■ミニを手に入れ、そして2シリーズを作ったBMWがついにFF系で開花
BMWといえば直列6気筒をフロントに搭載、リヤタイヤを駆動するFRモデルこそ最高のモデル……と考える人が多くいます。筆者は昔のレースを知っている世代なので4気筒エンジンの素晴らしさも十分に理解していますが、やはりFRこそBMWの真骨頂であると考えていました。
しかし今回、M235i Xドライブ グランクーペに乗って「おっと、BMWはFF系の作り方に開眼しちゃったの?」と思うほどに、気持ちのいいクルマだったのです。
思えば、BMWは2001年にミニを発売、2013年に同ブランド初のFF車となる2シリーズを導入しています。今回のM235i Xドライブ グランクーペの試乗は、これらから積み重ねが始まったFF車作りのノウハウが、ついにBMWのFF系をここまでの仕上げにしたのか?と思わせるものでした。
M235i Xドライブ グランクーペは2シリーズを代表とするFF系プラットフォームを使って作られたクーペルックのノッチバック4ドアモデルです。全長は4540mm、全幅が1800mm、全高が1430mm。
全幅1800mmは3ナンバーサイズとなるのでコンパクトとは言えませんが、今の時代としては比較的引き締まったボディ。ホイールベースは2670mmと、このクラスとしては平均的なものといっていいでしょう。
搭載されるエンジンは2リットル4気筒ターボ。最高出力は306馬力、最大トルクは450Nmとなるので、リッターあたりでは150馬力/225Nmというとんでもない数値となります。このエンジンを横向きにフロントに搭載し、最大で50対50まで前後に駆動を配分。さらにトルセンLSDも装備され左右間のトルク配分も行われます。
FFベースの4WDはどうしたってFFっぽい部分。逆にFRベースの4WDはFRっぽい部分を残しているものですが、M235i Xドライブ グランクーペを走らせるとFFベースのネガティブな部分がまったく感じられません。
というよりもFFを運転している感覚はなく、BMWらしいFRを運転している感覚にさえなります。極低速でステアリングを切った状態でクルマを動かすと、ちょっと前輪の抵抗を感じることもありますが、それ以外の動きはじつに素直な印象です。
高速道路のETCゲートにゆっくりと進入し、ほとんど停止したような状態からアクセルを踏み込むと、いくらターボで過給されているとはいえ、2リットルとは思えない強烈な加速を味わうことができます。自然吸気ならば3Lオーバーでなければ味わえないような加速感。8速のATとのマッチングもよく、天井知らずで加速していきます。
BMWのうまいところは、たとえターボモデルであっても自然吸気エンジンのような滑らかな回転上昇と、それとリンクするエキゾーストノートを与えているところがなかなかのニクさです。考えてみれば、市販車ではじめてターボエンジンを採用したのがBMW2002ターボ。BMWはターボについてのノウハウを世界一長い時間にわたって得ているといっても過言ではないのです。
ハンドリングの味付けもなかなかのものです。直線からブレーキングし、姿勢を整えてからステアリングを切り込むと、フロントがスッとインを向いてくれます。そのままアクセルはパーシャルのままでコーナー頂点を目指し、コーナー頂点からアクセルを踏んでいくと素直にコーナー出口に向かって加速していきます。その動きは非常に安定しています。その先の動きを確認してみたかったのですが、公道ではなかなか難しい速度域に入らないとその確認は不可能な印象です。
BMW M235i Xドライブ グランクーペの車両本体価格は665万円。試乗車はサンルーフやHi-Fiスピーカーシステムなどが装着され、730万9000円のプライスです。
絶対値ではリーズナブルな価格設定ではありませんが、その内容を見ればある意味買い得感もある設定です。比較的コンパクトで、それでいてスポーティなBMWが欲しいと思っている人は、一度試乗してみる価値のあるクルマだと言えます。
(文・写真/諸星陽一)