ダイハツ対スズキから始まる軽自動車の燃費競争、抜きつ抜かれつの熾烈な戦いは日産・三菱を交えて勃発【スズキ100年史・第24回・第6章 その1】

1997(平成9)年、量産初のハイブリッド車「プリウス」が発売されたことを機に、普通車や小型車にハイブリッド時代が到来しました。さらに、21世紀を迎えると地球温暖化問題がクローズアップされ、クルマの燃費が大きなセールスポイントになっていきます。

一方軽自動車では、2011(平成23)年に発売されたダイハツの「ミライース」が火付け役となり、スズキとダイハツの抜きつ抜かれつの燃費トップ争いが始まりました。さらに、日産・三菱とホンダも参戦し、軽自動車の本格的な燃費競争が勃発したのでした。

最終第6章では、2010年以降に勃発した過激な燃費競争と終焉、その後のスズキの主要なモデルと、それらに採用された先進技術について紹介します。

第6章 燃費競争の終焉と新たな技術への挑戦

その1.軽自動車燃費競争の勃発

●燃費競争の先駆けとなったトヨタ「プリウス」

1997_初代プリウス
1997_初代プリウス

1997(平成9)年の地球温暖化防止に関する国際会議(COP3)で、温暖化ガスCO2の削減目標が合意され、世界的にCO2削減への意識が高まりました。これを背景に、自動車に対する燃費規制が世界中で強化され、燃費の良いクルマが注目されるようになりました。

1999_ホンダ初代インサイト
1999_ホンダ初代インサイト

日本では、1997(平成9)年にトヨタから量産初のハイブリッド車「プリウス」が発売され、1999(平成11)年にホンダから「インサイト」、2000(平成12)年には日産から「ティーノ・ハイブリッド」が発売され、ハイブリッド車による燃費競争が始まりました。

一方軽自動車は、1998(平成10)年に衝突安全強化のため規格変更が行われ、全長と全幅が拡大されました。その影響で車重が増えたこともあり、軽自動車の低燃費メリットが薄らいでいました。そこで、軽自動車もハイブリッド車や小型車に負けない燃費を目指して、エンジンの改良や軽量化が推進されました。

●スズキとダイハツの熾烈な戦い

2011_初代ミライース
2011_初代ミライース

最初に軽自動車の燃費競争を仕掛けたのは、2011(平成23)年にダイハツから発売された「ミライース」です。車体の軽量化やアイドルストップ、減速回生などの燃費低減技術「イース・テクノロジー」を採用して燃費30km/L(JC08モード)を達成し、ハイブリッドや電気自動車に次ぐ「第3のエコカー」をアピールしました。

ところがミライース発売の3ヶ月後には、スズキが「アルトエコ」で燃費30.2km/Lを達成して、ダイハツを抜き去りました。ダイハツは3ヶ月天下に終わったのです。ここがスズキとダイハツによる熾烈な低燃費競争の始まりでした。

2013_スズキアルトエコ
2013_スズキアルトエコ

鈴木修社長は「小数点以下の勝負でなく整数で勝負しなさい」と檄を飛ばしたと伝えられています。

2013(平成25)年「アルトエコ」が33.0km/Lを達成、その5か月後、こんどは「ミライース」が33.4km/Lで巻き返しました。最終的には、「ミライース」が35.5km/L、「アルトエコ」は35.0lm/L、「アルト」は37.0km/Lまで燃費を伸ばしたのでした。

●「エネチャージ」を採用しハイトワゴンでの戦いへ

先の「アルト」と「ミラ」はセダンですが、当然ながら人気の高いハイトワゴンにも燃費競争は波及しました。

2012_5代目ワゴンR
2012_5代目ワゴンR

2012(平成24)年にスズキが発売した5代目「ワゴンR」は、減速回生制御の「エネチャージ」を採用して燃費28.8km/Lを達成しました。ところが、この3ヶ月後にダイハツは燃費29.0km/hの「ムーヴ」を発売して巻き返し、ミライースとアルトエコのときとはまったく逆のことが起こったのです。

2012_ダイハツ5代目ムーヴ
2012_ダイハツ5代目ムーヴ

そして、スズキとダイハツの戦いに割って入ってきた日産・三菱は、2013(平成25)年に燃費29.2km/Lの「デイズ」と「ekワゴン」を発売しました。しかし、その1ヶ月後にはスズキが改良型ワゴンRで30.0km/Lを達成し、日産・三菱は1ヶ月天下で終わりました。同年にはホンダの「N-WGN」も参入しましたが、燃費は29.2km/Lで燃費一番は狙いませんでした。

2013_日産初代デイズ
2013_日産初代デイズ

その後、スズキは2014(平成26)年にエネチャージを進化させた「S-エネチャージ」を採用したワゴンRで32.4km/Lを達成。最終的には、ムーヴが31.0km/L、ワゴンRが33.4km/Lまで燃費を伸ばしました。

 

 

エネチャージコンセプト
エネチャージコンセプト

激しい燃費競争の中で、スズキは減速回生を積極的に活用したマイルドハイブリッド「S-エネチャージ」などの技術革新によって、燃費トップの座を維持したのでした。

 

(文:Mr.ソラン 写真:トヨタ自動車、ホンダ、ダイハツ工業、スズキ、日産自動車)

第25回に続く。


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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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