弁駆動の仕組みとは?回転するカムシャフトのカム山で吸排気バルブの開閉を制御【バイク用語辞典:吸気系編】

■バルブの開閉時期とリフト量によって吸入空気と燃焼ガスのガス交換を担う

●高速・高温で開閉するバルブには、高い耐久性・信頼性が必要

吸気バルブはシリンダーに吸入される混合気を、排気バルブはシリンダーから排出される燃焼ガスを制御する重要な役割を担っています。混合気や燃焼ガスの制御は、吸・排気バルブの開閉時期とバルブリフト量で行います。

吸・排気バルブが、どのような機構で作動するのか、解説していきます。

弁駆動の構成
弁駆動の構成

●バルブの形状

吸気バルブは、シリンダーヘッドに形成された吸気ポートの燃焼室入り口に配置され、シリンダーの中に燃料と空気の混合気を送り込んだり、止めたりします。

一方排気バルブは、排気ポートの燃焼室出口に配置され、シリンダーの燃焼ガスを排気ポートに排出したり、止めたりします。

バルブは、ステムと呼ばれる棒状の先端に円形の傘が付いたキノコ形状のポペットバルブです。上下に動くバルブ傘部のバルブフェースと、吸・排気ポートそれぞれに装着されたバルブシート(弁座)の間隔(バルブリフト量)によって、流れを開放したり遮断したりします。

●バルブ閉時のシール機能

吸・排気バルブが閉じているときには、バルブフェースはポートにはめ込まれたバルブシートと密着し、混合気と燃焼ガスが漏れることを防止します。

吸・排気バルブはカム山で圧縮されたバルブスプリングの反力で閉じるため、バルブフェースとバルブシートには強い衝撃力が加わります。また高温のガスに晒されるため、特に高出力エンジンではシート部は歪や摩耗が発生しやすくなります。

バルブシートが歪むと混合気や燃焼ガスの漏れが発生するので、燃費や出力が悪化します。レーシングエンジンではガス漏れを防ぐため、バルブシートカッターでシール面を修正することを頻繁に行います。

●バルブガイドの役割

バルブガイドは吸・排気バルブの位置決めをするとともに、燃焼ガスに晒され高温になったバルブの熱をシリンダーヘッド側に逃がす役目を担っています。

バルブは高温下で高速の往復運動をするので、バルブガイドとバルブステム部は摩耗しやすく、摩耗が進行するとステムとガイドの隙間から「オイル下がり」が発生します。オイル下がりとはシリンダーヘッドのオイルがポート内に侵入する現象で、オイルが燃焼室に入って燃焼するので、白煙の排出やオイル消費の増大という問題が発生します。

バルブガイドは鋳鉄製が多いですが、レーシングエンジンでは強度が高く、熱伝導に優れたアルミ青銅やリン青銅製が使われます。

●バルブ駆動の仕組み

吸・排気バルブを開閉する役目を担うのは、カムシャフトです。

カムシャフトには、目標とするバルブの開閉時期やリフトを実現するプロファイルをもつ卵の断面形状のカムが、吸・排気バルブの数だけ配列されています。このカムシャフトを、クランクシャフトが2回転する間に1回転するように、タイミングベルトまたはタイミングチェーンで連動させます。

動弁機構の種類
動弁機構の種類

バルブを駆動する方式には、カムで直接バルブを駆動させる直動式と、ロッカーアームやスイングアームを使ってテコの原理で駆動させる方式があります。

カムの配置については、1つのカムシャフトで吸・排気バルブを駆動させるSOHC方式、吸・排気それぞれに1つのカムシャフトで駆動させるDOHC方式があります。

吸・排気バルブは、シリンダーあたりそれぞれ1つの計2弁をベースとして、3弁(吸気弁×2、排気弁×1)や4弁(吸気弁×2、排気弁×2)のマルチバルブ化が進んでいます。


バルブは高温下で高速の往復運動をするため、バルブ本体だけでなくバルブシートやバルブガイドには耐摩耗性と耐熱性が求められます。

バルブのシール性が悪化すると、ガス漏れを起こして燃費悪化や出力低下の原因となるので注意が必要です。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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