ターボチャージャーとは?排出ガスの運動エネルギーを利用した吸気システム【バイク用語辞典:吸気系編】

■1980年代に日本4大メーカーすべてから発売されるも、現在採用モデルなし

●ターボラグやピーキーなトルク特性がバイクには扱いにくく、メリットが見出せず

量産初のターボ搭載バイクは、1981年に登場したホンダCX500 TURBOでした。続いてヤマハとスズキ、カワサキも発売しましたが、高価な割にターボラグなどの課題もあり、自動車ほど普及せず短命で終わりました。

ターボチャージャーの仕組みとバイクとの相性など、解説していきます。

●ターボチャージャーの仕組みと出力向上

ターボチャージャーは、タービンとコンプレッサーの一対の羽根車で構成されています。

ターボチャージャーの仕組み
ターボチャージャーの仕組み

排出ガス流路中に配置したタービンが、排出ガスの運動エネルギーによって高速回転します。このとき、タービンと同軸上の反対側にあるコンプレッサーも高速回転して、吸入空気を圧縮(過給)します。

ターボは、エンジンが大気に捨てている排出ガスの運動エネルギーの一部を回収して、吸入空気を増大させるので排気回収システムとも言えます。

コンプレッサー(タービン)回転を上昇させて吸気圧(過給圧)を上げれば、吸入空気量が増えて出力は増大します。ただし、過給によってシリンダー内の圧縮温度が上昇するため、ノッキングが発生しやすくなります。

そのため、ターボエンジンは無過給エンジンよりも圧縮比を下げる必要があるので、熱効率が下がり燃費は悪化します。

●なぜバイクではターボが普及しなかったのか

1981年のホンダCX500 TURBOに続き、ヤマハXJ650 TURBO、スズキXN85、カワサキ750 TURBOと、すべての4大メーカーがターボ搭載車を発売しました。

ターボの威力によって高回転域で高出力を達成しましたが、当時のターボは「ターボラグ」が大きく、俗に言われる「ドッカンターボ」で、高価な割には課題が多く短命で終わりました。

ターボラグとは、加速時に過給圧がすぐに上がらず、一瞬遅れて出力が上がる現象です。これは、質量のあるタービン回転がすぐに上昇しないことに起因します。また、高速でターボを効かすとその分余計に燃料を消費するので、燃費が悪いことも敬遠された理由のひとつでした。

●自動車のようにターボの復活はあるか

1970年~80年代に起こった自動車のターボブームも、燃費が重視されるようになると市場から消え去りました。しかし、最近になって「ダウンサイジングターボ」というコンセプトが脚光を浴び、自動車では再びターボが注目されるようになりました。

ダウンサイジングターボは、燃費を向上するためにエンジンの排気量を小さくして、ターボによって出力不足をカバーするコンセプトです。

排気量を小さくすると、排気量が小さくなった分だけ同じ空気量を確保するためにスロットル弁を開きます。スロットル開度が大きくなると、ポンピング損失が小さくなり熱効率が向上し、また小排気量化によってフリクションが低減するなどの効果によって燃費が向上します。

同じようにバイクでもダウンサイジングターボの復活はあるのでしょうか。

結論から言うと、バイクのターボ復活は厳しいと思われます。

なぜなら、バイクは排気量(出力)に対して車重が軽く、排気量を下げても燃費改善しろが自動車に比べて小さいこと、また燃費改善の社会的要求が自動車ほど強くないことがその理由です。

2015年のモーターショーで、スズキがインタークーラー付きのターボエンジンを展示しましたが、現在も復活の兆しはありません。


リニアなレスポンスが求められるバイクでは、独特な過給の加速フィーリングを持つターボよりも、排気量を大きくした方が扱いやすいというのが一般的です。

さらにターボ化によるバイクのコスト負担は自動車に比べて大きく、その割には大きなメリットは期待できないので、今後もターボ搭載バイクの復活の可能性はほとんどないと思われます。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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