EVの動力性能試験とは?電池の充放電を考慮して専用試験を実施【自動車用語辞典:パワートレイン系の試験編】

■電池の充電状態で出力が変化するEVでは性能試験の前の前提条件を規定

●EVの最高速度は、満充電状態から30分間または1kmの間維持できる速度として規定

EVは広いトルクバンドを持ち、低速から高いトルクを発揮できるのでスムーズで力強い加速が得られます。
一方、電池の充電状態によって電池出力、モーター出力が影響されるので、電池の充電状態を考慮した動力性能の試験が必要です。

エンジン車とは異なるEVの動力性能試験方法について解説していきます。

●EVの基本構成

EVの構成はシンプルです。

二次電池とその充放電を制御するコントローラー、モーターとインバーター、車載充電器などで構成され、エンジン車で必要な変速機や吸排気系、多くの補機類などが不要です。

外部充電のための充電口は2種類用意されています。
家庭用の100Vまたは200V電源に接続する車載充電器(2~3kW程度)と、充電スタンドの急速充電器(数10kW)です。

車載電池としてはリチウムイオン電池が使われます。正負極で発生する酸化・還元反応で電力を発生させ、正負極間でリチウムイオンが行き来することによって充電と放電を繰り返すことができます。

他の電池に比べてエネルギー密度が高く、大きなパワーが得られる、寿命が長いなどのメリットがあります。しかしEV用としてはまだ大量の電池セルが必要なため、重量が増える、コストが高いという課題があります。

EVの基本構成
EVの基本構成

●駆動モーターの出力特性

エンジン車はトルクバンドが狭いため、変速機構(トランスミッション)が必要です。

一方EVの駆動用モーターの出力はトルクバンドが広く、発進や登坂のような低速時に大きなトルク特性、そして中高速域の加速追い越し時に最大出力となる特性を持つため、基本的には変速機構が不要です。

ただしEVの電池は外部から充電されなければ、走行とともに充電率(SOC)が低下してモーターの出力も低下します。そのため、EVでは電池のSOCを考慮した動力試験法が規定されています。

以下に、EVの動力試験方法について解説します。

回転-トルク特性
回転-トルク特性

●最高速度試験方法とは

エンジン車の最高速度は、短い距離(100mないし200m)を連続的に走行できる最高速度です。

EVの場合、モーターやインバーターの耐熱性、電池の特性の問題から、瞬間的に最高速度が出せてもそれを維持できません。

したがってEVの最高速度は、「30分最高速度試験方法」と、追い越し加速度を考慮した1km区間を持続して走行可能な実用最高速度を求める「1km区間最高速度試験方法」が規定されています。

両試験とも、満充電にした電池で試験を行います。

●加速試験方法とは

加速試験の前に電池の充電状態を調整するため、まず満充電状態で最高速度の80%の一定速度で15分間走行します。

加速試験は、停止状態から200mおよび400mまでの到達時間、ならびに車速が10km/hずつ増速するのに要する時間を計測し、評価します。

●登坂試験方法とは

最大登坂勾配を求める急坂路試験と実用登坂速度を求める長坂路試験があります。

急坂路試験は、満充電状態で初速5km/h以下で進入して坂路10m区間を8秒以下で登坂できる最大勾配を求める試験です。

長坂路試験は、12%勾配の区間1kmを持続できる最高速度で適時変速させて、最も速く登坂したときの速度を求めます。


EVはガソリン車より速いのかという質問に対しては、それぞれの仕様や特徴が異なるのでどちらとも言えません。

ただしEVはガソリン車に対して力強いと言われます。これはモーターの低速トルクはエンジンに対して大きいため、発進加速や追い越し加速などの条件でEVが圧倒的に優れているからです。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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