■トラックドライバーの仕事場はどう変わった?
ドイツのダイムラーが、メディア向けに「この60年でトラックドライバーの仕事場(コクピット)は、どう変化してきたのか」というテーマで、トラックのコクピットの変遷を公開しました。
60年間の変化がなかなか興味深いものでしたので、ここに紹介してみようと思います。
トラックのコクピットは、まずは機能性・実用性が第一であるはず。乗用車ほどの急激な変化ではないにしても、トラックドライバーの仕事場であるコクピットは着実に進化・変化を遂げているようです。
ダイムラーは「さまざまなモデルシリーズのコックピットやステアリングホイールを見てみると、トラックのHMI(ヒューマンマシンインターフェース)が過去数十年の間にどのような技術的変化を遂げてきたのかがよくわかる」と説明しています。
人間工学に基づいた設計や高い快適性、コネクティビティの採用などの変遷をチェックしてみましょう。
●トラックのコクピットの変遷
今から60年以上前、ショートノーズ型の大型トラックに搭載されていたコックピットは、1958年から1990年代まで製造され、その堅牢性の高さから現在でも伝説的な存在となっているそうです。
このコクピットには、シートメタル(鉄板や非鉄金属板)のダッシュボード、巨大かつ細身のフェノール樹脂製のステアリングホイール、さまざまなスイッチ類、そして灰皿ももちろんあります。
筆者と同い年になる1972年製、メルセデス・ベンツ1924トラックのコックピット。ドライバーは短いボンネットの下にある不滅のOM 355型「アフリカ・エンジン」の働きを監視していました。
さらに1984年から1998年にかけてラインオフされたライトクラス、LKキャブオーバーエンジントラックモデルのステアリングホイールとインパネのほか、1989年に製造されたメルセデス・ベンツ1317トラクターユニットのコクピットの写真もあります。
1980年代の茶色を基調とし、スイッチの数は少なくなり、ダッシュボードの上端に配置された機能ランプや警告ランプが特徴です。
2000年代に入ると一気に現代的なコクピットになります。
2003年から2008年にかけて製造された2代目メルセデス・ベンツ「アクトロス」は、運転席用エアバッグがステアリング内に装備され、人間工学に基づいた環境が用意されています。
シート、ステアリングホイール、スイッチ類など、ドライバーに合わせて個別に設定できるようになっています。ドライバーを包み込むようなコクピットには、多くの操作系が常に手の届く場所に配置。また、ギアや作動中のアシスタンスシステムの視覚化など、デジタルセンターディスプレイが初搭載されるなど、長足の進歩を遂げています。
2018年にはトラックのコクピットが完全にデジタル化されています。マルチメディア・コックピットがメルセデス・ベンツ「アクトロス」の5代目に採用。
2つの高解像度スクリーンが採用され、センターディスプレイは各機能をドライバーが設定できます。さらに、ドライバー支援システムやパワートレインコントロールなどのアシスタンスシステムを搭載。
2つめのディスプレイはタッチスクリーンで、スマホのように操作できます。多彩な機能が与えられたステアリングホイールのスイッチも特徴です。AピラーにはMirrorCamと呼ばれる電子カメラ表示用の2つのモニターが備えられています。車両後方の交通状況を表示するのに加えて、車線変更の際にも安全を確保。
デジタルリヤビューミラーの画像などにより、安全にコーナーをクリアするのに貢献します。さらに、マルチメディア・コックピットにはコネクティビティも与えられ、トラックデータセンターを介してクラウドと常時接続されています。
コロナ禍により、世界中の多くの業種でテレワーク、リモートワークが当たり前になりつつありますが、トラックの完全自動運転、隊列走行が実用化される頃には、さらにコクピットは大きく変わりそうです。
(塚田勝弘)