存在感が薄かった? 2020年に生産終了で、いつの間にか「消えたクルマ」たち

■人気車の派生モデルから世界的な有名車まで

新型モデルが数多く登場した2020年ですが、一方で生産を終了してしまうクルマもあります。惜しまれつつも時代のニーズに合わなくなったために消えてしまう車種もありますが、中にはあまり注目されないまま、密かにその幕を下ろすモデルもあります。

ここでは、そういった「いつの間にか生産終了」になってしまったモデルたちにスポットを当てて紹介します。

●兄弟車で唯一消えたタンク

コンパクトなトールワゴン、トヨタの「タンク」は2020年9月に生産を終了しました。

2020年に生産終了でいつの間に消えたクルマ
トヨタ・タンク

スライドドアを持つ2列シート5人乗りのコンパクトカーのタンクはダイハツからのOEM車で、9月にマイナーチェンジされたばかりのトヨタ・ルーミーやダイハツ・トール、スバル・ジャスティの兄弟車です。つまり、ほかの兄弟車は一部変更を加えられ存続するのに、タンクだけは無くなってしまうということです。

これら4兄弟車の中で、近年最も売れているのはルーミーです。自販連(日本自動車販売協会連合会)がまとめた2020年1月〜6月の新車販売台数ベスト50では8位(3万7622台)。一方、タンクは14位(2万8458台)、トールは35位(1万156台)、ジャスティはランキング圏外となっています。

ルーミーほどではないけれど、トールやジャスティよりも売れているタンクがなぜ無くなったのでしょうか。それは、トヨタの新しい販売店戦略に関係しているようです。

従来、ルーミーはトヨタ店とトヨタカローラ店、タンクはトヨペット店とネッツ店で販売されていました。ところが、トヨタは、2020年5月から全国のトヨタ取り扱い店で全車種を共通販売することに方針変更。こうなると、基本的に同じである2モデルをどちらも販売するのはあまり効率がいいとはいえないでしょう。

さらに、トヨタは世界的な地球温暖化対策の一環として、2025年までに販売する全車種を電動車もしくは電動グレード設定車にするなどで、ラインアップの再編を行うことも発表しています。

今回のタンク生産終了はそういった変革の流れのひとつのようで、コンパクト・トールワゴンのジャンルでは、より売れているルーミーに1本化したということでしょう。

ちなみに、外装などが変わった新型ルーミーの標準モデルには、台形のアンダーグリルを採用。これは、旧タンクの特徴ともいえる箇所で、顔つきにその面影を残しているようです。

2020年に生産終了でいつの間に消えたクルマ
トヨタの新型ルーミー

●世界を席巻したシビックもセダンが消滅

シビックといえば、かつて世界で爆発的に売れたホンダの代表的モデルですが、2020年8月に「シビックセダン」が生産終了となりました。

2020年に生産終了でいつの間に消えたクルマ
ホンダ・シビックセダン

従来、シビックは国内で「ハッチバック」と「タイプR」、そして今回生産が終わった「セダン」の3タイプを販売していました。その中で、シビックセダンの最終モデルは2017年に発売され、流麗でスポーティなボディラインが特徴。

また、乗車定員5名のインテリアは余裕の広さで、メタル調ガーニッシュパネルなどで高い上質感も演出していました。

しかも、セダンはハッチバックとともに2020年1月にはマイナーチェンジを受けたばかり。先進の安全運転支援システムHonda SENSING(ホンダセンシング)の搭載や、フロントバンパーやリアガーニッシュのデザイン変更などを受けていました。

ところが、マイナーチェンジ後も販売は苦戦。前述の2020年1月〜6月の新車販売台数トップ50でも圏外となっています。かつてホンダの代名詞ともいえたシビックも、(他メーカーも含め)セダンが売れないという今の時代性や、どちらかというと「シビック=ハッチバック」といったイメージが強いということもあるのか、セダンタイプはあえなく消滅の憂き目に。

昔からシビックの偉大さを知る者にとっては、ちょっと寂しいご時世ですね。こうなると、発売が延期されてはいますが、マイナーチェンジが予定されているタイプRの登場に期待したいところです。

ちなみに、ホンダは2020年7月に、やはりセダンタイプのコンパクトモデルの「グレイス」のほか、近年セダンと同様に販売台数が落ち込んでいるミニバンタイプの「ジェイド」も生産を終了させています。

●BRZは86ほど目立たなかった?

トヨタの86と共同開発され、2012年に発売されたスバルの「BRZ」は、2020年7月に生産終了となりました。

2020年に生産終了でいつの間に消えたクルマ
スバル・BRZ

「Pure Handling Delight―新しい次元の運転する愉しさ」というコンセプトの元に開発されたこの2ドアクーペは、スバル伝統の水平対向エンジンとFRレイアウントが大きな特徴。また、トヨタの直噴技術を採用し高い燃費性能も誇るなど、随所に共同開発によるメリットが活きています。

それらにより、BRZは誰もが操る楽しさを実感できるスポーツモデルとして、発売当初はトヨタの86と共に大きな話題を呼びました。

ただし、あくまで個人的イメージですが、往年の名車「AE86」の名称を継承し、派手なプロモーションも行われた86と比べると、どちらかと言えばややその影に隠れた印象だった気がします。取り扱う販売店数でも、トヨタのほうがスバルより多いという事情もあったのか、86の方が街中でより多く見かけましたしね。

ともあれ、近年はスポーツモデルがなかなか売れないという社会的な傾向もあり、BRZはついに販売終了に。一説には、来年あたりに次期86/BRZが登場するとの噂もありますが、数少ないスポーツカーだけに、再登場に期待したいものです。

●大ヒットN-BOXの派生車スラッシュ

2020年2月に生産が終了したのが、ホンダの「N-BOXスラッシュ」。日本で今最も売れているクルマ、軽スーパーハイトワゴンの「N-BOX」をベースにした派生モデルです。

2020年に生産終了でいつの間に消えたクルマ
ホンダ・N-BOXスラッシュ

N-BOXスラッシュが登場したのは2014年。N-BOXがファミリーカーとして実用性を重視しているのに対し、スタイリッシュなデザインなどを採用したモデルです。

大きな特徴は、ベースとなった初代N-BOXよりルーフを100mm低く設定し、リヤに向かいルーフラインがゆるやかに落ちる感じのデザインなどで、ワンボックスタイプながらクーペ的なフォルムを演出。

また、リヤドアはスライドドアでなくヒンジタイプにし、ドアノブを後部ウインドウの横に配するなどで、スポーティなイメージも施しています。

インテリアには、凝ったデザインを用いたインテリアカラーパッケージをオプションで用意。赤をベースに、白黒のチェッカーフラッグ風のラインが入ったシートが印象的なダイナースタイルなど、3タイプを設定。ほかにも、8スピーカー+サブウーファーのサウンドマッピングシステムも採用し、車内の音響にもこだわった仕様でした。

このように、N-BOXスラッシュは、アフターマーケットのカスタマイズ車のような装備が売りのモデルでした。ところがベースのN-BOXが2017年に2代目へモデルチェンジした時も大きな変更はなく、フェイスデザインなどは昔のまま。

通常、こういった派生モデルはベース車のモデルチェンジに合わせて変更があることが多いのですが、N-BOXスラッシュはちょっと取り残された感じ。それが命取りの原因だったのかもしれません。

発売当初は大々的なプロモーションやテレビCMなどで華々しく登場しても、生産終了時はあまり目立たず、密かにその幕を下ろしたモデルたち。中にはまだ販売店に在庫がある車種もあるはずですから、もし興味を持ったら早めに問い合わせてみましょう。

(文:平塚直樹/写真:トヨタ自動車、本田技研工業、スバル、ダイハツ工業)

この記事の著者

平塚 直樹 近影

平塚 直樹

自動車系の出版社3社を渡り歩き、流れ流れて今に至る「漂流」系フリーライター。実は、クリッカー運営母体の三栄にも在籍経験があり、10年前のクリッカー「創刊」時は、ちょっとエロい(?)カスタムカー雑誌の編集長をやっておりました。
現在は、WEBメディアをメインに紙媒体を少々、車選びやお役立ち情報、自動運転などの最新テクノロジーなどを中心に執筆しています。元々好きなバイクや最近気になるドローンなどにも進出中!
続きを見る
閉じる