●クルマによって異なるモデルチェンジの定義。どこが変わったのかを見極めるのが重要
最近の新車界隈ではティザー広告といって、はやいタイミングで商品の情報を提供することでユーザーの興味を引き続けようというPRをすることが増えています。
2020年秋に登場するモデルでいっても、スバル・レヴォーグ、ホンダN-ONE、Honda e、レクサスISなどがティザーの真っ最中ですし、さらに先のモデルでいうと日産のフェアレディZやアリアといったモデルもプロトタイプを公開するなど情報を出し始めています。
さて、Honda eやアリアといったBEV(電気自動車)については、そのメカニズムから内外装まで完全新設計のブランニューモデルであることは明らかですが、ここで注目したいのはレクサスIS、N-ONE、レヴォーグ、そしてフェアレディZの4モデル。メーカー発表によるとレクサスISはマイナーチェンジで、それ以外の3台はフルモデルチェンジと銘打っています。
とはいえ、レクサスISについてはAピラーの形状が変わっていない(つまりフロントウインドウが同じ)くらいで、それ以外の外観については新デザインとなっています。
一方で、ホンダの軽自動車N-ONEはどう見ても外観のスチールパネル部分は先代モデルとまったく同じで、前後バンパーとグリルを変えただけにもかかわらずフルモデルチェンジと主張しているのです。
つまり見た目だけで考えると、レクサスISはフルモデルチェンジで、N-ONEはマイナーチェンジと言いたくなります。
登場前なので確実な情報とはいえない段階ですが、周辺情報から考察すると、レクサスISはプラットフォームやパワートレインの基本は変わっていないということです。逆に、N-ONEについてはプラットフォームとパワートレインは新世代のN-BOXなどと同じ設計になっているといいます。
このように、近年はアーキテクチャと呼ばれる基本設計を基準にいえば、たしかにレクサスISはマイナーチェンジ相当で、N-ONEはまごうことなきフルモデルチェンジです。
その意味では、スバル・レヴォーグはプラットフォームは新世代のSGP(スバルグローバルプラットフォーム)となり、エンジンは完全新設計の「CB18」型、内外装もBOLDERと呼ばれる新テイストで作り上げられていて、全身くまなくフルモデルチェンジと呼ぶのにふさわしい内容となっています。なにしろ、トランスミッションについても改良版といいながら変速比幅を広げた(現行:6.3→新型;8.1)というくらい別物になっているのです。
これこそフルモデルチェンジといえますが、だからといってエンジンは旧型の改良版を載せたスバル・インプレッサがフルモデルチェンジと呼ぶのはおかしいと指摘するのは、それはそれで不適切といえます。現行インプレッサのフルモデルチェンジでのトピックスはSGPを初採用したことでした。
プラットフォームが変わっていればフルモデルチェンジと呼ぶのは業界の通例といえます。そして、プラットフォームが改良版であっても、内外装が明らかに変わっていればフルモデルチェンジと呼ぶのもまた業界の慣例でした。
その感覚でいえばレクサスISはフルモデルチェンジと呼んでもおかしくないほどのビッグマイナーチェンジといえ、このレベルの改良をマイナーチェンジと呼ぶことがイレギュラーな対応といえるのかもしれません。
過去の例を挙げると、日産のBEV「リーフ」は先代モデルと現行型で、プラットフォームどころか外観でいえば前後ドアもそのままで、駆動モーターも同じ型式となっているほどキャリーオーバーの部分が多いのですが、フロントマスクなどが明確に変わったこと、バッテリーも進化していることで、フルモデルチェンジとメーカーは主張しましたし、スキンチェンジに近いと理解しつつも、市場もリーフのフルモデルチェンジを自然なものとして受け止めました。
このようにリーフがフルモデルチェンジだとすれば、レクサスISがマイナーチェンジというのは違和感を覚える部分もありますが、結局のところそこに明確な基準はなく、あくまでもメーカー判断によってフルモデルチェンジとマイナーチェンジが使い分けられているのが現実というわけです。
つまるところ、フルモデルチェンジやマイナーチェンジといったメーカー発表よりも、実質的にどこが変わったのかを見極める目をユーザーは持つことが必要といえるのかもしれません。ここまで見てきたように、パワートレイン/プラットフォーム/内外装の3要素において、どこが変わって、どの部分がキャリーオーバーなのかでモデルチェンジのスタンスやニューモデルの素性が見えてくるからです。
ところで日産といえば、新型フェアレディZプロトタイプを発表したばかり。
はたして新型フェアレディZが、パワートレイン/プラットフォーム/内外装といった3要素のすべてを一新するモデルチェンジなのか、それともどこかキャリーオーバーの部分があるのか、そのあたりを事前情報から読み取るのもクルマ好きにとっては面白いかもしれません。
(自動車コラムニスト・山本晋也)