余計な要素を廃しスッキリとした佇まいを。ヤリスクロスのミニマリストなデザインとは?

■他のトヨタSUVとはひと味違う、ヤリスクロスのエクステリア

発売とともに絶好調の「ライズ」と、やはり好調の新型「RAV4」「ハリアー」など、活況なSUV市場に対してラインナップの充実を図るトヨタが、空白のBセグメントを埋めるべく投入した「ヤリスクロス」。すでに絶賛の同車について、そのデザインをあらためて検証してみたいと思います。

ヤリスクロス・メイン
ヤリスよりひと回り大きい3ナンバーサイズながらコンパクトな凝縮感を備えたボディ

●テーマは凝縮感と最小限での豊かさ

今回のデザインテーマは「Robust & Minimalist」。凝縮感や力強さを表す「ロバスト」は、いまやカー・デザインでは頻出するキーワードですが、1700mmを超える全幅を含め、拡大された3サイズによるボディは、明らかに「ヤリス」よりひと回り大きく力強さを持ち、同時に余計な要素がほとんどないことがわかります。

キャビンはヤリスほど割り切ってはいませんが、しかし広さも誇示しないグラフィックがどこかシリーズであることを提示。また、10mm延びたホイールベースと四隅に置かれたタイヤがヤリス同様の安定感、スタンスのよさを打ち出しています。

衝突対応のためか、高めに設定されたフロントは、近年のトヨタらしくない表情が興味深いところ。たとえば妙に引き延ばされていないランプや、上下に分割することで巨大な「穴」としなかったグリル。ハの字を必要以上に誇張しないバンパー両端など、すっきりした表情は好ましいものです。

ヤリス・サイド
ボディ中央を絞り込み、前後フェンダーを強調したサイドビュー

サイドビューでは、リアドア部でのキャラクターラインの折れや、ボディ下部のアンダーカバーの三角形状で「絞り」を感じさせ、これにより前後ホイールアーチのボリューム感が強調されています。そのキャラクターラインはボディの芯を感じさせつつ、リアドア後端に集約させることで必要最小限の表現にとどまっています。さらに、前傾したホイールアーチは前後相似形で、前進するリズム感を表現。

惜しいのは、ブラックのルーフの場合リアピラーでの「塗り分け」が唐突なことで、これはヤリスと同じ。ツートンカラーはありとしても、ブラック部分はピラーを除いたルーフのみにするべきだったと思います。

リアビューでは、ヤリスに準じたランプ一体のブラックバンドの形状が若干複雑過ぎるように感じますが、そのほかは、フロント同様過剰なハの字表現がなく、実にすっきりした表情を見せています。よく見るとスクエアな形状も機能性の高さを表現します。

ヤリスクロス・ナナメリア
リアランプ一体型のブラックバンドはヤリスと共通の意匠

●本気モードでの底力?

さて、筆者がヤリスクロスを見てすぐに頭に浮かんだのは、初代「ヴィッツ」でした。日本市場はもちろん、欧州でも多くを売る戦略車となれば、それまでとは異なる次元で「本格派」を打ち出してみせるトヨタの底力です。

ヤリスクロス・リア
リアパネルは意外にもスクエアな造形。機能性の高さを表現する

ここ数年、少々煩雑なデザインが少なからず見られるトヨタですが、このヤリスクロスは細部にとらわれない、シンプルでバランスのよい、カタマリ感のある秀作と言えます。欧州スタジオの原案を採用したのも、初代ヴィッツを想起させる点かもしれません。

それならすべてのクルマを「本格派で」と思うところですが、そうではない幅広さ、バリエーションの豊かさこそがトヨタらしさであり、トヨタ自身もそれを十分認識しているのかもしれません。

(すぎもと たかよし)

この記事の著者

すぎもと たかよし 近影

すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
続きを見る
閉じる