自動車用特殊鋼とは?鉄に炭素以外の元素を添加してできる特殊な合金鋼【自動車用語辞典:クルマの材料編】

■エンジンやトランスミッション、足回りなどクルマの性能に関わる重要な部品に使用

●要求や用途に応じて、硬度や強度、耐熱性、耐摩耗性などの特性を向上させた特殊な鋼

特殊鋼は、鉄に炭素以外のさまざまな元素を加えた合金鋼です。添加する元素や量の調整によってさまざまな特性が向上できるので、要求や用途に応じて多岐にわたる特殊鋼が存在します。

機能部品材料として重要な役割を果たしている特殊鋼について、解説していきます。

●特殊鋼とは

特殊鋼とは「鉄に炭素以外のさまざまな元素を添加した合金鋼」です。要求や用途に応じてさまざまな合金化を行い、鋼の性質を向上させています。

添加する元素や量の調整によって、硬度や強度、耐熱性、耐摩耗性、加工しやすさなどの特性が向上できます。

例えば、Ni(ニッケル)を添加すると粘りと強度が増大し、Mo(モリブデン)を添加すると高温での強度と硬度が増大します。またB(ボロン)は、微量の添加で硬さが増します。

ステンレス鋼も特殊鋼の一種で、Cr(クロム)を加えて耐食性向上を図っています。

●特殊鋼の種類と用途

添加するNi、Mo、B、Cr、Mn(マンガン)、V(バナジウム)、Ti(チタン)などの添加元素の種類や量によって、特殊な特性の鋼が作れます。

・熱に強い特殊鋼
高温で摩耗しにくいので、航空機や自動車用エンジンの構成部品に使用

・硬い特殊鋼
摩耗に強く変形しにくいので、切削工具や金属、プラスチックを成形する際の金型に使用

・強い特殊鋼
繰り返される引張り、圧縮、回転、往復運動などの力に対する耐久信頼性が高いので、自動車や機械の構成部品として軽量化、長寿命化に寄与

・磁性のある特殊鋼
磁石につく特性を利用して、モーターや記録装置に使用

・磁性を抑える特殊鋼
磁石につかない特性を利用して、強い磁場を用いる環境で磁化されてはならない機器に使用

・その他
錆びにくい特殊鋼、加工しやすい特殊鋼、しなやかな特殊鋼など

特殊鋼の適用例
特殊鋼の適用例

●適用例

エンジンのクランクシャフトやコンロッド、吸排気バルブ、カムシャフト、バルブスプリングなど、また排気系部品のターボインペラやタービンハウジング、排気マニホールド、マフラーなどには高い硬度や耐熱性、耐食性などが求められるので特殊鋼が使われます。

その他、トランスミッションのギヤやCVTプーリーなど、足回り関連のホイールハブ、ナックルスピンドルなど、ステアリング関連の出力軸やギヤなど多くの部品に使われています。

●特殊鋼を使ったクランクシャフトの製造

エンジンのクランクシャフトは、直径100mm程度の合金設計された特殊鋼を素材として「鍛造成形」で製造されます。鍛造成形とは、金属を金槌で叩く、金型で圧力を加えることで、鋼材内部の空隙をつぶして結晶を微細化し、結晶の方向を整えて強度を高める手法です。

古くから、日本刀などがこの手法で作られてきました。鍛造は素材の加熱温度により「熱間鍛造」と「冷間鍛造」に分けられます。

熱間鍛造とは、金属材料を再結晶温度以上に加熱して柔らかい状態にした上で、プレス機で圧力を加え、金型成形する金属加工法です。金属部品を成形すると同時に、高い強度と靭性が得られるのが特徴です。

成形性が良く、また「鍛錬」効果があり、材料の機械的性能が向上します。トランスミッションのギヤも同様の熱間鍛造で製造されます。

一方冷間鍛造は、素材を常温のままで成形します。熱間鍛造に比べて成形性で劣りますが、寸法精度が良くバリ取りや切削加工などの後工程を省略できるというメリットがあります。

最近は、高精度の鍛造部品の要求が高まり、熱間鍛造から冷間鍛造に変更される部品が増えつつあります。


材料構成比でみれば特殊鋼の割合は、10~15%程度ですが、エンジンや駆動系、足回りなどクルマの性能に関わる重要な部品に使われています。

特に重要なのは耐久信頼性なので、これまでも種々の改良が図られてきました。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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