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■安定した冷却性能が確保できる水冷エンジン
● 排ガスや燃費の要求が高まるほど、高精度の冷却水制御が求められる
かつては空冷エンジンのバイクがありましたが、現在ほとんどのバイクは冷却性能に優れた水冷方式を採用しています。水冷エンジンは、内部のウォータージャケット(水路)に冷却水を循環させることでエンジン内部を冷却します。
水冷エンジンの冷却システムの仕組みや働きについて、解説していきます。
●エンジンを冷やさないと何が起こるか
シリンダー内で発生する燃焼エネルギーのうち、エンジンの出力に使われるのは30%程度で残りは排ガスや熱として大気に放出されます。そのためエンジン本体、特に燃焼室やシリンダーは高温になり、発熱量(出力)が増えれば増えるほどエンジン本体の温度は上昇します。
エンジン各部の温度が上がると部品の熱変形が起こり、シリンダーやピストンのフリクションが増大し、最悪の場合は摺動部の焼き付きが起こります。また、燃焼室壁面やピストン表面の温度が上昇することによって、ノッキングなどの異常燃焼が発生しやすくなります。
このようなトラブルを起こさないため、エンジンには適切な冷却システムが必要です。
●水冷システムの仕組み
エンジン部品の中で特に冷却が必要なのは、高温になる燃焼室壁面とシリンダー内面です。そのため、周辺にはウォータージャケット(水路)を設けて、そこに冷却水を循環させて冷却します。
エンジンの熱を奪って高温になった冷却水は、補機ベルトを介してクランクシャフトで駆動するウォーターポンプでラジエーター(熱交換器)に送られます。
・ラジエーター
ラジエーターは、走行風を受けて高温のエンジン冷却水を冷却する部品です。冷やされた冷却水は、再びエンジンに戻されてエンジンを冷却します。このように、冷却水は受熱と放熱を繰り返しながら、エンジンとラジエーター間を循環します。
・ウォーターポンプ
ウォーターポンプとしては、通常は板金や樹脂製の渦巻き型のポンプが採用されます。エンジンと連動しているので回転が上がるほど流量が増え、冷却性能が向上します。低回転時には流量は低下しますが、エンジンの発熱量も減少するため熱量収支は概ねバランスします。
・サーモスタット
エンジンの冷却水路の出口には、設定水温(80℃前後)で経路を開閉するサーモスタットが装着されています。始動後冷却水温が上昇するまでは、暖気を促進するためサーモスタットを閉じてエンジン内で冷却水を循環させ、設定温度に達するとサーモスタットを開いてラジエーターに循環させて冷却します。
・冷却ファン
冷却ファンは、ラジエーターの後方に設置します。走行風による冷却が期待できない低速やアイドル時また外気が高温の場合に、ファンが回転してラジエーターを冷却します。一般的に冷却水温が100℃近くになると、ファンが回転してラジエーターを冷却するように設定されています。
●冷却水(クーラント)
冷却水は一般的な水ではなく、水にエチレングリコールを主成分とするLLC(ロングライフクーラント)を30~50%程度混入して使います。混合する目的は、寒冷時の凍結防止、金属やゴムホースの腐食や劣化の防止、ウォーターポンプで発生する気泡の抑制です。
走行風の成り行きで冷却する空冷方式に対して、水冷方式は運転状況や環境条件に応じてきめ細かくエンジンの温度を制御できます。システムは複雑ですが、圧倒的に出力や燃費、排ガス性能に優れ、またオーバーヒートなど致命的なトラブルも抑えられます。
(Mr.ソラン)