、遠く離れていてもマシンは、そしてチームは常にニックと共に走っているぞ!というチーム全員の思いが込められていたに違いありません。そしてキャシディ選手の代役となった山下選手はスーパーフォーミュラ、また全日本F3選手権ではTOM’Sでのチームメイトだったということにも縁を感じてしまうのは筆者だけでしょうか?
キャシディ選手がFomula-Eで選んだカーナンバーは「37」。チームは違いますが過去にTOM’Sで活躍したアンドレ・ロッテラー選手の36号車とともに、世界で活躍するTOM’Sスピリッツに日本からエールを贈りたいと思います。
●願掛けも叶わず。開発凍結でどうなる来シーズン
今シーズン、毎戦MOTUL AUTECH GT-Rのリヤウイングに注目していたスーパーGTファンの方も多かったでしょう。
COVID-19の影響で無観客にて開催された前半4大会。その開幕戦では「がんばろう」「ありがとう」と、ファンへのメッセージが描かれた翼端板でレースに臨んだNISMO。この最終戦ではチームカラーである赤と黒のダルマで縁起を担ぎ、2005年のスーパーGT発足からGT-Rとして6度目のシリーズチャンピオン獲得を目指しましたが、残念ながら5年ぶりの戴冠とはなりませんでした。
今シーズンはテール・トゥ・ウィンを含む鈴鹿2連勝となったNISSAN GT-R陣営ですが、優勝したNISMOを除く3チームはいずれも低迷しました。
来シーズンに向けてエンジン・空力の開発が凍結されることで来シーズンも厳しい戦いが続くかもしれません。「ライバルがいるから速くなれる。強くなれる。」ライバル平川選手の言葉通り、強いNISSANの復活にも期待しましょう!
●全8戦を開催予定。気になる海外戦は?
プロモーターであるGTAからは、暫定ながら来シーズンの開催カレンダーが発表されています。その中には日程調整中としながらも、今シーズン残念ながら中止となったタイ・ブリラムとマレーシア・セパン両サーキットの名前も挙がっています。
GTAの坂東代表は、最終戦で行われた定例会見で「今年はSUPER GTの開催を断念せざるを得なかった岡山国際サーキット、スポーツランドSUGO、オートポリスの各サーキットでもレースを行います」と、特に地方のファンにとっては嬉しい発言をしています。ただし海外戦については、現在の状況からすると開催は難しいだろうという見通しを持っているとのこと。
来年に開催が予定されている東京オリンピック・パラリンピックとの兼ね合いやCOVID-19の状況など、今後の情勢も見据えながらのシリーズ運営となることは間違いないでしょう。
そしてワクチンがインフルエンザ並に普及するまでは厚生労働省が提供する新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」の利用と並行して、サーキット入場時の体温計測や3密回避のための座席指定、そしてパドックへの入場禁止やピットウォーク・グリッドウォークの開催中止など、まだまだファンの皆さんにとっても不自由な観戦スタイルが続くことと思います。
一日も早く、この困難な状況が終息し、以前のように自由にモータースポーツが楽しめる日常が返ってくる事を筆者も願い、2020シーズンのスーパーGTを締めくくりたいと思います。
■スーパーGT2021 暫定レースカレンダー
開幕戦:岡山国際サーキット/4月10〜11日
第2戦:富士スピードウェイ/5月3〜4日
第3戦:鈴鹿サーキット/5月29〜30日
第4戦:チャン・インターナショナル・サーキット(タイ)/調整中
第5戦:セパン・インターナショナル・サーキット(マレーシア)/調整中
第6戦:スポーツランドSUGO/9月11〜12日
第7戦:オートポリス/10月23〜24日
最終戦:ツインリンクもてぎ/11月6〜7日
(写真:吉見 幸夫・松永 和浩・GTA・H@ty/文:H@ty)
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